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アートネタなど日々のあれこれ

音を視る 時を聴く

2025-01-08 00:15:22 | 美術
東京都現代美術館で展覧会のはしごをしてきました。

長丁場になりそうだな~、ということでまずは腹ごしらえ。美術館内にある「100本のスプーン」に行ってきました。実はここに行くのは今回が初めて。いつもたくさんの方が待っていたのでパスしていたんですよね…。この日はオマール海老のビスクのクリームドリアを頼みました。ソースが濃厚で美味しかったです。

最初に観たのはMOTコレクションの展示です。「竹林之七妍」は新収蔵作品を中心に女性作家7人の作品を紹介する展覧会。高木敏子さんのダイナミックなファイバーワーク。生誕100年プロジェクトが進行中の間所(芥川)紗織さんの作品も。小林ドンゲさんの版画はビアズリーを彷彿とさせる妖艶さ。前本彰子さんの巨大ドレスはインパクト大です…。7人の女性たちのパワーに圧倒され、この時点でけっこうお腹いっぱいに…。

そして、企画展の「坂本龍一|音を視る 時を聴く」へ。教授の生前の構想に基づく展覧会で、タイトルは80年代に発行された教授と哲学者の大森荘蔵氏の対談集からとられています。教授のサウンド・インスタレーション作品10点あまりを紹介していますが、そのうち5点は高谷史郎さんとのコラボです。《TIME TIME》は、2021年初演の舞台作品「TIME」を元にした作品。4月に観た舞台の記憶がよみがえります…。《water state 1》の神秘的な水音。《IS YOUR TIME》は被災ピアノが地球の鳴動を伝えます。《PHOSPHENES》 《ENDO EXO》はカールステン・ニコライの脚本を映像化したものに教授の最後のアルバム「12」の曲を重ねた作品。音と映像の親和性。《async–first light》《async–first light》はアピチャッポン・ウィーラセタクンとのコラボ。独特の色味がノスタルジック。海の映像が好きだったなぁ…。《async–immersion tokyo》は高谷史郎さんによるモノトーンの映像が実にスタイリッシュで、作品の前から動けなくなりました。《async–volume》は教授の日常を垣間見るような作品。《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》この作品好きなんですよね…揺れる水面をいつまでも見上げていたくなります。《センシング・ストリームズ 2024》は真鍋大度さんとのコラボ、電磁波を一種の生態系ととらえ、東京の姿を映像と音で描きます。《LIFE–WELL TOKYO》は中谷芙二子さんによる霧の彫刻。私が行った時は先が見えないくらいの濃霧で…霧を堪能。《Music Plays Images X Images Play Music》は岩井俊雄さんが教授のパフォーマンスを再現した新作インスタレーション。ピアノを弾く教授のホログラムを見ているとなんだか泣けそうに…最後の曲がParolibreというのがますます…(涙)。最後はアーカイブの展示でしたが、ここには教授の手書きのメモがたくさん展示されていて、それを見るとまた泣けそうに…。そんなわけで、想定以上の大規模展でしたが、教授と錚々たるアーティスト達とのコラボレーションは音と映像の融合の到達点を見るようでもあり、教授の長年のファンとしても感無量…東京都現代美術館さん、本当にありがとうございます…。

最後に「MOTアニュアル2024こうふくのしま」も見てきました。このタイトルは国吉康雄氏の作品「幸福の島」が元になっているそうです。清水裕貴さんの「星の回廊」は大連の海岸と東京湾の歴史から、架空の貝の一族の歴史を創造した作品。貝族の興亡を書いたテキストも面白かったです。川田知志さんの「ゴールデンタイム」は巨大な壁画。臼井良平はプラスチック製品の形をガラスで精密に再現する作品を制作していますが、ガラスで作られたペットボトルが本物そっくりでびっくり…。庄司朝美さんのドローイングは深層意識に訴えかけてくるような、一方で切れば血の出るような不思議な作品…。

