aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

トミー

2019-09-25 19:51:29 | 映画
アップリンク渋谷で「トミー」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

むかしむかしケン・ラッセルの映画は何本か見ましたが、この映画は未見でした。が、リバイバル上映されていることを知り・・・とはいえ、この歳になって、あの監督の映像についていけるかどうか、一抹の、というかかなりの不安があったのですが、これを逃すともう見る機会はないかもしれない、と、思い切って行ってきました(以下、ネタバレ気味です)。

結論からいうと、やっぱり見に行ってよかったです!あの強烈な映像にも何とかついていけました。ホドロフスキーの「エル・トポ」に近い雰囲気でしたが、あそこまでグロくはなかったな。何といってもケン・ラッセルの映像とザ・フ―の音楽が、強力なパワーで拮抗しあうさまはスリリングでした。やはり元々の音楽自体が素晴らしかったからこの映画は成り立ったのだろうな・・・。俳優陣も軒並み怪演。ティナ・ターナー演じるアシッド・クイーンのとんでもない顔芸。エリック・クラプトン演じるマリリン・モンロー教の伝道師の胡散臭さ。エルトン・ジョン演じるピンボールの魔術師の熱唱、いや激唱。そして、ロジャー・ダルトリー本人が主人公のトミーを演じています。学校の演劇すらやったことがない、と言って本人は嫌がったそうですが、なんだか不思議な存在感。キース・ムーン演じるイカれた叔父さんも見事な壊れっぷり。しかし、なんといってもトミーの母親を演じたアン・マーグレットが凄かった。母というものの強さ美しさ恐ろしさを体現しているようでした。シャンパンの泡やら豆やらチョコレートやらにまみれて歌うシーンは圧巻の一言でした。

ピート・タウンゼント本人はこの映画の出来が気に入らなかったそうです。映像を与えられることで、良くも悪くもイメージが限定されてしまう、という側面はあるのでしょうね。とはいえ、映像と音楽がこの勢いで疾走するような映画ってそうそうなさそうです。“see me feel me”の切なさ美しさは忘れられそうにありません・・・。

さて、鑑賞後は例によって遅めのランチということで、奥渋谷にある「キャメルバック サンドウィッチ&エスプレッソ」に行ってきました。ここは卵サンドが名物らしいのですが、お腹も空いていたので生ハムのサンドウィッチにしました。フランスパンが外はカリカリ中はもちもちでおいしかったな。そして、一緒に頼んだ塩キャラメルラテがなにげに絶品でした。

國之楯

2019-09-22 23:39:55 | 美術
加島美術で「小早川秋聲 無限のひろがりと寂けさと」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。

不肖わたくし、小早川秋聲のことは何も知りませんでした・・・が、日曜美術館でその存在を知り、あの絵を生で見てみたい・・・と思い、行ってきました。

小早川秋聲は「日本画家として唯一の軍事画家」でした。僧籍に入りながらも画家となり、どの画壇にも属さず、従軍を経験するという特殊な経歴を持っています。そういう人でなければ描けなかったであろう作品の数々。「國之楯」は陸軍の依頼で制作されながら、受け取りを拒否されました。胸の上で手を組み、横たわる兵士の顔は日の丸で覆われています。これまで死体や遺体を描いた絵を何度となく見ましたが、このような絵は見たことがなかったです。遺体の重み温もりが伝わってきそうな作品。背景には当初、桜の花びらが描かれていましたが、戦後、消されたそうです。そのせいか、心なしか絵のバランスに違和感もあります。画家は何を思って花を消したのでしょうか。そして、背後に広がるのは永遠の闇・・・。

その他にも戦争を描いた作品があります。「日本刀」のすらりとした抜き身。「軍艦」の海の彼方に霞む炎。戦争と関わりのない作品は打って変わって瀟洒な作風です。「細雨瀟々」は雨に霞む叢に光る蛍。「秋之聲」は大きな満月の光に虫の音が聞こえてきそう。「五月晴」は穏やかな青空にひらひらと鯉のぼりが舞う平和な風景・・・。

さて、この日はまた、ギャラリー近くの「イデミ・スギノ」に寄ってきました。わりと早めの時間に行ったので、3度目にしてようやく、アンブロワジーに巡り合いました。さすがにお店の看板ケーキだけあって、芸術的な美味しさでした。テイクアウト不可というのもうなずける繊細な味わいです。一度食べたら忘れられないお味でした・・・。

怖い絵

2019-09-13 23:45:42 | 
今さらですが、中野京子「怖い絵」を読みました。

この本を買ったのは、実は2年前・・・そう、あの「怖い絵」展の時です。展覧会の予習のために買いました。同時に買った「泣く女篇」の方は読み終えたのですが、こちらは時間切れになってしまい・・・その後、仕事が忙しくなったりで、ふと気がつけば、2年の歳月が過ぎておりました。ほんと、時が経つのって早い・・・。

