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アートネタなど日々のあれこれ

2017年ベスト

2017-12-30 00:06:37 | ベスト
そんなわけで、2017年もあとわずか。ということで、僭越ながら、今年私が見た/聴いたものからベストを選んでみたいと思います。基準は例によって、あくまで私個人に与えたインパクトの強さ、ということで・・・。

◯美術
 ・ミュシャ展 スラヴ叙事詩の全作品が一堂に会したというインパクトもさることながら・・・渾身の作にもかかわらず、時代遅れとして評価されなかったばかりか、ナチスの尋問まで受けて失意のまま亡くなったミュシャ。しかし、100年の時を超え、この作品が極東の島国で多くの人々を感動させているというこの事実・・・。
 ・怖い絵展 作品より行列の方がよっぽど怖い・・・とまで言われた、大人気の展覧会。普段はあまり美術館にいそうではない感じの若い方が多かったのも印象的でした。企画の勝利ですね・・・。絵画を文脈で見る面白さをあらためて教えてくれました。
 ・日本の家 日本が世界に誇る(!?)狭小住宅の世界。しかしながら、狭いからこそ生まれるアイデアがあるということを、まざまざと見せつけられました。本当に面白いというか、ユニークな家が多かったなぁ・・・。

あと、番外で「地獄絵ワンダーランド」も追加。7歳の息子が異様な食いつきを見せました。うちの子だけかと思ったけれど、ほかにもそういうお子さんがちらほら・・・。テーマに興味があれば、大人も子どもも同じ目線で楽しめ、学べるという展覧会でした。

◯映画
 ・JACO いやもう、私とにかくファンなので・・・(笑)。さらにアースキンもがっつり出ていたし。周辺にいたミュージシャンへの取材も丹念に行われていましたね。夭逝の天才の人生はその音楽と同様、どこか透明感のあるものでした。
 ・この世界の片隅に 今年というより去年のベストで選んだ方が多そうな映画ですが、見たのが今年だったので。戦時であろうと、平時であろうと、人の人生って「生活」の積み重ねで成り立っていくものなのだな、ということを思いました。
 ・ミスター・ガガ オハッド・ナハリンの強烈なキャラクターと驚異的な身体能力、その裏にあるさまざまな葛藤がスタイリッシュに描かれていました。それにしても、舞台を生で見たかったなぁ(涙)。

◯音楽
 今年聴いたものはどれも素晴しかったのですが・・・ピアノエラのヤスクウケのパフォーマンスをベストアクトに。アップライトピアノの概念を変えてくれました。

 今年は公私ともに何かとストレスの多い一年でしたが、素晴しいアートのおかげで、何とか乗り切ることができました。来年もまたアートが皆を幸せにしてくれますように!


 

戦場のメリークリスマス

2017-12-29 22:59:37 | 映画
TOHOシネマズ新宿で「戦場のメリークリスマス」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

この映画、これまで音楽の方はさんざん聴いてきたのですが、実は映画の方を見たことがなく・・・長年の懸案事項(?)をようやくクリアできました。

この映画はフィクションなので、なるべくネタバレにならないように・・・平たく言うと、たけしと龍一とボウイの映画やん(笑)、という感じなのですが、この3人のオーラが半端ないです。しかもBL入ってるし。それにしてもボウイの美しいこと。あのオッドアイが魔性の男感をさらに増幅させています。教授は、若干、セリフが棒気味ですが(笑)、大尉の役が実にハマっています。そういえばラストエンペラーでも甘粕大尉だったし。もしかして、前世は大尉!?そして、お目目の綺麗なたけしさん。あのラストはやっぱり泣けたなぁ・・・。

そして教授の音楽が、今聴いても斬新です。何と言うか、音楽と映像の関係が斬新。映画音楽というと、名人芸的に音楽に寄り添い、盛り上げるものと思ってきましたが、この音楽からは異化作用?のようなものを感じました。耳がびっくりして起きちゃう、みたいな。かと言って、映像にハマっていないわけではないのです。それにしても、いろんな意味で異色の映画です。そもそも、主役級の3人からしてプロの俳優ではないわけだし。そして私がこの映画から感じたのは、戦争は不毛だ、ということでした。戦争はいけない、とか戦争は残酷だ、というのともちょっと違う・・・不毛・・・。

その後、初台のオペラシティに移動して、「ル・パン・コテディアン」でランチにしました。キッシュのランチにしましたが、卵感たっぷりでおいしゅうございました。スープやドリンクがボウルに入って出てくるのも嬉しかったな。