さて、例によってアートといえば甘いもの…ということで、清澄白河駅近くの「アンヴデット」とケーキを買って帰りました。ピスタチオのケーキをセレクトしましたが、ピスタチオの味がしっかりするクリームとキャラメルの塩梅もほどよく、美味しゅうございました。

恋するピアニスト

2025-01-07 00:00:13 | 映画
新宿ピカデリーで「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

2024年4月に亡くなったピアニスト、フジコ・ヘミングのドキュメンタリー映画です。2018年には「フジコ・ヘミングの時間」公開されましたが(私も見ました…)、こちらの映画では2020年から2024年までのフジコさんの姿を追っています。前作と同じく小松莊一良氏が監督を務めています(以下、ネタバレ気味です)。

フジコさんは1931年生まれなので、この映画の撮影期間には90歳前後ということになりますが、海外を飛び回って演奏活動を続けています。さすがにお歳もお歳ですし、普段は歩行車を押しながら歩いているのですが、ひとたびピアノに向かうと年齢を感じさせない力強い演奏を繰り広げます。コンサートピアニストの過酷さを考えると驚異的というかもはや超人的…。もちろん日々の練習は欠かしません。そしてコンサートはどこもソールドアウト。映画ではフジコさんのコンサートのシーンも。小学校でのコンサート、コロナ禍での教会での無観客演奏、思い出の地である横浜でのコンサート、23年3月パリでのラストコンサート…。チャリティー活動もされていたのですね。私がフジコさんの生演奏を聴いたのはだいぶ前のことになりますが、本当にリリカルな演奏だと思った記憶が…。そして、ミスタッチがあったとしても、そんなのいいの、と思わせてしまう不思議な格と魅力があります。今回、フジコさんの演奏を聴いて思ったのは、彼女のピアノからは大きな時の流れのようなものを感じるということでした。フジコさん自身、ショパンやリストの曲を彼らが生きていた時代のように弾きたいと言っていましたね。ピアノを弾くことが祈りのようでもあり…「清らかな気持ちでピアノを弾くようにしている。私自身は清らかでもないんだけど」という言葉も印象的でした。

この映画では彼女のプライベートも映し出しています。下北沢とパリとサンタモニカに家を持ち、愛する犬や猫とともに暮らし…それにしても動物たちが本当に幸せそうな顔をしてるんですよね。そして時には恋バナも。恋愛がうまくいっている時はピアノの方はふわふわしちゃってダメね…みたいなことを言っていたのが面白かったです。そして90になってもフジコさんはガチで恋をしている…!

68歳でブレイクする前の苦難の半生についても触れられていましたが、あの苦難があったから弾けるピアノ、と思いました。順風満帆な人生だったらおそらくああいうピアノにはなっていなかったでしょう…。人生は苦しいことがある方がうまくいくんじゃないかなぁ、という彼女の言葉が重いです。長い旅路を終えて、今度は天国へと旅立ったフジコさん、あちらの世界で可愛がっていた犬猫たちと再会しているのでしょうか…。

さて、この日は帰りに映画館のあるビルの地下にある「Cafe & Meal MUJI」に寄ってきました。ベイクドチーズケーキとチャイをいただきましたが、素朴なお味のチーズケーキで美味しゅうございました。

オタケ・インパクト

2025-01-06 00:14:11 | 美術
泉屋博古館で「オタケ・インパクト 尾竹三兄弟の日本画アナキズム」を見てきました(展示は既に終了しています)。

不肖わたくし、尾竹三兄弟のことは「日曜美術館」で知りました。文展で三兄弟同時入選を果たすなど展覧会芸術の申し子として活躍しながら、エキセントリックな言動が災いして没落、長らく美術史の語りからも零れ落ちていった…という身の上もさることながら、テレビの画面越しにも伝わってくるその画力とラディカルぶりに惹かれて、いそいそと行ってまいりました。それにしてもこの展覧会タイトル、もしかして担当学芸員さんはエヴァのファンなのだろうか…。

