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アートネタなど日々のあれこれ

上野の盛夏

2018-07-31 19:54:34 | 美術
暑い中、上野で展覧会のはしごをしてきました。

まずは、東京国立博物館の「縄文」展。縄文に特化した展覧会を見るのは初めてです。縄文系展覧会の決定版ともいえるような充実した展覧会でした。「暮らしの美」の章には可愛らしい縄文ポシェットが。この中に木の実やらを入れていたのでしょうか。土器のアクセサリーも。「美のうねり」の章には、いかにも縄文、なうねる土器たちが。ダイナミックかつ繊細な土器の数々はまさに圧巻。たしかにピカソも太郎もびっくりという感じです。「美の競演」の章には、同時代の他国の土器が展示されています。中国、中東、エジプト・・・これらを見ると、やはり縄文の土器はある意味特殊だったんだな、と思わされます。「縄文美の最たるもの」には国宝が展示されています。教科書でおなじみの火炎式土器や国宝土偶たちが厳かに。女神さまも中空さんも合掌さんも。私は前期に行ったので、国宝土偶勢揃いは見逃したのですが、いつか全部見てみたいものです。「祈りの美、祈りの形」の章には、漫画に出てきそうなグラサン土偶(遮光器土偶)が。動物土偶たちもユニーク。「新たに紡がれる美」には著名な作家たちの愛蔵品が展示されていました。最後は岡本太郎に影響を与えた作品で締めです。そんなこんなで縄文ワールドを満喫・・・。縄文人たちのパワーに圧倒されつつも元気をもらえる展覧会でした。かつての日本人にはこれほどクリエイティブかつエネルギッシュなものを造れる力があったんだな・・・と。

さて、鑑賞後は早めのランチ・・・ということで、法隆寺宝物館の中のホテルオークラガーデンテラスに行ってまいりました。選んだのはビーフストロガノフ。少々お高めではありますが、さすがに美味しゅうございました。ミニサラダはシャキシャキ、ターメリックライスはフカフカ、ビーフはトロトロ・・・。

続いて向かったのは、国立西洋美術館の「ミケランジェロと理想の身体」展。世界に40体しかないミケランジェロの彫刻のうち2点がやってくるという展覧会です。こういう場合、えてして一点豪華主義的な展覧会になりがちですが、この展覧会は人体の理想の美というストーリーが用意されていました。プット―たちはむくむくと愛らしく、筋骨隆々の青年たちは逞しく。かと思うと、矢がぶすぶす刺さった「聖セバスティアヌス」も。そして肝腎のミケランジェロの作品は・・・何というか、気高い。石の中から自分の意志で生まれてきたかのように見えてしまいます。「ダヴィデ=アポロ」は美しくも逞しく、角度によっては艶めかしくも見えるのが不思議。「若き洗礼者ヨハネ」はヨハネ像にしては珍しく、8歳くらいの子どもを想定したようですが、何もかも見通すような眼。この像については本体のみならず、修復の努力にも感動を覚えます。ミケランジェロに影響を与えたというラオコーン像の再現作品も。雄叫びが聴こえてきそう・・・。それにしても見事に男ばかりの展覧会でしたね・・・。

最後は上野の森美術館の「ミラクル・エッシャー」展(この展覧会は既に終了しています)。エッシャーのだまし絵はもういいいかな・・・と思っていたのですが、あまりにも世評が高いので行ってまいりました。自分が知っていたのはエッシャーのほんの一面でしかなかったのだな、ということを思い知らされた展覧会でした。これほど多岐にわたる作品があったのですね。展覧会は科学、聖書、風景、人物、広告、技法、反射、錯視の8つの章で構成されていました。意外にツボだったのが「聖書」の章の天地創造シリーズ。「バベルの塔」も目眩がしそうな作品。風景ではアマルフィ海岸を描いた作品が印象深かったです。この段々が後の作品へとつながるのですね。「人物」では「婚姻の絆」。いろいろ思うところがあったのでしょうか。「広告」では「オランダ蔵書協会」のための年賀状。この作品に込められた思い・・・。そして何といっても「メタモルフォーゼ」。文字通り、圧巻でした。世界はきっとつながっている・・・。