さて、この本には中野さんが「怖い絵」シリーズを書くきっかけとなった、ある絵のことが書かれています。そう、ダヴィッドが描いたマリー・アントワネットの絵。私は十代の頃、シュテファン・ツヴァイクが書いたマリー・アントワネットの本にこの絵が載っているのを見て、何だか怖い・・・と思った記憶があります。怖いというか、違和感。今にして思えば、絵を描く動機がそもそも違っていた、ということなのでしょう。中野先生はその怖さを怖い絵シリーズへとつなげられました。先生のお書きになる文章には独特のドライヴ感があって、ぐいぐい引き込まれてしまうのですが、特に歴史絡みの話になると一層、筆が冴えるようです。ホルバインのヘンリー8世、レーピンのイワン雷帝とその息子・・・ベーコンが描いたインノケンティウスの話も。なかでも恐ろしかったのがジェリコーの描いた「メデューズ号の筏」にまつわる話。画家のいまわの際の言葉にも驚かされます。かと思えば、一見、この絵のどこが怖いの?という作品もあります。が、中野先生にそのゆえんをひも解かれると、怖さが迫ってきます。ホガースの「グラハム家の子どもたち」はまさにそのような作品。意外なところではドガの踊り子、ルドンのキュクロプロス、クノップフの見捨てられた町なども。怖さ、にもいろいろありますね。

そんなわけで、2年前の展覧会を思い出しつつ、ほぼ一気読みしてしまいました。今、思い返してもあれは画期的な展覧会だったなぁ・・・(しみじみ)。「絵を読む」面白さを教えてくれました。それにしても、家にはまだまだ積ん読状態の本が積み重なっております。この山が平地になるのは、いったいいつの日のことだろう・・・(爆)。

上野の処暑

2019-09-06 19:35:28 | 美術
ひさびさに上野で展覧会のはしごをしてきました。

最初に向かったのは、東京藝術大学美術館の「円山応挙から近代京都画壇へ」です。なんと大乗寺からはるばる襖絵たちがやってくるという・・・。まずは応挙の「松に孔雀図」。しょっぱなからゴージャスです。墨一色で松の緑や孔雀の羽のグラデーションも再現してしまいます。おそるべし。呉春の「群山露頂図」と「四季耕作図」は打って変わった画風。この変化は応挙の影響のようです。展示は描かれたもののテーマ別になっています。呉春の「松下游鯉図」は透き通るような水の青が綺麗。芦雪の「孔雀図」「花鳥図」は華やかなかに遊びの要素も。かと思うと動物コーナーが。芦雪のワンコも栖鳳のワンコも愛らしい。岸竹堂の「猛虎図」は虎の重量感まで伝わってきそうな作品ですが、これはリアル虎を見て描いたものらしい。風景を描いたものでは木島櫻谷の「山水図」が面白かったです。伝統的な山水画に西洋の遠近法のような手法が加味されて何とも不思議な奥行きのある作品になっていました。珍しいところでは応挙が描いた美人画も。これが上村松園の美人画へとつながっていくようです。というわけで、円山・四条派の系譜を概観できた展覧会でした。これまで円山・四条派という言葉は知っていても、漠然としたイメージしかなかったのですが、これからはある程度系統的にみられるようになりそうです。

さて、例によって鑑賞後はランチということで、美術館内にあるホテルオークラ運営のミュージアムカフェに寄ってきました。アボカド&BLTのサンドイッチにしましたが、けっこう具沢山でお腹いっぱいになりました。付け合わせのサラダの三種のドレッシングも美味しかったな・・・。

さて、お腹も膨れたところで、いざ、リアル三国志へ参らん、ということで東京国立博物館に行ってきました。不肖わたくし、子どもの頃から弟ともども三国志&水滸伝の大ファンで、例によって横山光輝→吉川英治→駒田信二と読みふけったものです。なぜ今、三国志?と思ったら、近年、中国では三国志関連の研究がめざましい成果をあげているということのようです。もうひたすら、なつかし~~~、を連発しながら見ておりました。お髭が凛々しい立派な関羽像もあるよ、孔明が3日で十万本の矢を集めた件も再現されているし、なんと曹操高陵まで・・・。合間には横山光輝の漫画や、NHKの人形劇の人形まで展示されていて、なつかしさに拍車がかかります。一級文物(中国の国宝みたいなもの)が数多く含まれる遺物も、当時の英雄豪傑に引き付けてみると感慨深くなるというものです。三国それぞれの特徴もよく伝わってきて、これまであくまで紙の上のできごとでしかなかったかの時代が、リアルに立ち上ってくるようです。そして、おみやげコーナーも思わず欲しくなってしまうものがたくさん・・・。桃園の誓いTシャツがかっこよかったので、息子のおみやげに買って帰ろうかと思いましたが、これは単独で着てもあまり意味がないのでは、と思いなおしました。孔明扇も欲しくなってしまいましたが・・・困ったときも、これでパタパタすれば何だかいい知恵が浮かびそうではないですか・・・とはいえ、これを職場でパタパタするわけにも、とすんでのところで思いとどまったのでした。

二つの展覧会を見て既におなかがいっぱいになっていたのですが、さらに東京都美術館へ。「伊庭靖子 まなざしのあわい」を見てきました。クールダウンにふさわしい、清涼感のある作品の数々。伊庭さんの作品の感想を言葉で表すのは難しいです。まさに言葉にならない感覚を絵で表した作品だからなのでしょう。何の予定もないある秋晴れの朝、リビングに射し込んできた透明な光を見て、何ともいいようのない幸福感に包まれる・・・そんな感覚を思い出しました。永遠に留めたいと思ってもかなわない思いを、せめて画布に・・・そんな切なさを感じます。

そんなわけで、まるでテイストの違う三つの展覧会を楽しんで参りました。本当は東博の奈良古寺の仏像や西洋美術館の松方コレクションも見たかったのですが、時間切れであえなく断念。ここ上野だけでも、見切れないほどの展覧会が開かれている・・・幸せなことです。