それからICCで「設置音楽2 Is Your time」を見てきました。教授とダムタイプの高谷史郎さんのコラボレーションです。宮城県名取市の高校で津波に被災したピアノを用いたインスタレーション。ライヴパフォーマンスも聴いてきました。観客の間を楽器を持った複数の奏者が演奏しながらゆらゆらと徘徊する、人力サラウンド。音の波間をたゆたうような、不思議な時間でした。設置音楽コンテストの入賞作品も上演されていたので、何曲か聴いてきました。女性の入賞者もけっこういらしたのですね・・・。ICCでは「オープンスペース2017 未来の再創造」の方も見てきました。evalaさんの立体音響サウンド・インスタレーションも体験してきました。いくつかの作品から一つを選んで聴くことができるのですが、私は竹富島のバージョンを聴いてきました。以前行った竹富島のことをなつかしく思い出しました・・・。

そんなわけで、教授デーな感じの一日でしたが、いろいろと新しい「耳の発見」がありました・・・。

快楽の園

2017-12-20 23:54:42 | 映画
シアターイメージフォーラムで「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」を見てきました。

ボスには、かなり昔から興味があったのですが、まさか映画になる日が来ようとは、という感じです。いったいどういう映画になるんだろう・・・ということで公開初日に行ってまいりました。まだ、始まったばかりなのでなるべくネタバレにならないように・・・。

アート系ドキュメンタリーというと、多くはアーティストの人生を追った形になりますが、ボス自身が謎の多い人であるからにして・・・この映画は徹底的に「快楽の園」に焦点を絞った映画になっています。この作品について、学者、アーティスト、音楽家、作家・・・などなど、さまざまな人々が語り尽くします。有名どころでは、ソプラノ歌手のルネ・フレミングやアーティストの葵國強、ノーベル賞作家のオルハン・パムクなどなど。「快楽の園」の情報量の多さにはあらためて圧倒されますが、面白いのはこの絵について語る人々が、普段は見せないであろう表情を垣間見せること。この絵には何か魔性があるのでしょうね・・・。奇想の画家と呼ばれる画家は他にもいますが、ボスの作品には圧倒的な毒とでも言うべきものがあるような気がします。何を思ってボスはこんな絵を描いたのか。映画の冒頭のタルコフスキーの言葉がその答えなのでしょうか。「その心の声こそが、芸術家を動かす真実なのだ」

ところで、この映画、BGMもなかなかに凝っています。アルヴォ・ペルトの曲がここぞということろで使われていたのが印象的でした。そういえば、「快楽の園」に描かれていた楽譜、「悪魔に潜む音楽」を再現するという試みもなされていました。ルネ・フレミングが歌っています。悪魔って増4度のことなのかな・・・。

というわけで、目も眩むような90分でした。観賞後、例によって何だか小腹が空いたので、近くの「ボン・ヴィヴァン」でお茶していくことにしました。ボリューミーなロールケーキや色鮮やかなタルトが並んでいましたが、今回、ベーシックなロールケーキをセレクト。ふっかふかで美味しゅうございました。


Glenn Gould Gathering

2017-12-18 00:28:05 | 音楽
そんなわけで行ってまいりました・・・Glenn Gould Gathering@草月ホール。グレン・グールド生誕85周年記念ということで、坂本教授がキュレーションをつとめるイベントです。ライヴやトークショー、インスタレーションなど盛り沢山のイベントですが、今回、ライヴを聴きにいきました。相当ひさしぶりに教授を生で拝める・・・ということで、行く前からかなりテンションがあがっておりました。

ライヴのメンバーは教授に加え、アルヴァ・ノト+Nilo,クリスチャン・フェネス、フランチェスコ・トリスターノという超豪華メンツです。この4組がそれぞれ順番にフィーチャーされて、連歌のようにグールドのリモデル/リワークを披露するというものです。まあこのメンツですから、サウンドは当然エクスペリメンタルなものとなり・・・どこがグールド!?と思わず突っ込みたくなりましたが(笑)、不思議とグールド・トリビュートなスピリッツは感じました。何というか・・・音に没入して、没入して、その挙げ句、どっか異次元に突入しちゃったというような・・・するとそこには思いもよらないクリアな地平が広がっていた、という感じです。冒頭の教授のピアノの荘重な響きにしんみりし、フェネスの美しいギターと水の波紋のような映像に陶然、ノトとNiloの織りなす音でメディテーション・・・フランチェスコ・トリスターノのことは今回初めて知ったのですが、凄く面白いピアニストさんでした・・・クラッシック弾いてるときよりテクノっぽい曲を弾いてるときのほうが俄然生き生きして見えたのは気のせいだったのでしょうか。そして、最後、全員のアンサンブル・・・黒衣の男達の演奏はそれはそれはクールなものでした。教授のオーバーハイムもひさびさに聴けたし・・・。

