恵比寿ガーデンシネマで「トノバン」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。
作曲家、プロデューサー、アレンジャーとして時代を先駆けた活動をしてきた音楽家・加藤和彦氏の初のドキュメンタリーです。この映画の制作のきっかけは、監督の相良裕美さんが「音響ハウス」の試写会の時に、高橋幸宏さんに「トノバンって、もう少し評価されても良いのじゃないかな?」と声をかけられたことだったそうです。加藤さんのことなら、と協力を申し出る方も多く、取材は1年で約50人にも及んだとか…多くの方の証言を得てとても見応えのある映画になっていました(以下、ネタバレ気味です)。
映画は加藤氏の生い立ちにさかのぼります…氏は京都で生まれ、高校時代を日本橋で過ごしますが、その頃に早くも輸入盤のレコードを取り寄せ、ギターを始めています。その後、京都の大学に進学し、フォーク・クルセーダーズを結成…メンズクラブにメンバー募集の広告を載せればお洒落なメンツが集まると考えたのだとか。そして、「帰って来たヨッパライ」がラジオで流れたのをきっかけに注目を浴びます。解散後はソロ活動を開始し、「あの素晴らしい愛をもう一度」をリリース。その後、ロックに転じ、妻のミカとサディスティック・ミカ・バンドを結成します。ロキシー・ミュージックなどを手掛けていたクリス・トーマスがプロデューサーとして名乗り出て、イギリスツアーも実現しますが、ミカがクリス・トーマスの元に奔り、離婚してバンドも解散。その後、ふたたびソロ活動でヨーロッパ三部作を発表、さらに映画音楽なども手がけています。1989年にはサディスティック・ミカ・バンドが再結成…「天晴」は私も当時リアルタイムで聴きました。その他にも日本初のPA会社の設立、ファッションブランド設立といった活動もしていましたが、2009年、自らの意志でこの世を去ります。
映画には今やレジェンドの錚々たる人々が登場し、加藤氏について語っていますが、尊敬を通り越し、畏怖の念すら感じます。盟友の北山修氏は、彼みたいな人にあったことはない、彼はミュータントだった、と。高中正義さんは加藤氏を失った悲しみをギターで表現していましたが、本当に胸を衝かれるような音でした。加藤氏が見出したミュージシャン達がJ-POPの礎を築いたと言っても過言ではなく、これだけの仕事を一人の人間が成し遂げたということに空恐ろしさすら感じます。まさにセンスの塊。そして、この映画で一番強く印象に残ったのは50年後、100年後も残る音楽を作る、という言葉でした。映画のラストではきたやまおさむさん、坂崎幸之助さん、高野寛さん、高田漣さん、坂本美雨さんらが「あの素晴らしい愛をもう一度」をレコーディングしています。今聴いても完璧な曲ですよね…この曲がリリースされてから50年を過ぎ…あの言葉が現実になりました…。