まず、美術館のホールには国観(三兄弟の末弟)の「絵踏」が。劇的な場面における群衆の一人一人の微妙な表情を描き分けたみごとな作品…なのですが、国画玉成会に出品したものの、会長の岡倉天心と兄・竹坡(次兄)が衝突、兄弟で脱会したため数日で撤去されたという曰くつきです。展覧会の第1章は「タツキの為めの仕事に専念したのです」。三兄弟は幼い頃から画才を発揮、富山の売薬のおまけの版画(売薬版画)で生計を立てていましたが、上京し、展覧会での入賞を重ねて評価を得ます。1章は比較的初期の作品ですが、ここには越堂(長兄)の「韓信忍辱図」も。有名な韓信の股くぐりの場面ですが、「あー参ったな~、しょうがないな~やるしかないか~」みたいな韓信の心の声が聞こえてきそうな(?)作品です。第2章は「文展は広告場」。ここで眼を惹かれたのが竹坡の「九官鳥」。金屏風に描かれた木蓮と九官鳥。よくありそうな絵なのですが、竹坡が描くと目の覚めるような鮮やかさ。この絵を描いた前年の1911年には文展に三兄弟同時入選の快挙を果たすものの、1913年には同時落選の憂き目を見ます。第3章は「捲土重来の勢いを以って爆発している」。三兄弟はその後、発表の場を八火社展に移し、帝展への対抗意識を鮮明にします。竹坡は未来派などの西洋の最先端の絵画の動向を踏まえた作品を制作するように…ここでの竹坡はキレキレッです…とりわけ「銀河宇宙」「流星」といった宇宙的な作品は謎のエネルギーを放っています。かと思えばゴーギャンのような作品も。第4章は「どこまでも惑星」。竹坡の「梧桐」は翠色が涼やかな作品。「大地円」はラファエル前派のようでもあり…本当に何でも描けちゃうんでは、この方は。国観の「巴」はこれから決戦におもむく巴御前の凛とした佇まいが美しい。「天の岩戸」(常闇)はモノトーンで描かれた幻想的な世界。「白衣観音」は三兄弟の長年のパトロンだった住友家の第15代春翠死去の翌年に越堂から届けられたという作品ですが、精緻で清らかな仏画です。

そんなわけで三兄弟の作品を堪能してまいりました…企画してくださった学芸員さんに感謝です。そういえば、この展覧会、解説のキャプションも面白かったなぁ…。

さて、アートといえば甘いもの…ということで、美術館の「HARIO CAFÉ」に寄ってきました。お目当てのフルーツサンドは売り切れだったのですが、期間限定のシュトーレンがあったので頼んでみました。フルーツごろごろかつスパイシーでコーヒーによくあいます。コーヒーもさすがの美味しさでした。

コンクリート・プラネット

2025-01-05 00:43:23 | 美術
ワタリウム美術館で「サイドコア展 コンクリート・プラネット」を見てきました(展示は既に終了しています)。

公共空間や路上を舞台として都市システムに介入するアートプロジェクトを展開するSIDE CORE。今回が初めての大規模な個展ということです。2階の展示は都市のサイクルをモデル化する立体作品の新作シリーズ。「モノトーン・サンセット」はナトリウムランプによるオレンジ色の光で照らされた空間。そういえばこういう光、昔、トンネルの中で見ましたよね…。低圧ナトリウムランプの光の中では色彩がモノトーンに見えるのですが、自分の持ち物も全部単色に見えて何だか変な感じ…。「コンピューターとブルドーザーの為の時間」はワタリウムの2階と3階をつなぐ吹き抜け空間を生かした音響彫刻作品。鉄パイプでできた大きなオブジェの中を謎の球体が大きな音を立てて転がり落ちます。都市インフラが発する音がテーマなのだそうですが、たしかに都市には気にも留めない音が溢れているかも…。「東京の通り」は、似てるけどちょっと違うピクトグラムや文字のコラージュ作品。最近あまり見なくなったけれど、工事現場にこういうピクトグラムありましたよね…よく見てみればどれもこれも微妙に違います。3階は都市の状況やサイクルに介入した行動/表現のドキュメント。「untitled」は羽田空港近辺のトンネルの壁を肩で擦りながら歩く様子を記録した映像作品。擦ったところが白くなった線が今でも残っているのだそうです。「empty spring」は2020年4月の緊急事態宣言時、人のいない渋谷の街でのポルターガイスト現象を撮影した映像作品。あの時渋谷ではこんなことが起こっていたのですね…(違。4階ではプロジェクト「under city」の最新展示。東京の地下空間をスケートボードに乗ったスケーターたちが縦横に走り回ります。東京の地下空間ってこんな風になっていたのか…。そして、展示は屋外にも続きます。お向かいのビルを見上げるとそこにはでかいねずみくんが…。