それにしても、御年65歳になってもピアノの内部を引っ掻いている教授を見ていると、何だか目頭が熱くなってしまいました。グールドは50歳で死んでしまったけれど、もし生きてたらどんなピアノを弾いていたのか、もし今日のライヴを聴いていたらどんなことを思うのか、そんなことを思わず妄想してしまいました。永遠に叶わない「もし」ですが・・・。

J:ビヨンド・フラメンコ

2017-12-16 00:25:12 | 映画
Bunkamuraル・シネマで「J:ビヨンド・フラメンコ」を見てきました。

カルロス・サウラ監督の最新作。日本公開となるのは5年ぶりです。ちなみに原題は「JOTA(ホタ)」ということで、フラメンコと映画というよりか、フラメンコのツールのひとつであるホタの映画でした。何でも監督自身がホタの発祥の地、アラゴンの出身だとか・・・そして監督、何と御年85歳におなりだそうです・・・。

それにしても、夢のような90分でした。この監督の作品らしく、独特の光で覆われた幻想的な映像。海に沈む夕陽の光を連想させます。出てくる人々も豪華。パコ・デ・ルシアの後継者とも言われるギタリストのカニサレス、「ゲド戦記」にも参加していたカルロス・ヌニェス、「パッション・フラメンコ」に出演したサラ・バラスなどなど。彼らのようなスターたちだけでなく、老若男女の人々が踊る、踊る・・・子どもたちから、おじいちゃんおばあちゃんまで見事に踊るのを見ていると「血は水より濃し」という言葉が思い浮かんでしまいます(意味が違うんだけど)。サラ・バラスの超高速ステップも見られたし。もう何度も途中で拍手したくなりました。もちろん音楽も素晴しい。とりわけ、カニサレスのギターの繊細な美しさ・・・。この美しい音と映像にひたすら身を浸していると何とも幸せな心地に。このところ相当お疲れ気味だったのですが、マッサージよりも占いよりも(!)、癒されました・・・(爆)。

帰りに、少々甘いものが欲しくなり、お隣の東急本店地下にある「ダロワイヨ」に寄ってきました。ケーキセットのケーキは期間限定の中山栗のシューキュービックをセレクト。栗のペーストとカスタードクリームがいい感じに絡み合って美味しゅうございました・・・。

オットー・ネーベル

2017-12-14 00:44:08 | 美術
Bunkamura ザ・ミュージアムで「オットー・ネーベル展」を見てきました。

不肖わたくし、オットー・ネーベルのことは何も知りませんでした・・・が、チラシやHPのビジュアルを見て、何だか好きなタイプの絵だな、ということで見に行くことに。生で見るとさらに魅力的な作品の数々。クレーやカンディンスキー、シャガールあたりが好きな人なら好きかも、という感じです。ただ、オットー・ネーベルの場合、さらに緻密というか、理系っぽいというか・・・もともとは建築を学んでいたようですね。会場ではオットー・ネーベルの生涯を紹介する映像も流されていましたが、それによると彼の作品はとんでもない数の、それも極小のドットで緻密に構成されているのだそうです。おそるべし。ですが、作品はそんな労苦を感じさせない、明るさと軽快さに満ちています。とりわけ好きだったのが、幻想的な「聖母の月ともに」、そして、不思議な色合いで描かれた「地中海から<南国>」。この絵のキャプションには、「あんまり人のことをほめないクレーがこの絵のことはほめてくれて嬉しかった」的なことが書いてあって、そうかそうか、クレーもほめてくれたか、と思わず嬉しくなってしまいました。オットー・ネーベルはクレーとも親しく、ナチスの弾圧を受けたクレーが、逃亡先のスイスのベルンで亡くなるまで、家族ぐるみの付き合いを続けていたとか。クレーが亡くなった時はひとかたならぬショックを受けたようです。展覧会にはクレーの作品もいくつか出ていましたが、クレーの作品とオットー・ネーベルの作品はどこか似通いながらも好対照、という感じで・・・先の映像でクレーは線の人、オットー・ネーベルは点の人、ということが言われていて、思わずうむむ、と唸ってしまいました。それにしても、こんなに魅力的かつ緻密な作品を描く方がなぜ今まであまり知られていなかったのか不思議です。本当に、Bunkamuraさんに感謝・・・。

