aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

The Pen

2017-09-29 23:22:25 | 美術
日本橋高島屋で「池田学展 The Pen」を見てきました。

池田さんのことを知ったのは、ほぼ今年始めのNHKの番組でなのですが、それ以来ずっと、この展覧会を心待ちにしていました。というわけで、私にしては珍しく、初日に伺ったのですが・・・行列こそなかったですが、中はかなり混んでいました。それもシニア層がたくさん・・・。若いお客さんが大半なのかと思っていたので、けっこう意外でした。日本橋という場所柄でしょうか。それにしても皆さん、私のようにNHKの番組を見てやって来たのだろうか・・・。

この日は、鑑賞前に腹ごしらえ・・・ということで、高島屋の中の「ジョエル・ロブション」へ。2千円のランチにしたのですが、メイン、パン、ドリンク、デザートがついてきて、なかなかにお得です。メインはガレットにしましたが、さくっとしていて美味。デザートもはブリュレにしましたが、上にフランボワーズのソルベものっていて、こちらもとっても美味。お腹もいっぱいになったところで、いざ会場へ。

デパート展と思って油断していたら、かなり本格的な展覧会でした。現在に至るまでのほぼ全作品が網羅されているとか。作品は概ね年代順に展示されていました。芸大の卒業制作「巌ノ王」も。早くも驚きの細密描写です。そしてなぜかラピュタを思い出したり・・・。「ブッダ」も一瞬、写真のように見えますが、実はかなりシュール。シュールといえば「興亡史」も凄い。こちらは「千と千尋の神隠し」を思い出したりも。そして、震災の3年前に描かれたという「予兆」。時にアーティストは時代を予知するような作品を生み出すことがありますが、これもまさにその一つなのでしょう。一方、「メルトダウン」は震災後に描かれたそうです。展覧会のChapterの一つに「自然と文明の相克」というタイトルがついていましたが、これは池田さんにとって主要なテーマなのでしょうか・・・。そんな中で、「痕跡」のような、海を描いた作品が印象的でした。グルスキーの写真を思い出すような、暗い海・・・。

ところで、今回、動物シリーズも展示されていました。池田さんは東京動物園協会が発行する「どうぶつと動物園」という雑誌にも作品を描いていたそうです。この動物たちがもう、ふわふわの、もふもふの、つぶらな瞳の・・・で、とにかく可愛い!かと思うと、朝日新聞で法廷画も描いていたそうで・・・中には覚えのある事件の絵で、これは池田さんが描いてたんだ、というものも。そして、お約束(?)の子ども〜青年時代の作品も。やっぱりというか何と言うか、子どもの頃から巧かったんですね。そんな中で、19歳の時の自画像に思わず眼を惹かれました。

そして、「誕生」です。テレビで見た時からずっと、この絵を生で見たい、と思い続けていました。作品の前に立つともう、言葉も出ません。生命の流れが溢れ出すようで・・・。テレビでは、描かれているモチーフにまつわるエピソードもいろいろと語られていたのですが、そういうのも飛んでしまって、ひたすら立ち尽くすしかありませんでした。この作品の前はずっと人だかりで、なかなか全貌を見られなかったのですが、ほんのわずか、雲の切れ目から晴れ間が覗くような時があって、まさに至福の光景でした。

会場では池田さんのインタビューの映像も流れていました。一日に10センチ四方しか描けないこと、大きな絵は構図を決めずに描くこと、住んでいる場所にも影響を受けること・・・ジブリのことにもちょっと触れられていましたね。そして何より・・・展覧会の冒頭に、楽しんで見てほしい、という池田さんの言葉がありましたが・・・本当に楽しませてもらった展覧会でした。
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世界一優雅な野獣

2017-09-27 00:21:51 | 映画
アップリンクで「ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣」を見ました。

実は別の映画がお目当てだったのですが・・・なんと満席。なので、ちょうど同じ時間帯に上映されていたこちらの映画を見て行くことにしました。あの奇跡の4分間をスクリーンで見られただけでも、行った甲斐がありました。

この映画は19歳で英国ロイヤル・バレエ団の史上最年少男性プリンシパルとなった、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリーです。あのロイヤルで、ですからその才能のほどがうかがい知れます。しかし、その2年後、人気の絶頂で突如電撃退団・・・(以下、ネタバレ気味です)。

赤ちゃんの頃から看護士さんが驚くほど股関節が柔らかかった(!)というポルーニン。幼い頃から才能を発揮する彼を見て、母親は一大決心をします。彼をバレエ学校に通わせるために、父と祖父母が外国に出稼ぎに行き、彼と母はキエフへ。さらにはロイヤル・バレエスクールに入るためのオーディションを受け、一発合格。母親にはビザがなかったため、彼は単身イギリスへ。そこからプリンシパルに登り詰めるまでに時間はかかりませんでした。