都市の暗部を開拓するというSIDE COREの試みによって、都市には知らない顔があったということに今さらながら気づかされました。真夜中、地下、工事現場、トンネル、無人の街…見慣れたはずの都市がどこか異界のようにも見えてきます。

さて、例によってアートをいえば美味しいもの、ということでこの日は美術館の近くの「とんかつ七井戸」に寄ってきました。日替わりのささみのカツをいただきましたが、衣はサクっと、中身はフワッとしていて実に美味しゅうございました…。

ビバ・マエストロ!

2025-01-02 23:50:58 | 映画
恵比寿ガーデンシネマで「ビバ・マエストロ!指揮者ドゥダメルの挑戦」を見てきました(この映画館での上映は終了しています)。

ベネズエラの指揮者、グスターボ・ドゥダメルのドキュメンタリーです。1981年生まれのドゥダメルは若くしてその才能を世界に認められ、2026年にはラテン系指揮者としては初のニューヨーク・フィルハーモニックの音楽監督となることが決定しています。一見、順風満帆としか見えない彼の指揮者人生の陰には、実は思わぬ波乱と苦悩が…(以下、ネタバレ気味です)。

南米ベネズエラの音楽教育システム「エル・システマ」の申し子ともいえる存在がドゥダメルでした。エル・システマの創設者アヴレウ師も映画には登場していますが、非常にカリスマのある方だったのですね…また、ドゥダメルとは強い絆で結ばれていたことも分かります。師は駆け出しだった頃のドゥダメルに「オーケストラ全体を抱きしめなさい。手は鳥のように翼のように」とアドバイスしているのですが、この言葉好きでしたね…。そして、ドゥダメルが指揮をするとオーケストラの音が魔法のように変わっていくのが映画でもわかります。彼は言葉でのコミュニケーション能力もとても高い方なのですよね。ある曲の指揮をしていた時、「安酒ではなく、シャンパンのような音を」とオーダーしたとたんに、オケの響きが芳醇なものに変わったシーンでは思わず笑っちゃいそうになりました…きっと、皆、美味しいシャンパンのことでも思い浮かべながら演奏していたに違いない…。生まれながらの指揮者のようなドゥダメルですが、子どもや若者のオケの指揮をしている時がとりわけ生き生きしているようです…教え導くことが天職なのでしょうね。スターのような存在ですが、サインにも気さくに応じ、時には温かいアドバイスも与え…人気者なのも頷けるお人柄です。

そんな彼の立場がある事件を境に一変することになります。2017年、ベネズエラで起きた反政府デモに参加した若い音楽家が殺されたことを受け、現政権への訴えを公開したことで、大統領府と対立、シモン・ボリバル響とのツアーが中止になり、さらには彼自身が祖国を追われることになります。祖国を離れ、世界各地で指揮を続けるドゥダメルですが、祖国の子供たちにはいつかまた指揮をしに行くという約束をしていました。2018年にアヴレウ師が亡くなった時も彼はベネズエラに足を踏み入れることは叶いませんでしたが、各地に離散していたメンバーも集めてチリで追悼コンサートを開きます。その時、メンバーに向けて彼はパブロ・ネルーダの詩の一編を引用して語りました。「すべての花が刈られようとも、春は必ずやってくる」。