そんなわけで上野の盛夏を堪能してまいりました。上野の秋はさらに凄いことになりそうです。楽しみ、楽しみ・・・。

建築の日本

2018-07-10 00:58:27 | 美術
森美術館で「建築の日本展」を見てきました。

森美術館15周年記念と銘打っているだけあって、かなり気合の入った企画でした。なんと100プロジェクト、400点を超えるという、ボリューミーな展示です。いやもう、満腹のあまり、倒れそうでした・・・。

会場に入るとまずは、「ミラノ万博2015日本館」の、立体木格子がお出迎え。でっかい・・・。もう最初っから気合入ってます。せっかくなので写真をパチリ。「会津さざえ堂」も螺旋状の面白い形。かと思うと「古代出雲大社本殿」の1/50分模型が。これも大きい・・・。その後も名建築のオンパレードなのですが、特に驚いたのが、1970年の大阪万博の「東芝IHI館」の模型。若き日の黒川紀章、凄すぎる・・・。そしてもう一つ驚いたのが「待庵」の原寸大模型。一度に3名様限定ですが、中に入ることもできるので、せっかくだから入ってみました。本物は中には入れないらしいし。まるで隠れ家のよう、人が生きていくのに必要なミニマムの空間という感じです。なぜか子どもの頃、友達と裏山に廃材で作った「ひみつきち」のことを思い出してしまいました。このわびさび空間の前に広がるのが、あの六本木ヒルズの天空の光景というのがなんともシュールです。「丹下健三自邸」は床の裏まで緻密だったし、伊藤忠太の「祇園閣」もてっぺんの鳥さんがプリティ。ライゾマティクスの映像作品“power of scale”もスタイリッシュでしたね・・・。それにしても、世界的にも最もと言っていいほど有名で、私も大好きなあの建築家の作品が一つも出てこない・・・なぜ、なぜ?と頭の中で疑問符がずっと渦巻いていたのですが、最後の最後になってあの作品が登場・・・私が一番好きなあの作品が出てきて、本当に嬉しかったです。

つらつらと書いてきましたが、もっともっと沢山の作品がありました。もう、とてもじゃないけれど消化しきれず、書ききれず、というところです。でも、この展覧会のタイトルが「日本の建築」ではなく「建築の日本」だっという意味は、おぼろげながら見えてきたようには思います。建築を通してみる「日本」、みたいな意味合いでしょうか。建築にはその国の土地やら歴史やら人々の感性やら、すべてが出てくるのかもしれませんね。それにしても、日本って思いのほか、建築大国だったのかも、と今さらながら思い知らされました。そしてやはり、木の国、水の国だ・・・。

さて、例によって鑑賞後はランチを・・・ということで、麻布十番の方へ少し歩いたところにある、「くろさわ」に寄ってきました。いただいたのは、豚肉入りカレーうどんと数量限定のメンチカツ。カレーうどんも美味しかったのですが、メンチカツが絶品でした。なんとこのお店、黒沢明監督のご子息のお店らしいです。そして、辛い物を食べた後は甘いものが欲しくなり・・・麻布十番駅近くの「塩屋」で雪塩ソフトクリームを。甘味と塩味のバランスが絶妙で、美味しゅうございました。


