aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

2023年ベスト

2023-12-31 10:11:38 | ベスト
そんなわけで、今年も残すところあと少し。例によって、今年私が見た・聴いたものからベストを選んでみたいと思います。基準はあくまで私に与えたインパクトの強さ、です(順番は見た順です)。

〇美術
 ・ディオール展
  後々まで語り草になりそうな華麗な展覧会。作品自体の素晴らしさもさることながら、空間演出の威力を思い知らされました。
 ・やまと絵展
  東博ならではの、まさに日本美術の教科書のような展覧会。これまでもやもやしていた「やまと絵」の概念が明らかになりました。
 ・ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン 
  冒頭から文字通り既成概念を揺さぶられた展覧会。「見る」ということに愚直なまでに真摯に向き合う画家の姿を通じて、「見る」とはなんぞやについて、これまでになく考えさせられました。
 <次点>
 ・甲斐荘楠音 の全貌
  絵画、演劇、映画…ジャンルを自在に越境した甲斐荘の人生を描き切った展覧会でした。

〇映画
 ・モリコーネ
  歴史に残る映画音楽を作り続けた作曲家。華麗なキャリアの一方、商業音楽と芸術音楽の狭間で葛藤し続けた人生でもありました。
 ・ブリング・ミンヨー・バック! 
  灯台下暗し…で、いつの間にか盲点となっていた民謡の世界。その歴史と可能性を知る初めての機会になりました。
 ・春の画
  長く秘されてきた春画の世界を初めて白日の下にさらした意義ある映画。豪華絢爛、目くるめくっちゃうその世界は絵師のみならず彫師と摺師の超絶技巧の賜物でもありました。

〇音楽
 選ぶほどには行けていない…のですが、スガさんも、挾間さんも、ボンクリもサントリーサマーフェスもみな、素晴らしかった!

そんなわけで、来年もまたいいアートが皆を幸せにしてくれますように!



INNOCENT TOUR

2023-12-30 23:39:35 | 音楽
スガシカオ@LINE CUBE SHIBUYAに行ってきました。

・・・とは言っても、なかなか感想を書けずにいるうちに、一か月半も経ってしまいました。今さらですが、自分の思い出のために。この日は諸事情あって開演に間に合わないという事態に陥り、会場に辿り着いた時は心身ともにヘロヘロ…最後まで体力もつだろうか、という状態だったのですが…。

私が会場に着いた時は、「夕立」を演奏していました。その後のリサーチによると、おそらく5曲くらい聴き逃したものと思われ、その中に「おれ、やっぱ月に帰るわ」が含まれていたことを知り、地団駄を踏むことに…。スガさんは直前に秋の花粉症が勃発したらしく、MCはガラガラ声でしたが、歌の方は大丈夫でしたね。MCでちゃんと歌詞を聴いていれば、ライブの後に盛り上がって飲みに行こー、みたいなことにはならず、どよーんと重い気持ちになって帰ることになると言っていましたが…でも、暗くて重い歌詞でも根本的なところでは前向き、そして、言葉の強さが謎のエネルギーを放つのです。

スガさんはステージ狭しと飛び回り、バンドも相変わらず献身的。一番変わったと思ったのがFUYUさんのドラムですかね…一段と力強くなったような…新しい彼女でもできたのか?と一瞬、思いましたが、全米デビューされたということだったので、そのせいでしょうか。坂本さんはパンツ事情を暴露され、ハナブサさんもやはりいじられてましたね。DURANはやはりDURANでしたが、「覚醒」のソロがかっこよかったな…。JUDYさんのソウルフルな声も素敵。そして、お客さんも素晴らしかった。終盤になると、パフォーマーとオーディエンスが一体になって生まれた、大きなエネルギーの塊が中空に浮かぶのが見えたような気が…やっぱりライブってエネルギーの交感だったんだよなぁ…としみじみ思ったのでした。