Bunkamuraのギャラリーの方では「澁澤龍彦のアヴァンギャルド」が開催されていたので、こちらも見てきました(この展示は既に終了しています)。まぁ、予想通り、妖し〜い世界観。横尾忠則のポスターや細江英公の写真、ハンス・ベルメールの版画に四谷シモンのお人形さんもありました。そして、展示物の中にはなぜか貞操帯(!)が。噂には聞いていたけど(?)、実物見たのは初めてです。あー、びっくりした・・・。

帰りに「ドゥ・マゴ・パリ」で前々から気になっていたタルト・タタンを食べてきました。少々お高めではありますが、それを補ってあまりあるお味。私の中のタルト・タタン観(?)が変わりました・・・。

神の眼、人の眼

2017-12-12 21:52:12 | 美術
フジフィルムスクエアで「アンセル・アダムス」を見てきました(この展示は既に終了しています)。

アンセル・アダムスの作品約60点、オリジナル・プリントでという実に太っ腹な企画です。近くにいた若いお客さんが「フジフィルムってずいぶん写真文化に貢献しているよなぁ」と言っているのが耳に入りましたが、ほんとにその通りです。もう、圧巻のモノトーン。神の視点。アメリカの風景が創世記の光景のように見えてしまいます。大好きな「月の出、ヘルナンデス」や「月とハーフドーム」も見られて感無量でした。「マンザナールから眺めたウィリアムソン山」も神々しい。「アスペンス」の透明な美しさも心に残ります。珍しいところではインスタント写真の「墓地の細部」も。絵画のようです。会場では、アンセル・アダムスの残した言葉の数々も紹介されていました。「ネガは楽譜、プリントは演奏」「私は美を信じている。石と水、空気と土、人々とその未来と運命を信じている」。そして「写真を撮ることはたやすいが、写真で傑作を生み出すことは他のどの芸術よりも難しい」という言葉も・・・。詳しい年譜もありました。アンセル・アダムスが元々コンサート・ピアニストをめざしていたというのは初めて知りました。

この日は写真歴史博物館の方で大原治雄展も見てきました。開拓農民としてブラジルへ渡り、アマチュア写真家でありながらブラジルで高い評価を得たという方です。不肖わたくし、大原氏のことは知りませんでしたが、日曜美術館で紹介もされていたのですね。大原氏の写真を見ていると、なぜか「無心」という言葉が思い浮かびました。先ほど見たアンセル・アダムスとは、好対照なのかも。天の視点と地の視点。神の眼と人の眼。「昨日まかれた種に感謝。今日見る花を咲かせてくれた」という氏の言葉もありましたね。とりわけ、子どもを撮った写真が、好きだったなぁ・・・。

そんなわけで、二つの展覧会(しかも無料)を楽しんでまいりました。解説のパンフレットも充実していたし・・・フジフィルムさん、本当にありがとう・・・。

リボーンアート

2017-12-06 00:36:01 | 美術
ワタリウム美術館で「リボーンアート・フェスティバル 東京展」を見てきました。

この展覧会は、夏に宮城県石巻市・牡鹿半島を中止に開催された「リボーンアート・フェスティバル」の展示を再構成したものです。残念ながら、石巻まで見に行くことはできなかったのですが、ここ東京でその一端を味わうことができました。

会場に入ると島袋道浩「起こす」の映像が。これやっぱり現地で見たかったなぁ・・・波の音が聞こえてきそう。宮永愛子さんの「海は森からうまれる」も海の歴史を思わせるようなインパクトがありました。ファブリス・イベールのオブジェや、名和晃平さんの鹿もチャーミング。金氏徹平さんのユーレイもかわいかった。さわひらきさんの映像作品は幻燈のような、幻想的な世界。齋藤陽道さんの写真も展示されていましたね。この方の写真って音楽のように心に直接響いてくるものがあります。ろう者の方が撮る写真が音楽のよう、というこの不思議。バリー・マッギーの海の家(?)みたいな作品も。カオスラウンジのVR作品が可動時間外だったのが心残りでしたが(笑)。この展覧会から感じたものを言葉にするのは難しいのですが・・・アートと再生、そして、海はどこまでもいつまでも続く・・・。

私がワタリウムに行った時は、地下のオン・サンデーズで磯村暖さんの個展が開かれていたので、そちらも見て行きました(展示は既に終了しています)。タイトルは“good neighbors”。「自分の国を作る」というお題のもとに、複数の参加者と共に制作した箱庭の内部を、水が流れ循環するインスタレーションです。と書くと小難しそうですが、どことなくキッチュな風情が魅力的。参加者の一人が箱に書いた一節として、こんな言葉がありました。「あたなは世界中どこへでもいつでも誰とでも行くことができる。なぜなら水があたなと一緒に世界中を巡っているから。」世界を巡る命の水・・・。