松濤散歩

2018-07-08 12:30:06 | 美術
渋谷で展覧会のはしごをしてきました。松濤マダムになったつもりで・・・(←何のこっちゃ)。

最初に伺ったのは戸栗美術館。金襴手の展覧会です(この展覧会は既に終了しています)。戸栗美術館に伺うのはかなり久しぶり・・・この展覧会のことも当初ノーマークだったのですが、ちょくちょく拝見しているブログでおすすめされていたので行ってまいりました。焼物というと、渋い染付の方が一段上に見られる傾向があるような気もしますが、金襴手だって楽しい!と思わせてくれる展覧会でした。元禄時代に成立したという古伊万里金襴手様式。西欧の王侯貴族向けとして輸出されるようになり、明治になると鑑賞品として評価されるようになります。丁寧な解説にも助けられ、その流れが概観できました。どの作品も華やかで、見ていて楽しい。「型物」シリーズが殊に素晴らしかったです。真ん中に鯉が描かれた「色絵 荒磯文鉢」は赤青緑の対比が鮮やか。柿右衛門様式のものは余白を生かしています。「色絵花卉紋輪花皿」はモダンで綺麗。海外向けのものはやはり派手になる模様。大ぶりな「色絵獅子牡丹菊梅文蓋付壺」もゴージャス。面白いものでは「色絵雪輪亀甲文桃形皿」。桃の形がプリティです。この展覧会にはA4一枚の展示解説シートもついていて、これがなかなかに親切設計でした。中でもツボだったのが、18世紀、ザクセン選帝侯アウグストが、プロイセン王が所有する中国・清朝の磁器151点と自国の竜騎士600人とを交換してしまったという話。竜騎士、立つ瀬ないやん・・・。

続いて伺ったのが、松濤美術館。こちらはアンティーク・レースの展覧会です。この展覧会が思いのほか凄かった・・・。世界的なアンティーク・レースのコレクター、ダイアン・クライス氏の数万点にも及ぶコレクションから170点を紹介するという展覧会なのですが、質量ともに圧倒的でした。そして、どれもこれも気が遠くなるような超絶技巧。マリー・アントワネットやらナポレオンやらヴィクトリア女王やら、歴史上の人物に由来するロイヤル・レースも沢山・・・。面白いところではミレーの「落穂拾い」や「晩鐘」をかたどったレース作品も。レースはキリスト教の文化に根差したものでもありました。洗礼や結婚、喪の際に使用されたレースも展示されていましたね。レースのベビー服も愛らしく、ウェディングドレスは夢のよう。喪の黒レースも。故人の髪の毛が使用されたレースもありました。最後は「ウォー・レース(戦争のレース)」の展示。第一次世界大戦中、困窮したレース職人を救うため、アメリカ大統領が先頭に立って支援したのです。こういう尽力もあって、レースの伝統が受け継がれてきたのですね・・・。

帰りに東急本店の中にある丸善&ジュンク堂書店に寄ってきました。先のブログで紹介されていた美術書カタログ「defrag2」をもらうために・・・。無料でもらっちゃうのが申し訳ないくらい、充実したカタログでした。子どもができてから読書にかけられる時間がめっきり減ってしまって、本を買っても、ほとんど積読になってしまっているのですが、それでもあれも読みたい、これも読みたい、と夢が膨らんでしまいます。

そんなわけで、松濤での美術館めぐりを楽しんできました。わずかな間ですが、松濤マダム気分(?)を味わさせてもらいましたよ・・・。それにしても松濤マダムって、東急本店でお買い物して、シェ・松尾とかでランチして、戸栗美術館や松濤美術館でアート鑑賞して、松濤公園をお散歩、みたいな生活してるのかなぁ・・・(←妄想)。

森羅万象への道

2018-07-07 13:28:18 | 美術
世田谷美術館で「人間・高山辰雄展」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。

高山氏の作品自体はこれまで何度となく目にしてきましたが、個展を見るのはたぶん初めて。やはり高山氏の作品は個展で見ることで見えてくるものがある・・・とあらためて実感した展覧会でした。