そんなわけで、ライブがにんにく注射(やったことないけど)並みの効果を発揮し、帰る時にはスキップしそうなくらい(しないけど)元気になっていました。スガライブのパワー、おそるべし。来年の2月にはスガ+森で作った数々の名曲をストリングスで味わう会が開催されるそうですが、こちらも楽しみです(チケット取れるかなぁ…)。



真空のゆらぎ

2023-12-29 23:59:21 | 美術
国立新美術館で「大巻伸嗣 真空のゆらぎ」を見てきました(展覧会は既に終了しています)。

不肖わたくし、大巻氏のことはよく知らなかったのですが、国立新美術館に置いてあったチラシに一目ぼれして行ってまいりました。この展覧会、驚いたことになんと無料…より多くの人に見てほしいという意向のようですが、これを無料で見せてもらっていいのか…というクオリティでした。大巻氏と国立新美術館の太っ腹に感謝です。国立新美術館のホワイトキューブの広大な空間をフルにいかしたダイナミックな展示でした。会場に入ると、巨大な光の壺が…メインビジュアルにもなっていた“Gravity and Grace”です。原発事故を受けて発表したシリーズの最新版です。壺には動植物の不思議な模様が一面に描かれ、周囲に影を投げかけます。光に吸い寄せられるように集う人々…。そして、“Liminal Air Space ̶ Time 真空のゆらぎ”が圧巻でした。闇の中で揺らめく薄い布が、夜の海でうねる波を想起させます。夜の海をじっと見ていると、自身が海に溶け込んでいくような不思議な感覚を覚えることがありますが、この作品を見ているとその感覚がよみがえりました。“Linear Fluctuation”はコロナ禍の自粛期間中に窓からの眺めを描いた水彩画のシリーズです。鬱々とした外界の状況下で描かれた作品のはずですが、不思議なほどの瑞々しさ。“Rustle of Existence”は森の映像に哲学的な言葉が重なります。台湾の原住民の言語が消えつつあることを知り、人間の存在を言語から考えるという発想を得たのが契機となった作品だそうです…この映像には教授の音楽が合いそうだな…、とふと思ってしまいました。シンプルに、本当にシンプルに光と闇の対比から、生きること、存在することを感じさせる展覧会でした。

この日は「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」も見てきました(展覧会は既に終了しています)。ファッション系の展覧会というとディオール展が思い出されますが、後継のイヴ・サンローランの展覧会もまた華麗なものでした。ディオールはエレガントでファンタスティック、イヴ・サンローランはタフでクールという感じもします。展覧会は12章で構成されていて、イヴ・サンローランの多面性を余すところなく披露していました。「想像上の旅」と「服飾の歴史」の章からは、彼がファッションを通じて空間と時間を超えた旅をしていたことが分かります。アーティストへのオマージュの作品も面白かったです。モンドリアンの作品を基にしたワンピースがメインビジュアルになっていましたが、ゴッホやピカソ、マティスやブラックへのオマージュの作品も。会場では彼の言葉も紹介されていました。名言の数々ですが、やはりこの言葉が最高でした。「ファッションは廃れる。だが、スタイルは永遠だ」

北宋書画精華

2023-12-18 23:11:22 | 美術
根津美術館で「北宋書画精華」を見てきました(展覧会は既に終了しています)。

不肖わたくし、北宋書画のことはほとんど知らないのですが、―きっと伝説になる―というキャッチコピーがついたこの展覧会、あの奥ゆかしい根津美術館がここまで言うからにはきっと凄いに違いない…ということで、行ってまいりました。言われてみれば、これまで北宋時代の作品をまとめて見る機会はなかったような…というか、そもそも現存する作品が少ないのだそうです。この展覧会は北宋の書画芸術の真髄に迫る日本で初めての展覧会ということで、日本にある北宋の書画の優品のほか、メトロポリタン美術館からもお宝が出品されていました。