その一方で、両親が離婚。自分が成功することで再び家族が一緒に暮らせるように、という希望を失った彼は、体中にタトゥーを入れ、ドラッグにも手を出し、自滅へと向かいます。ついにはロイヤルを電撃退団。その後、雪の上で裸になって狂ったようにはしゃぐ彼を見て思わず背筋が寒くなりました。

彼の踊りは素人目にも明らかにその凄さがわかるというもの。ヌレエフの再来とまで言われたのも伊達ではありません。その一方で、家族との関係に苦しみ続け、普通の人生を望む一人の青年でもありました。子供の頃から家族と離れバレエ漬けだった彼の迷走は、遅れてやってきた反抗期なのかもしれません。それでも、「苦しみから解放されるには―踊るしかない」。

ポルーニンこれが最後と思って踊った“Take Me to Church”の踊りがもう・・・もはや神々しいです。圧倒的な才能と努力に加え、苦しみ抜いた過去があるからこそ、踊れた踊りなのでしょう・・・人はなぜ踊るのか、その答えのすべてがあるような、そんな踊りです。

それにしても、ポルーニンはまだ27歳(!)なのですよね。彼の本当の幸せはどこにあるのか・・・終盤、キエフのバレエ学校で、子供時代の恩師と再会した時の幸せそうな顔が印象的でした。彼の自分探しの旅はどこへ辿り着くのでしょうね・・・。
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天下を治めた絵師

2017-09-23 14:14:33 | 美術
サントリー美術館で「狩野元信」展を見てきました。

狩野元信・・・偉大なる二代目。その割にはこれまで作品をまとめてみた記憶がない・・・と思ったら、初の単独回顧展なのだそうです。というわけで、メインビジュアルの作品が出るまで待ち切れず、早々と行ってまいりました。

会場に入ると大仙院壁画の「四季花鳥図」、そして「禅宗祖師図」が。子どものような感想ですが、やっぱりこの人、めちゃめちゃ巧かったんだなぁ・・・と。で、何となく思い出したのが円山応挙。巧すぎるがゆえに却って印象に残りにくい、という現象が時として起こるような気がしますが、この場合もそれなのかも、と。多くのお弟子さんを抱え、一派を成したというところも似ています。そりゃ、お師匠さんが圧倒的に巧くないと、弟子、ついてきませんもんね・・・。

今回、元信が参考にしたという中国絵画の名品も展示されていました。夏珪の山水図やら牧谿のお猿さんなどが出ていましたね。元信は馬遠と夏珪を真体、牧谿を行体、玉澗を草体とする三体の「画体」を創り出し、マニュアル化したそうな。驚くべき発想というか、ビジネスセンスです・・・。作品には、キャプションに真・行・草などのマークがつけてあるものもあり、なるほど、この作品が行なのか〜、とかまじまじと見入ってしまいました。

しかし、元信の驚くべきところはそれだけではありませんでした。今度はなんとやまと絵の領域にも進出しています。「釈迦堂縁起絵巻」「酒伝童子絵巻」など見事なものです。やはり元が巧いから、違うジャンルに進出してもあっという間なんでしょうね・・・。「和漢を兼ねる」は、その後も狩野派の強力な売りになりました。さらには、主に絵仏師の専門領域とされていた仏画も手がけています。「白衣観音図」も綺麗でしたね。顔の表現が世俗的になっていることがそれまでの仏画とは違うとか・・・。

というわけで、二代目の仕事ぶりを堪能してまいりました。彼が圧倒的な画力の上に、画体の確立とやまと絵の進出という二大事業を行ったのが、その後400年にわたる狩野派の礎となったのですね。そういう意味で、アートとビジネスのお勉強(?)を兼ねられる展覧会でした。

観賞後、甘いものがほしくなったので、併設の不室屋のカフェに寄ってきました。頼んだのは「不室屋パフェ」。和の素材でつくられたパフェなのですが、これが美味しかった。記憶に残りそうなパフェです。今夏最後のパフェかなぁ・・・。
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戦中日本のリアリズム

2017-09-11 20:42:05 | 音楽
そんなわけで、今年も「サントリーサマーフェスティバル」に参戦してきました。

今年、選んだプログラムは「戦中日本のリアリズム」。太平洋戦争期の日本人の作品で全て構成されているという、異色のプログラムです。

一曲目は尾高尚忠の「草原」。最初の弦の霊妙な響きに、早くも震えがきました。どこまでも広がるアジアの草原のイメージです。どこか大河ドラマのテーマ曲のような雰囲気もあり・・・(順序が逆か)。雄渾な音楽です。二曲目は山田一雄「おほむたから」。おほむたからとは、天皇の民、のことらしいです。この曲は1945年の元日に、対米戦争開始5年目を迎えた国民を励ます音楽として全国に流れたということですが、実は葬送行進曲であるマーラーの5番が下絵になっているという・・・何とも言いようのないくらい、壮絶な曲でした。聴きながら、なぜか藤田の戦争画が思い浮かんだのですが、解説にもそのことが書いてあって、両方を見聴きした人はやはり同じことを思うのだろうな、と得心しました。