ドゥダメルの才気の煌きに圧倒させられる一方で、世の中には否応なしに国を背負って音楽せざるを得ない人々もいることを認識させられた映画でもありました。そもそもエル・システマ自体が国家基金によるものであり、貧困層の若者を救う社会運動という面もありました。こういうシステムの下で育った音楽家が国と音楽とのジレンマに苦しむことになる…その事実が言いようもない重さとなって心には残ります。いつかドゥダメルがベネズエラの子供たちとの約束を叶える日が来ることを祈らずにはいられません…。

さて、この日は上映後に映画館の近くの「綾川」に寄ってきました。親鶏中華そばのお店です。ここはスープが絶品でしたね…まろやかでコクのある黄金スープ。鶏のマークが入った卵も可愛かったな…。

2024年ベスト

2024-12-30 09:52:04 | ベスト
そんなわけで、今年も残すところあと2日。例によって、今年私が見た・聴いたものからベストを選んでみたいと思います。基準はあくまで私個人に与えたインパクトの強さ、です(順番は見た順です)。今年は公私ともにいろいろあって選ぶというほどには行けていないのですが、縁起物(?)ということで…。

〇美術
 ・青山悟 刺繍少年フォーエバー(目黒区美術館)
  刺繍でこんなことまでできちゃうんだ…という驚き。アートそして、社会に注ぐ視線の鋭さも独特でした。
 ・瑛九 ―まなざしのその先に―(横須賀美術館)
  地道に、丁寧につくられたことが伝わってきた展覧会。作品の軌跡はアーティストの魂の軌跡でもあるのですね…。
 ・坂本龍一 音を視る 時を聴く(東京都現代美術館)
  教授の展覧会の総集編ともいえる内容で、長年のファンとしても感無量…。音楽と映像の融合の到達点を見るようでもありました。
 

〇映画
 ・アンゼルム
  アンゼルム・キーファー×ヴィム・ヴェンダースという時点で期待しかなかったですが、それに違わぬ作品。キーファーの常人離れしたダイナミックな世界観に圧倒されました。
 ・トノバン
  稀代の才人の人生、そして音楽界への多大な貢献を明らかにしてくれました。膨大かつ丹念なインタビューの数々も印象的でした。
 ・ECMレコード―サウンズ&サイレンス
  長年のファンとしては動いてしゃべってるマンフレート・アイヒャーを見れただけで感激。彼の凄まじいまでの音へのこだわり…ECMの響きは彼の耳によって保たれていることを目の当たりにしました。


〇音楽
 選ぶほどには行けていない…のですが、スガさんも、マリア・シュナイダーも、アルディッティもみな、素晴らしかった!

〇舞台
 こちらも選ぶほどには行けていない…のですが、三谷さんも、TIMEも、チェルフィッチュもみな、素晴らしかった!


というわけで、来年もまたいいアートが皆を幸せにしてくれますように!


まなざしのその先へ

2024-11-22 23:06:06 | 美術
なぜか無性に海が見たくなり…横須賀美術館に行ってきました。

企画展は「瑛九-まなざしのその先へ」です(展示は既に終了しています)。瑛九の最初期から絶筆まで、絵画、写真、銅版画、リトグラフなどの代表作約100点が展示されています。会場入口には、瑛九の言葉が書かれた幕が…「ハチきれルゼツボウ感でキャンヴスをタタコウ。ゼツボウが出発だ」と。彼が十代半ばで書いた美術評論が掲載された美術誌も展示されていましたが、驚きのクオリティ…かなり早熟だったのですね。油絵の制作を始めたものの、公募展での落選が続きます。が、印画紙を使った「フォト・デッサン」が絶賛され、注目を浴びることに。フォトグラム自体はモホリ=ナジやマン・レイが既に手がけていましたが、自分で切り抜いた型紙を使うというのが斬新でした。影絵のような不思議な趣。瑛九という名前を使い始めたのもこの頃でした。この名前には新しい作品の作者としてエイキュウでなくてはならないという思いも込められていたのだとか。コラージュ作品はシュールな趣。その後、エッチングにも取り組みますが、驚きの緻密さです。リトグラフにも自ら「リト病」と称するくらい熱中しました。そして、1957年頃から浦和のアトリエで再び油彩画の制作に取り組みます。描かれるものは籠目から網目、丸、さらには点描へと細分化され…宇宙空間を飛び交う粒子を観るような作品の数々。彼曰く「絵畫の中に突入できるかどうか、最後の冒険をこころみようとしています」と。絶筆となった「つばさ」は大空を飛翔する鳥のようでもあり、ビッグバンの光景のようでもあり…この頃になると「筆がね、こうしてすーっと画面に吸い込まれるのですよ」と語っていた瑛九。めまぐるしい変遷を経て、最後は高速で画面の向こう側へと突き抜けていったのでしょうか…。