展覧会は「山水・花鳥」から始まります。「江山楼観図巻」の圧倒的な緻密さに眼を奪われます。夢幻的な趣もある「寒林重汀図」、蕭条した風情のある「喬松平遠図」、雄大な「山水図」と畳みかけるように名品が続きます。続いて、「道釈・仏典」。どこかキッチュな「薬師如来像」、素朴画のような「十王経図巻」も面白く…それにしても「霊山変相図」が凄かった。異様に緻密な版画は曼荼羅のようでもあり…まさかこんな作品が仏像内に収められていたとは。そして、李公麟の部屋です。神品といわれながらも行方不明になり、80年ぶりに出現したという「五馬図巻」。五頭の馬とその馬を引く男の組み合わせを描いていますが、馬たちが今にも生きて動き出しそう…李公麟は馬を好んで描いたそうですが、馬愛が画面から滲んでくるようです。そして、同じく李公麟の白描画の基準作といわれる「孝経図巻」も。白描画の名手と言われるだけあって、やはり線が生きているかのよう…。李公麟の作品が一室に集まるというのは奇跡的なことだそうです…それで、きっと伝説になる、なのですね。書蹟には黄庭堅の作品が三点出ていましたが、同一人物が書いたとは思えないくらいバラエティに富んでいます。「船載唐紙」には北宋で作られた紙に平安時代の貴族が書を書いたものが集められており、ここには「古今和歌集序」も。これまで書にばかり目が行っていましたが、紙は中国のものだったのですよね…。館蔵品によるテーマ展示にも北宋工芸品を集めた一室がありました。西田宏子氏の寄贈作品に独特の風情があって、思わず眼が釘付けになってしまいました。そういえば、不肖わたくし、むかしむかし西田先生の博物館学の講義を受けていたことがありました…厳しくもあたたかい授業だったなぁ…となつかしく思い出しました。

さて、この日は表参道駅の近くにある「手打 しまだ」に寄ってきました。せっかくなので名物のカレーうどんにえび天をトッピングしてみました。クリーミーなカレースープとうどんとえび天が不思議なマッチング…で、美味しゅうございました。

ホーム・アゲイン ライブ・イン・セントラルパーク

2023-12-16 00:48:22 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷「キャロル・キング ホーム・アゲイン ライブ・イン・セントラルパーク」を見てきました(上映は既に終了しています)。

1973年にセントラルパークで開催された、キャロル・キングの無料コンサートのドキュメンタリーです。「つづれおり」がヒットし、世界的に人気だった彼女の凱旋コンサートとあって、観客は推定10万人以上だったとか…。コンサートの前は暴風雨だったのですが、それも止み…この時点でなんだか奇跡が起きそうな予感がします。(以下ネタバレします)

コンサート会場にはラフな格好のキャロル・キング、そして見渡す限りの人、人、人…まさに人の海です。コンサートは2部構成になっていました。1部は弾き語り、2部はバンドでの演奏です。弾き語りは「つづれおり」の曲が中心でした。これだけの人を前にしながら、キャロル・キングは終始リラックスした様子で、ガシガシとピアノを弾きながら、ニコニコと歌っています。今さらですが、けっこう強いタッチで弾いてたんですね…しかも、ピアノはほとんど見ていません。基本的にポジティブな歌詞の曲が多いなかで、“Smackwater Jack”のブラックぶり、 “It’s too late”のやるせなさにドキリとさせられます。2部はバンドでの演奏でしたが、メンツがめっちゃ豪華でした。ギターがデヴィッド・T・ウォーカー、ドラムがハーヴィー・メイソン、サックスがトム・スコット…。当時、発売を間近に控えていた「ファンタジー」の曲が中心でした。凄腕のメンツをバックにアグレッシブなパフォーマンスを披露するキャロル・キング。キャロル・キングというと内省的なイメージがあるのですが、こういうグルーヴィーなプレイもする人だったんですね。曲も力強く、意欲作だったことが伺えます。とりわけ“Corazón”がかっこよかった…。そして、コンサートは名曲中の名曲“You’ve Got A Friend”で幕を閉じます。

