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アートネタなど日々のあれこれ

筆魂

2021-04-25 08:26:19 | 美術
すみだ北斎美術館で「筆魂-線の引力・色の魔力-」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。

すみだ北斎美術館にはこれまでなかなか訪れる機会がなく、今回が初めての訪問です。この展覧会のことも当初ノーマークだったのですが、ネットでけっこう話題になっていたので行ってみることにしました。オール肉筆画の浮世絵展もわりと珍しいですしね。にしても、筆魂、って攻めてる感のあるタイトルですよね…何となく「ひっこん」と読んでいたのですが、「ふでだましい」でした…。ちなみに私が伺ったのは会期の後期です。

この展覧会は浮世絵300年にわたる浮世絵の歴史を、浮世絵の源流である肉筆画によってたどるというものです。解説なども丁寧で、浮世絵の歴史を系統的に追うことができるようになっていました。展覧会は3章で構成されていました。1章は浮世絵の黎明から18世紀の前期まで。浮世絵の先駆、岩瀬又兵衛の作品から始まります。菱川師宣の前に岩瀬又兵衛がいたという位置づけなのですね…。もちろん、浮世絵の始祖、菱川師宣の作品も出ていました。作者不詳の寛文美人図にも眼を惹かれるものがありましたね…。宮川長春の流麗な作品も。2章は浮世絵の繁栄。鳥居派、勝川派、そして歌麿に写楽。やはり歌麿は圧倒的に線が美しいです。最後の3章は幕末を彩る領袖 葛飾派と歌川派です。歌川派の作品はいかにも浮世絵らしい華やかさですが、やはり最後は北斎にもっていかれますね。毒の強さが違うというか…。メインビジュアルにもなっている「立美人図」の渋みのある艶やかさ。「生首の図」と最晩年の「雲龍図」の並びには言葉を失いました。生首の図は実際に死刑になった人間の首を見て描いたらしいです。それまでの眼福ムードがここで一気に吹っ飛ぶという…(爆)。「雲龍図」も強烈な気が漂ってくるかのようです。企画展の後、常設展の方も見てきました。展示で北斎の一生を時系列で追うことができます。半ばゴミ屋敷と化した北斎の画室の再現展示もありました。北斎とお栄の人形も中にいるのですが、北斎の人形が微妙に動いた時は思わず声が出そうになりました…。

この日は帰りに駒込にある東洋文庫ミュージアムにも寄ってきました。知り合いからご招待券をいただいていたのです…。こちらに伺うのも初めてでした。文庫の名にふさわしく、天井までぎっしり本で埋まった書架に圧倒されます。ここでは「大清帝国展 完全版」の展示を見てきました。高校時代の世界史の時間を思い出しながら…。完全版というだけあって、盛りだくさんの展示でした。面白いところでは殿試策(科挙の答案)も。書道のお手本のようなみごとな答案なのですが、解説には科挙の成績上位者に限って実務では使えなかった的なことが書いてあって、昔からよくある話なのだなぁ…と、しみじみしてしまいました。あと、西太后が描いたという花の絵もありました。繊細で綺麗な花の絵。彼女の恐ろしさを考えると、ほんとに本人が描いたのか?とも思ってしまうのですが、作品と性格とが必ずしも一致するとは限りませんしね…。そんなわけで、ひさびさに歴史のお勉強を楽しんでまいりました。ところでこの東洋文庫、併設のレストランが何だか美味しそうなんですよね…この日は時間がなくて寄れなかったのですが、いつか行ってみたいものです…。
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ライゾマティクス_マルティプレックス

2021-04-24 16:24:08 | 美術
東京都現代美術館で「ライゾマティクス_マルティプレックス」を見てきました。

こちらも開催を知った時から楽しみにしていた展覧会です。この展覧会はライゾマティクスの美術館での初個展になるのだそうです。これが初めてって、ちょっと意外な気もしますが…。

