aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

2022年ベスト

2022-12-30 21:26:32 | ベスト
2022年も残すところあとわずか。一年経つのがほんとに早いですね…ということで、例によって今年、見た/聴いたものからベストを選んでみたいと思います。基準はあくまで私個人に与えたインパクトの強さ、です(順番は観た順)。

○美術
 ・ゲルハルト・リヒター展(東京国立近代美術館)
  開催を知った時から首を長くして待ち続けた展覧会。絵画芸術の行きつく果て、を見たようでもあります。「ビルケナウ」の巨大な闇…。
 ・ジャム・セッション 石橋財団コレクション×柴田敏雄×鈴木理策(アーティゾン美術館)
 柴田敏雄×鈴木理策、そして絵画×写真という入れ子のような展覧会。絵画の眼と写真の眼の違いを目の当たりにしました。
 ・インベカヲリ★写真展「たしか雨が降っていたから、」(Gallery KTO)
 被写体の想い…というよりか、念が映っていそうな写真の数々。ギャラリーのドアを開けた瞬間の強烈なインプレッションは忘れられそうにありません…。

○映画
 ・アメリカン・エピック
  アメリカの広大な土地、多様な民族から生まれた音楽が豊かな川となり世界中を潤していく…そのダイナミズムが圧巻でした。
 ・アートなんかいらない!
  アートとはなんぞや…という永遠の謎に関西ノリで突っ込むスタンスが絶妙でした。自分にとってのアート(あーと)を振り返る契機にもなりました。
 ・ソングス・フォー・ドレラ
  人を愛し憎むこと、そして悼むこと…を突き詰めた音楽。元VUの二人のスリリングかつスタイリッシュなパフォーマンスも凄かった…。

○音楽
 選ぼうにも3本しか行けていない(涙)。笙の名手三人の揃い踏みも、15年ぶりのファミシュガも素晴らしかった!

今年は音楽ドキュメンタリーが超豊作…だったため、自分史上、最も多く映画を見た一年だったのですが、その分、展覧会に行く回数が少なくなってしまいました。とはいえ、今年もアートやあーとをマイペースで楽しむことができました。本当にありがたいことです…。

ステイン・アライヴ

2022-12-19 22:23:10 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「ビー・ジーズ 栄光の軌跡」を見てきました。

不肖わたくし、ビー・ジーズとの出会いは小学生時代に遡ります…当時、エレクトーンを習っていたのですが、ビー・ジーズの曲をエレクトーン用にアレンジした曲集をレッスンで使っていて、これがお気に入りでした。ステイン・アライヴ、愛はきらめきの中に、ホリデイ…子供心にもなんてかっこいい曲!と。その後、長~い年月が経った今になって、彼らに何が起こっていたのかを映画を通して知ることに…(以下、ネタバレします)。

この映画ではギブ3兄弟の生い立ちから近年に至るまでを丁寧に追っていきます。それにしても、全世界でのレコードセールスが 2 億枚以上、全英・米 No.1 ヒットが 20 曲、トップ 10 ヒットが 70 曲って、今さらながらとんでもない数字ですよね。インタビューに登場するのも錚々たるミュージシャン達。ノエル・ギャラガー、エリック・クラプトン、ニック・ジョナス、クリス・マーティン、ジャスティン・ティンバーレイク…ビー・ジーズについて語りたい人が多すぎて製作陣が対応に困ったというほどですから、その影響力の大きさが窺い知れます。ノエル・ギャラガーが珍しく(?)真面目に話しているのも印象的でした。「兄弟の歌声は誰も買えない楽器」と彼が言うと説得力があります。やはり兄弟のコーラスって他人には真似できないものがありますよね…。ビー・ジーズがファルセットで歌い始めたのは元はウケ狙いのようですが、世界最強のファルセット・コーラスを「彼らの声はラッパだ」という人も。エリック・クラプトンも登場していましたが、ビー・ジーズの本質はR&Bだと…そして、ビー・ジーズ復活のきっかけを作ったのが自分の音楽業界における最大の功績、とまで言っていました。

とんでもない記録を打ち立てたビー・ジーズですが、苦難の時期もありました。売れすぎの反動からのディスコ・ヘイト…スタジアムに集った人々がビー・ジーズやブラック・ミュージックのレコードを破壊するイベントがあったということは初めて知りました。そして、兄弟の確執、弟たちの早世…一人残った長兄バリーの「弟たちが帰ってくるなら成功なんていらない」という言葉が何とも切ない…。

子どもの頃、大好きだった「ステイン・アライヴ」。歌詞の意味なんて考えたこともなかったのですが、あらためて聴くと本当にハードな歌詞だったのですね…生きていくことはサバイバル。70代のバリーがフェスで踊りまくる大観衆の前で一人、この曲を歌う時、兄弟たちの声は聴こえていたでしょうか…。

セッションズ

2022-12-12 22:48:41 | 映画
恵比寿ガーデンシネマで「アメリカン・エピック エピソード4」を見てきました(上映は既に終了しています)。

9月に開催されていたPeter Barakan’s Music Film festival 2022でこの映画のエピソード1から3までは見たのですが、時間の都合で4を見られなかったのが、心残りでした…が、一時閉館を経て再オープンした恵比寿ガーデンシネマでなんと一挙上映してくれるということでいそいそと行ってまいりました(以下、ネタバレします)。

アメリカン・エピックは1920年代以降のアメリカでレコードに録音された音楽を通してポピュラー・ミュージックの歴史を辿るドキュメンタリーです。エピソード1から3までは過去編ですが、4の「セッションズ」では現代のミュージシャンたちが当時の録音システムを使ってレコーディングするセッションを収録しています。録音システムを復元するのになんと10年もかかったのだとか。登場するのはエルトン・ジョン、ナズ、ベック、タージ・マハ―ルほか、錚々たる20ミュージシャン達。彼らがスタジオの中心にある一本のマイクに向かって、せーの、で一発録りをしています。昔は当たり前だったこの光景も今となってはもはや珍しいものなのでしょうね。エルトン・ジョンがバーニー・トーピンの詩に試行錯誤しながら曲をつけていくシーンもありました。彼に音楽の神が降りてくる瞬間を目の当たりにしましたよ…。それにしても、エルトン・ジョンが弾くピアノって本当にゴージャスに鳴りますね…さすがはピアノ・マン。機材の問題で4分しか録音できないことを知った時の下ネタ系リアクションもみごとでした。ベックも登場しますが、彼のレコーディングは意外にも難航していました。バックのクワイアの音量が大きすぎてバランスがとれなかったのです。結局、マイクからの距離を調整することでようやく解決。この時、既にテイク13…。Nasがメンフィス・ジャグ・バンドの曲をレコーディングするシーンもありましたが、当時の詞がそのまま現代のラップに通じていましたね…。ミュージシャンたちが入れ替わり立ち替わりレコーディングする最中に機材が故障するハプニングも。ベルトにつけた重りが落下する力がエネルギー源になっているようなのですが、この布が裂けてしまったのです。ジャック・ホワイトが自ら布を買いに行ってミシンでカタカタ縫いものしていました。こうして録音された音には何ともいえない温かみがありましたね…。

スタジオは教会…という人もいました。この映画のレコーディング風景には何か聖なるものが宿っていたようです。そして、音楽を聴けばその時代を体感できる、という言葉も。音楽って本当に不思議ですよね…目にも見えず、手で触れることもできないのに、音楽を通じて自分が存在していなかった時代、場所へと旅することができるのです…。