この日は特集展示の「生誕100年 芥川紗織」も見てきました(展示は既に終了しています)。女性画家の先駆であり、芥川也寸志氏の妻でもあった方ですが、今年が生誕100年ということで、全国の10の美術館で彼女の作品を展示するプロジェクトが実行されています。作品はパワフルでダイナミック、そしてスケールの大きさに圧倒されます。強烈な<女>シリーズ、原始の世界を見るような<神話><民話>シリーズ…理知的かつ大胆な抽象画。彼女の作品からはマグマのようなエネルギーを感じます。こんな凄い絵を描く女性がいたのですね…。

続いて「新恵美佐子 祈りの花」も見てきました(展示は既に終了しています)。新恵さんは横須賀に在住し、日本とインドを行き来しながら、独自の日本画を描いています。日本の四季や、花をテーマにした深遠な趣のある作品。とりわけメインビジュアルになっていた「揺籃」に心惹かれました。深海の光景と生命の連なりを思わせる作品。作者によるとタゴールの詩にこの世界は生と死の海の揺籃のなかで揺らいでいるようなものだという一節があるのだとか…。

さて、アートといえば甘いもの…ということで、美術館に併設されている「アクアマーレ」に寄り、ティラミスとカフェオレをいただきました。ティラミスはしっかりボリュームもあって、美味しゅうございました。ぼんやり海を眺めながらいただくおやつはやはり格別です…。

ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?

2024-10-25 21:12:22 | 映画
恵比寿ガーデンシネマで「ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?」を見てきました。

全米人気No1だったバンドはなぜ失墜したのか…その謎に迫る音楽サスペンス・ドキュメンタリーです。1967年、アル・クーパーが結成したブラッド・スウェット・アンド・ティアーズはブラスロックというジャンルを打ち立て、1969年にはグラミー4部門を受賞する超人気バンドになりました。そして、その翌年、彼らはある事情からアメリカ国務省が主催する東欧諸国への「鉄のカーテンツアー」へと旅立ちます。カーテンの向こう側で彼らが見たものは…(以下、ネタバレ気味です)。

ブラスロック、と言うとまず思い浮かんでしまうのはシカゴですが、BS&Tの方が先だったのですね。元々はアル・クーパーが結成したバンドですが、彼のボーカルでは弱いから、ボーカルを変えたらとメンバーが打診したところ、アルは歌えないならやめるという話になり、代わりにボーカルになったのが、カナダ人のデヴィッド・クレイトン・トーマス。この映画にはライヴのシーンがたくさんありますが、当時の彼の輝きが凄い…力強い歌声と歌の説得力。しかし、彼はカナダにいた頃、10代の半分くらいは少年院にいたというワルだったらしく、その事がこの件の遠因ともなっています。