会場入口近くのところにあった「母」にまず眼を奪われました。母の神秘。後の奥様がモデルを務めた「砂丘」も瑞々しい。残念だったのは、今回、後期に伺ったため「穹」が見られなかったこと。ミニチュア版はあったのですが・・・いつか実物を見てみたいものです。「食べる」も、見るのものに何とも言えない感情を引き起こします。まぁ、うちの子たちはこんなに行儀よくご飯は食べませんけど・・・(爆)。「牡丹(阿蘭陀壺に)」も、もの言わぬ花たちが密かにささやいていそう。「聖家族」のシリーズも人間の原点を見るようです。面白いところでは「トラックトレイラー」。運ちゃんがいい感じの人だったので、描くことにしたんだそうな・・・。そして、今回、絵の前から動けなくなった一枚が「由布の里道」。青い靄が立ち込める山里。えも言われぬ空気感に引きこまれ、その場に立ち尽くしてしまいました。最晩年の「自寫像二〇〇六年」も、画家の越し方がにじみ出てくるような作品です。今回、高山氏の本のしごともいくつか紹介されていました。子どもの頃、いつも綺麗だな、と思って眺めていた円地文子訳の源氏物語の装丁が氏の仕事だったことを初めて知り、旧友に街中で偶然、再会したような小さな驚きがありました。

氏の作品は静謐なのですが、どれも見ていると、じわじわと何かが体の中に染み入ってくるような作品ばかりです。高山氏の作品だけで展覧会が構成されることで、展覧会全体が一つのシンフォニーのようになるというか・・・そういうマジックを体験しました。そして、会場では高山氏の言葉もいくつか紹介されていました。どれも氏の人柄をしのばせるものばかりでしたが、とりわけ、冒頭で紹介されていた「人間を描きたい。なんとか人間が描けたらと真底から思っている」という言葉に胸を衝かれるような思いがしました。

今回、同時開催されていた「それぞれのふたり 小堀四郎と村井正誠」も見てきました。20世紀のはじめに生まれ、同時期にパリに留学し、世田谷にアトリエを構えていたというお二人、小堀氏は具象、村井氏は抽象、と対照的な道を歩むのですが・・・。小堀氏の作品では何といってもやはり、「無限静寂-信・望・愛」が素晴らしかったです。立ち尽くしてしまいました・・・。氏が外国で、飛行機のトラブルで足止めを食らった時に目にした光景なのだとか。「冬枯れの美」も枯れた美しさ。ちょっとびっくりしたのは、氏は森杏奴(森鴎外の娘)さんのだんなさんだったんですね・・・。村井氏の作品は抽象表現ですが、「人間」にこだわったというのが面白い。鮮やかな色彩と黒とのコントラストが目に残ります。この二人は奇しくも、21世紀を目前に、相次ぐようにしてなくなります。

そんなわけで、ひさびさに世田谷美術館での鑑賞を堪能してまいりました。この美術館、少々アクセスには難ありなのですが、行くと必ず、行った甲斐あったな~、という展覧会に巡り合えますよね。砧公園の緑も気持ちよかったな・・・。

本のしごと

2018-07-06 21:03:06 | 美術
東京都庭園美術館で、「フランス絵本の世界展」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。庭園美術館でフランス絵本・・・って、なんだかハマり過ぎの企画ですよね。当初、3歳の娘を連れて行こうかと思ったのですが、あのアンティーク空間を彼女が、きゃっほー、とか言いながら駈けずり回る図を想像して断念・・・ひとりでさくっと行ってまいりました。

特に最初のお部屋の絵本が素晴らしかったです。もう、息をのむような美しさ。「子どもの友」や、「ガリヴァー旅行記」「ラ・フォンテーヌの寓話」「ペロー童話集」などなど。「八十日間世界一周」や「海底二万里」もゴージャス。「レ・ミゼラブル」のおなじみの挿絵も。モンヴェルの「ジャンヌ・ダルグ」のシリーズも見ごたえがありました。かと思うと「象のババール」とか、なつかしいものも。意外にツボだったのが、本館の方にひっそりと飾られていた「青い鳥」。青が綺麗・・・。子どもの絵本と言えども手を抜かないというか、アートにしてしまうというかなフランス人、おそるべし・・・。