会場のエントランスにはまず、“Rhizome”が。ライゾマのロゴと地下茎をかたどったメインビジュアルが投影されています。空色の線描が綺麗。会場に入ったところには、“Rhizomatiks Chronicle”が展示されています。ライゾマティクス15年の歴史を紹介する映像インスタレーションです。“NFTs and CryptoArt-Experiment”はデジタルアートの流通の現状を可視化し、今後のヴィジョンを問いかける、という作品ですが、無数のデータが飛び交うイメージ…。 “multiplex”は、振付家のMIKIKOさん率いるダンスカンパニーELEVEN PLAYの動きをデータ化し、映像や動くロボティクスとともに構成したインスタレーション。一つはダンサーとその軌跡の映像、もう一つは動く箱と映像のインスタレーションなのですが、実はこの二つが高度にシンクロしていたということを、日曜美術館のライゾマティクス特集で知りました。箱の動きが何だか生々しく感じたのはそのせいだったか…。これは説明されないとわからないやつかもしれません。“R&D”は現在開発中のプロジェクトの紹介ですが、文系人間の理解の範疇を超えておりました…。中庭にはソーラーパネル発電で走行するロボット君も。“Rhizomatiks Archive&Behind the sceneはライゾマの記録映像や資料展示。代表の真鍋氏の「欲しいのでは偶然の成功ではなく失敗の理由」という言葉もありました。“particles2021”は、巨大な螺旋構造のレールの上を多数のボールが転がり、光の点滅が残像を生む作品。宇宙空間で星の明滅を眺めているかのようです。最後の“Epilogue”は作品の舞台裏を見せるものですが、来館者の行動軌跡を3Dモデルに復元した映像も…。というわけで、現在のデジタルアートの最先端かつ最高峰を観るような展覧会でした。真鍋氏はザ・理系、みたいなお方かと思いきや、日曜美術館のインタビューでは、意外にアナログな面も紹介されていました。MIKIKOさんのダンスのレッスンとかも実際に受けているみたいですね…。皆が気づかないような小さなものに気づく感性の大切さについてお話されていたのが印象的でした。

この日は同時に開催されていた「マーク・マンダース―マーク・マンダースの不在」も見てきました。彼は架空の芸術家「マーク・マンダース」という人物の自画像を「建物」の枠組みを用いて構築するという、不思議なコンセプトで作品を制作しています。彫刻やオブジェといった作品はその建物の部屋に置くためのものなのだとか。どこか廃墟をイメージさせる作品の数々。不在・喪失の痛みを感じさせるものも…。「建物としての自画像は時間がすべて凍結している」という作家の言葉もありましたね…。

さらに「Tokyo Contemporary Art Award2019-2021受賞記念展」も見てきました。風間サチコさんと下道基行さんの二人展です。風間さんの版画の大作はまさに圧巻。「人外交差点」は呪術廻戦の渋谷事変を思わず連想。「ディスリンピック2680」は2018年の作品ですが、今日の状況を予見したかのような…。コロナ禍のなか、トーマス・マンの「魔の山」にインスパイアされたという「Magic Mountains」も展示されていましたが、内省による対立からの脱却がテーマなのだとか。下道さんは旅やフィールドワークをベースに制作している方です。日頃忘れかけている時の流れ、地の広がりといったものを思い出させてくれる作品でした。

例によって、鑑賞後はランチ…ということで、この日は美術館の近くにある「カレと。Men」に寄ってきました。カレーとラーメンの二枚看板という珍しいお店です。どちらにしようか迷った挙句、ハーフ&ハーフに。どちらも美味しかったけど、牡蠣煮干し醤油BlackMENが何だかクセになりそうなお味でした。

ところで、東京都現代美術館が明日から休館ということになってしまいました…ライゾマ展の様子はオンライン会場(https://mot.rhizomatiks.com/)から見ることもできますが、やはりこれは生で見たいですよね…無事、再開されますように…。
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DESIGN MUSEUM BOX

2021-04-20 00:49:43 | 美術
銀座ソニーパークで「DESIGN MUSEUM BOX展 集めてつなごう 日本のデザイン」を見てきました。

この展覧会はNHKの「デザインミュージアムをデザインする」に登場した5人のクリエーターが、デザインの視点から日本各地で「デザインの宝探し」をするというものです。田根剛、田川欣哉、水口哲也、辻川幸一郎、森永邦彦の5氏が5つの地域で「宝物」を見出し、その魅力を紹介します。田根氏が選んだのは縄文のデザイン。会場には縄文の土器、そして田根氏による縄文デザインの図解が。ムラの暮らしからデザインが生まれ、生きるためにはデザインが必要だったのだとか。田川氏が選んだのは柳宗理のデザインプロセス。会場ではカトラリーが展示されていますが、今見てもスタイリッシュながら温かみのあるデザイン。ディティールを調整するプロセスも紹介されています。田川氏は柳宗理のデザインを100年経っても残るデザインと評し、柳氏本人はデザインは受け手がいてこそ、と語っていました。水口氏が紹介するのはトランスアコースティックピアノ。ピアノ響板に振動装置を取り付け、デジタルの音信号を伝えることで響板が音を響かせ、ピアノ全体がスピーカーになるというものです。会場では実際にオルゴールを響板に当てて、音が広がるのを聴くこともできます。ピアノはもっぱら弾くものと思っていただけに、不思議な体験でした。辻川氏が選んだのはぶちゴマ。会場ではカラフルなコマが山のように積み上げられています。見ているだけで楽し気ですが、一方、コマは死を意識させるものでもあるようです。クルクル回って最後にパタリと倒れてしまうからでしょうか…。森永氏が選んだのは、奄美で祭祀を司るノロが着用した「ハブラギン」という装束です。三角形のパッチワークでできた衣装ですが、三角は蝶や蛾、ひいては人間の霊魂、霊力のイメージでもあるようです。服に着る人を守るという強い意志が宿っているのだとか。会場では氏がデザインしたパッチワークの衣装が展示されていますが、ライトを当てると違う色に変わって光る衣装もありました。光の力を服に込めたようです。日曜美術館で氏が学生さんにデザインの講義をする映像がありましたが、自分のデザインした衣装がその人の一日の十何時間、あるいは何年かをともにすることができる、とその魅力を語っていました。デザインの極意なのかもしれませんね…。