幕開けからして本当に奇跡のようなライブ…キャロル・キングがキラッキラしていました。それにしても、声ってギフトですよね…彼女の声を聴いているといろんなことがもう大丈夫、と思えてくるから不思議です。そして、思い思いの恰好をしながら(中にはPA用の櫓によじ登っちゃう人も!)聴き入る人々…50年前のNYの幸せな光景です。

帰りはミヤシタパークの中にある「青山シャンウェイ」でランチにしました。「孤独のグルメ」で紹介されていたお店だそうですが、かなり現地っぽい店構え。名物の一つの「蒸し鶏の葱醤油」をいただいたのですが、これが絶品でした。鳥料理はあまり得意ではないのですが、もうお箸がとまらなくなってしまい…さすがでございました。

やまと絵

2023-12-15 01:23:45 | 美術
東京国立博物館で「やまと絵-受け継がれる王朝の美-」を見てきました(展覧会は既に終了しています)。とはいっても、実際に行ってからかなりの日数が経ってしまいました…が、自分の心覚えのために。国博ならではの、まさに「日本美術の教科書」な展覧会でした。期替わりで四大絵巻、神護寺三像、三大装飾経が揃い踏み、と見どころもたくさん。いわゆる名品のみならず、地獄草紙、餓鬼草紙、病草紙、百鬼夜行絵巻といったダークなものも勢揃いしているのはさすがです。展示は平安~鎌倉~室町~江戸と年代順になっていました。私が行ったのは第二期です。現存最古のやまと絵といわれる「山水屏風」が出ていました。柔らかな青と緑で描かれた穏やかな山並み。日本の原風景…。一方、現在最古の唐絵といわれる「山水屏風」も。こちらには中国風の人々が登場。やまと絵というのは唐画と対になる概念なのだそうです。そして、四大絵巻のうち、源氏物語絵巻、信貴山縁起絵巻、鳥獣絵巻の乙巻が出ていました。私が行った時には神護寺三像が揃い踏み。教科書に出てくる源頼朝が眼の前に…思っていたよりも、大きな像でしたね。面白かったのが「隆房卿艶詞」。モノトーンのスタイリッシュな絵巻ですが、こんな絵巻が鎌倉時代に描かれていたのですね。「平治物語絵巻」は迫真の筆。「百鬼夜行絵巻」は呪術廻戦やゲゲゲの鬼太郎を彷彿とさせます…。江戸時代のものでは狩野元信の「四季花鳥図屏風」に目を奪われました。サンクチュアリの光景。元信の作品は「酒伝童子絵巻」なども出ていましたが、やはりこの方めちゃくちゃ巧い…。終章には国博の「浜松図屏風」が。実にダイナミックな作品です。金地に揺れる柳、松の緑、日本の四季、生きとし生けるものたち…。

本館で開催されていた「南山城の仏像」も見てきました(展覧会は既に終了しています)。出品作は20点弱という小ぶりな展覧会でしたが、作品のほとんどが国宝または重文で、点数以上の重量感がありました。まず、海住山寺の精緻な「十一面観音立像」に眼を惹かれます。浄瑠璃寺の光り輝く「阿弥陀如来坐像」の脇にはダイナミックな「広目天立像」と「多聞天立像」が。「地蔵菩薩像」も流麗で美しい。行快作の「阿弥陀如来立像」も端正。神童寺の「不動明王立像」はどことなくゆるキャラのようでした…。

この日は国立科学博物館で「和食~日本の自然、人々の知恵~」も見てきました。2020年に開催が予定されていたものの、コロナ禍で中止になってしまった展覧会ですが、幻の展覧会に終わらなくて本当によかったです。科博の展示らしく、日本の自然が生み出した食材、和食の歴史と未来など、盛りだくさんの内容でした。卑弥呼や徳川家康の食事の再現も。和食のありがたみをあらためて実感…。

そんなわけで、日本の美と食の世界を堪能した一日でした。本当に日本に生まれてよかったな…。