ところで、この展覧会は鹿島茂のコレクションによるものですが、不詳わたくし、鹿島氏のことは何も知りませんでした。貴重なコレクション→きっとお金持ちに違いない→鹿島といえば鹿島○○→もしかして、鹿島○○の御曹司?とか思ってしまったのですが、フランス文学者さんだったんですね。驚きました・・・。

さて、鑑賞後は例によって甘いもの・・・ということで、「カフェ・テイエン」に寄ってまいりました。たまにはささやかな贅沢・・・ということで、展覧会にちなんだ期間限定のケーキ「リブレ」とセカンドフラッシュのダージリンを頼みました。このリブレのビジュアルがすごい・・・アンティーク本のような形になっています。層をなしたクリームと表紙のチョコ、アクセントのオレンジピールが効いていて、大変おいしゅうございました。紅茶も爽やか、かつ味わい深かったです。

その後、庭園美術館近くの目黒区美術館で「藤田嗣治 本の仕事」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。藤田嗣治というと、乳白色の裸婦だったり、戦争画だったりのイメージが強いのですが、本のしごともこんなにしていたのですね。絵手紙も数多く展示されていました。藤田の生の声を聞くようで面白かったです。奥さんと離れて暮らしていた頃の、奥さんの到来を待ち焦がれる手紙とか。けっこうまめに家事もしていたみたい・・・。藤田が絵を描いたテーブルなんかもありました。机に置かれるものが既に描かれてあるという・・・。展覧会はフランス向けの作品、日本向けの作品、猫の作品で構成されていました。今回、この展示であらためて思い知ったのは、藤田の線の凄さ。さらさらっと描いたようにしか見えない線にえらい説得力があるというか・・・。例えば初めての絵本だったという「詩数篇」の女の顔。それにしても、ほんとに何でも描けちゃう人だったんですね。「海龍」もみごとでした・・・。終始、質量ともに藤田のパワーに圧倒された展示でしたが、1階の猫の部屋はなごみの空間。これ欲しい・・・と、心底思ってしまった猫の絵も。

そんなこんなで、本にちなんだ二つの展覧会を楽しんでまいりました。本の内側だけでなく、外側にもこんなに豊かな世界が広がっていたのですね。これから本を見る目が変わりそうです・・・。





線の造形、線の空間

2018-07-05 21:33:34 | 美術
智美術館で「線の造形、線の空間」を見てきました。

不肖わたくし、展覧会めぐりを始めてけっこうな年月が経ちますが、竹の作品に特化した展覧会を見るのは初めてです。この美術館のアダルトかつシックな雰囲気に絶妙にマッチした展覧会でした。

しょっぱな、美術館のエントランス、あの螺旋階段のある吹き抜け空間に立ち上る、四代田辺竹雲斎の「Connection」。これが凄いです。しかも、この上ないくらいこの空間にハマっていて・・・もうとにかく、実物を見にきてくださいな・・・としか言いようがない感じ・・・。

展覧会は大阪を拠点に活動した田辺家と東京を拠点に活動した飯塚家の作品で構成されています。初代田辺竹雲斎の作品は、まさに初代の名にふさわしい品格。どの作品も格調高いのですが、ツボにハマってしまったのは「蝉籃」。愛らしい。二代田辺竹雲斎の作品は精緻かつ繊細。「螺旋紋花籃」は流れるような曲線がみごとです。三代目はモダンかつユニーク。一瞬、スピーカーのように見えてしまった「方円」、ビルを模した「都会」も面白い。四代目はダイナミックかつスタイリッシュ。冒頭の「Connection」も凄いのですが、「もののふ」もクールな造形で恰好よかった・・・。