休憩を挟んで三曲目は伊福部昭の「ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲」。これまでとは打って変わってノリノリの曲で、オケも大熱演、ソリストの小山実稚恵さんも素晴しかったです。終了後、ブラボーの声も飛んでいましたね。拍手もなかなか鳴り止まず、で、ソリストアンコールで伊福部氏の「七夕」を弾いてくださいました。とても綺麗な曲で、しばし放心状態・・・。

再度の休憩を挟んで最後は諸井三郎の「交響曲第3番」。プロのオーケストラ演奏するのは実に39年ぶりなのだそうです。絶望を経て、救いに向かうかのような音楽。この曲から思い浮かんだのはミュシャのスラヴ叙事詩の最後の絵。なぜだろう・・・。

この異色のプログラム、最初から最後まで異様な迫力がありました。この日の曲は、全て戦中に書かれ、一曲を除いて初演も戦中でした。当時の人々はどういう思いでこの曲を書き、そして聴いたのか。企画者の片山氏は「作曲家たちは白鳥の歌を懸命に歌い出す」、指揮者の下野氏は「死と隣り合わせの状況下で命を削る思いで、五線紙にペンを走らせていた」と書いておられます。作曲者だけでなく、演奏者も聴衆も命がけだったのかもしれません。演奏の最中に爆弾が落ちてこないとも限らないわけですよね・・・。

この企画については、時代遅れ、時代錯誤という非難の声もあったそうです。が、不幸なことに、時代遅れでも時代錯誤でもなくなってしまったのではないかと思えてしかたがありませんでした。今は頭上を越えていっているミサイルが、いつ頭上に落ちてくることになるかわからない、いつの間にかそういう時代になってしまいました。下野氏の言葉にも「2017年が、未だ戦後なのか、戦前に相当するのか」とありました。過去の歴史を考えれば、生まれてから死ぬまで戦争を知らずにいられたら、それは相当、幸運なのかもしれません。かつて、今日演奏された曲を初めて聴いた人たちと同じ状況で、音楽を聴く日が来ることのないように、と願わずにはいられませんでした。
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ヨーロッパの木の玩具

2017-09-03 00:32:56 | 美術
目黒区美術館で「ヨーロッパの木の玩具」を見てきました。

わが家の2歳の娘は大の積み木好き。なので、最初は彼女だけ連れて行こうかと思っていたのですが、お兄ちゃんも一緒がいいと言い張るので、7歳の息子も連れて行くことにしました。積み木なんてさぁ、という小学生男児はいったい反応を見せるのか・・・。

会場に入ると早速、美しき積み木たちがお出迎え。積み木の街なんかもあって、見事なものです。しみじみと見入りながら、ここで地震なんか起きちゃったら大変だろうなぁ・・・とか、あらぬことを考えてしまいました。娘は積み木の乗り物や積み木の動物園が特に気に入ったようで、あれこれおしゃべりしながら楽しげに見ていましたね。息子の方は一通り展示を眺めると、おもちゃで遊べるコーナーに張り付いていました。大人でもむずかしいようなパズルもあって、かなり熱中してましたね。妹もお兄ちゃんの遊びをしげしげと眺めています。思いのほかここで長居したので時間がなくなってしまい、伝統的な玩具の方はさらっとしか見られませんでしたが、こちらもやはり美しくも精巧なものでした。クリスマス玩具や、ノアの方舟や聖誕セット、天使シリーズといった宗教的なものが多いのが印象的でした。このあたり、お国柄なのでしょうか・・・。最後に1階のプレイコーナーで積み木のタワーを作り、子どもたちもほぼ満足したようです。帰り際、娘はミュージアムショップの玩具のガラスケースに張り付いていましたが、そのお値段を見て、あわててガラスから引っぺがし・・・(爆)。

そんなわけで、大方の予想通り、鑑賞よりも遊びに熱中していたわが子たちでしたが、おもちゃたちにとっては、それが本望なのかもしれませんね。ネフ社の創業者、クルト・ネフによると「子どもはおもちゃを通して、世界を知っていく」そうですし。それにしても、子連れで美術館に行くと、おちおち作品を見ていられませんね・・・やれやれ(笑)。
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