そんなわけで、日本の北から南まで、デザインの面白さ、奥深さを伝えてくれる展覧会でした。それでもまだ知られていないデザインの宝物が、日本各地にはきっとたくさんあるのでしょうね…。


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あやしい絵

2021-04-17 15:51:50 | 美術
東京国立近代美術館で「あやしい絵展」を見てきました。

こちらも開催を知った時から楽しみにしていた展覧会です。あやしい、もさることながら、音声ガイドが何と鬼滅の刃で厭夢を演じた平川大輔さん!ということで、いやが上にも期待が高まります。きっと展覧会のスタッフに鬼滅の刃のファンがいるに違いない…。

というわで、早速、音声ガイドを聴きながら会場へ。妖しい猫がガイドする、という設定なのですが、この猫がまさに厭夢の声!そして、会場に入ってすぐの所にこの猫ちゃんのモデルと思われる稲垣仲静の「猫」が。これでもう、つかみはばっちりです。ふと目を見やれば、何と生人形の「白瀧姫」も。いやもう生々しくて怖いんですけど…。展覧会は幕末の作品から始まりますが、ここには曽我蕭白の妖しい美人図や月岡芳年の血みどろ絵が。明治~大正期の作品では、藤島武二やミュシャ、バーン=ジョーンズと並んで田中恭吉の作品がありました。この方のことはこの展覧会で初めて知りましたが、結核で若くして亡くなったそうです。作品には独特の病んだ鋭さがあり、萩原朔太郎の「月に吠える」の挿画なども手掛けていたとか。そして、青木繁の作品を集めた一角も。私はファンなので、「大穴牟知命」も初めて見られて嬉しかったな。「異界との境で」のセクションでは清姫伝説や高野聖絡みの作品がいくつかあり、音声ガイドでは平川さんの朗読も聴けます。迫真の朗読です。橘小夢の妖美な作品の数々も。鏑木清方の「妖魚」もその妖しさに眼を惹かれます。「表面的な美への抵抗」の章は、この展覧会のハイライトの感があり、甲斐庄楠音の作品が多く展示されていました。「横櫛」や「幻覚(踊る女)」はその独特の色彩もあいまって、妖気が漂ってくるよう。「畜生塚」は見るからに禍々しいオーラを放っていますが、解説を読むとさらに、その恐ろしさに身の毛がよだちます…。梶原緋佐子が市井の女性を描いた作品も「ほんまに切ったら血が出るような、そういう女を描くんやったらお前に加担してやる」という師の言葉とともに展示されていました。「一途と狂気」の章には上村松園の「焔」が。これは大スランプ期の作品だそうですが、凄艶。北野常富「道行」には死の匂いが漂います。大正末~昭和の章は小村雪岱の作品が多く出ていました。スタイリッシュでさえある「おせん」、モノトーンで女の魔性を描き切った「お傳地獄」。会場のところどころで作品に合わせて都都逸も紹介されているのですが、ここには「嫌なお人の親切よりも 好いたお人の無理がいい」とのお言葉が。そして、音声ガイドのボーナストラックでは「おせん」の朗読を聴くことができます。もう聞き惚れてしまいましたよ…やはりプロの朗読はすごいです…。

そんなわけで妖美の世界を堪能してまいりました…有名どころから、比較的眼にする機会が少なめな方まで含めて「あやしい」を丹念に掘り起こしてくれた展覧会だったと思います。私が行ったのは会期始め頃の夜間だったのですが、美術館を出ると満開の桜と満月に近い月が同時に見られて、綺麗でした…。


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