対する飯塚家。初代飯塚琅玕斎の作品は躍動感が溢れています。「盛籃 雲龍」のあの把手。
今にも動き出しそう・・・。かと思うと「華籃 富貴」のような丹念な作品も。小玕斎の作品では「大海」や「四海」のような海をイメージした作品がとりわけ面白かったです。二代飯塚鳳齋の「硯筥」は玉手箱のようで思わず見入ってしまいました。

これらの作品が智美術館のダークな空間、ほの暗い照明とも相まって、神秘的な空間が生まれていました。心なしか、竹の香りも漂っていたような。作品を見て回りながら、竹は生き物、そんな言葉が浮かんで離れませんでした・・・。

フジコ・ヘミングの時間

2018-07-01 15:32:49 | 映画
TOHOシネマズ二子玉川で「フジコ・ヘミングの時間」を見てきました。

フジコ・ヘミングといえば、もうかなり前になりますが、生演奏を聴きにいきました。もうけっこうなお年のはず・・・ですが、今もお元気に活動されているのですね(以下、ネタバレ気味です)。

80代になっても、なお、世界中を飛び回って演奏活動を続けるフジコさん。そのコンサートやプライベートでの姿を、これまた世界中を飛び回って追ったドキュメンタリーです。フジコさんの演奏も話も堪能できました。フジコ節も今なお健在。このしゃべり、誰かに似ているなぁ・・・と思ったら、そうだ、樹木希林だ・・・(笑)。品と毒のある独特の話しぶりです。

音楽にまつわる話もたくさん聞けます。一番印象深かったのは、師匠のクロイツァー氏から、歌え、と言われていたということ。フジコさんのピアノって独特ですよね。緩急自在というか。ずっと不思議に思っていましたが、彼女にとってピアノは「弾く」ものじゃなくて「歌う」ものだったんだな、と。だから、ひたすらカンタービレなのかも。また、「私の演奏はアンティーク」とも。いわれてみれば、彼女のピアノはお菓子で言うとザッハトルテみたいなものかも、と思いました。そして、今でも一日4時間は練習するのだそうです。「画家は一日休んでも続きを描けばいいけど、ピアノは一日練習を休むと元に戻ってしまう」というようなことを言っていました。ピアニストって半ばアスリートのようなものですもんね・・・。ピアノを練習するシーンもありました。「気を入れていないアヴェ・マリア」と「気を入れたアヴェ・マリア」の弾き比べも何だか面白かった・・・。

演奏シーンもふんだんにありました。ラスト近くの「ラ・カンパネラ」ももちろん素晴らしかったけれど、最後の「月の光」で泣きそうになりました。私にとっても大好きな、大好きな曲だけれど、こんな月の光、聴いたことないわ・・・。意外なところでは「サマー・タイム」もかっこよかった。あくまでクラシックの弾き方なんだけれど、思いのほかブルージー。そういえば、レストランで弾いてたこともあるって言ってましたね・・・。

丁寧につくられたドキュメンタリーで、相当満足しております。弟、ウルフまで登場していたし・・・いい味出してます、この弟さん。数奇な人生をたどり、「私の出番は天国に行ってから」と思っていたフジコさん。晩年近くになってからのブレイクは、「神様が波に乗せてくれた」と。ブレイク時、彼女のピアノには賛否両論あった記憶がありますが、いまだに、これだけ多くの人を惹きつけているのは、彼女のピアノが、人はなんで歌うのか、ということを思い出させてくれるからかも、と思ってしまいます。聴いている私も当時よりはかなり年を食ってしまって(笑)、世界にはもの凄くテクニカルだったり、クレバーだったりするピアニストはたくさんいるけれど、ピアニストの価値は最後は心(魂)と指をどれだけ近づけられるか、というところなのかもと思うようになりました。そんなわけで、日曜の朝からいい時間を過ごさせてもらいました。ありがとう、フジコさん(そして、監督さん)・・・。