BS&Tが東欧へ旅立つことになったのは、アメリカ国務省の意向によるものでした。鉄のカーテンが厚かった時代、西側の音楽をワクチン代わりにということだったようです。あのディジー・ガレスピーがパリッとしたスーツに黒縁眼鏡といういで立ちで、素敵な武器(楽器)を持って闘いにいくんだ、と言っているシーンもあって、思わず目が点になってしまいました。そんなこんなで東欧へと旅立ったBS&T。訪れたのはユーゴスラビア、ルーマニア、ポーランドです。ユーゴスラビアでは全く受けなかったのですが、ルーマニアでは大いに盛り上がり…いや、盛り上がり過ぎました。当時のルーマニアは独裁政権による恐るべき監視社会、人々の音楽への渇望はそのまま自由への渇望でもあったのでしょう…。事態を危険視したルーマニア当局はBS&Tにデカい音を出すな、服を脱ぐな、物を投げるな、といった指令を出します。果ては音楽をジャズ寄りにしろ、と。これにはさすがにメンバーがどの程度ジャズ寄りかなんてルーマニアの誰が判断するんだよ、ジャズ目盛りでもあるんかい、と突っ込んでいましたね。厳重注意を受けていたにもかかわらず本番ではやっちまった彼ら、果たしてその結果は…。そして、時にスパイ大作戦ばりの展開を見せながら、鉄のカーテンの向こう側からやっとこさ帰国した彼らを待ち受けていたのは…。

BS&Tの凋落の原因をこのツアーのみに帰すのは早計かと思いますが、それでもツアーに行っていなかったら、とは思ってしまいます。しかし、当時の彼らには行かない、という選択肢は残されていませんでした。つくづく政治って怖い。とはいえ、結果的には半世紀過ぎて当時の輝かしい姿がこうして映画になり、ここ日本でも上映されているわけです。まさに禍福は糾える縄の如しというか、spinning wheelというか…。

さて、この日は帰りに恵比寿アトレの中にある「ル・グルニエ・ア・パン」でアボカドとサーモンのクロワッサンとチーズとハムのバゲットを買って帰りました。パンも具材もびっくりするくらい、美味しゅうございました…。

ECMレコード―サウンズ&サイレンス

2024-10-24 21:07:06 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「ECMレコード―サウンズ&サイレンス」を見てきました。

名門レコード・レーベル、ECMのドキュメンタリーです。私はECMの音楽の大ファンなので、公開を知った時から本当に楽しみにしておりました。長く憧れの人であった、マンフレート・アイヒャーのお姿を見ることができる…!ということで、公開後間もなく、いそいそと行ってまいりました(以下、ネタバレ気味です)。

映画で見るマンフレート・アイヒャーは想像どおりの人でした…年齢不詳のイケオジ、そしてどこか求道的な雰囲気を醸し出しています。寡黙な人のようですが、自分の過去をぽつりぽつりと語る場面もありました。元々ベースを弾いていたこと、しかし偉大な先人のようには弾けないことを悟り、録音する側に回ったこと。いい音楽をたくさん聴いて耳を鍛えたこと…。録音する側になると、音楽の聴こえ方が違ってきたというようなことも言っていましたね。ECMの音楽の透徹した音の響きは彼の耳によるものだったということをあらためて認識しました。彼はレコーディングに立ち会い、音量バランス、ダイナミクス、はてはピアノの調律にまで気を配ります。いい音楽は流星のような光の筋…と語っていたのが印象的でした。奏でられる音を聴きながら、きっと美しい光が見えているのでしょう…。

この映画では世界各地のECMのミュージシャンと会うアイヒャーの姿を追っており、どこかロードムービーのような趣もあります。とりわけ、エストニアの教会でアルヴォ・ペルトがレコーディングしているシーンが感動的でしたね…弦の低音の重厚な響き、odessaのあるところで見てよかったとしみじみ思いましたよ…。ヤン・ガルバレクのレコーディングのシーンも。想像どおりのイケオジぶり、音も迫力がありました。アンゲロプロス映画の音楽を長く手がけたエレニ・カラインドルーのほか、デンマークのパーカッショニスト、チュニジアのウード奏者、アルゼンチンのバンドネオン奏者なども登場。かと思えば、戦火の中にあるレバノンで女性歌手が歌うシーンも。世界各地のミュージシャンとのセッション、ECMの音楽はもはやジャズの枠を超え、ワールドミュージックともどこか異なる、無国籍音楽とでもいうような広がりを見せています。しかし、そこにはアイヒャーの美意識が徹底して貫かれているのです。

この映画、映像もECMのジャケ写のような美しさでした。映像と音楽でECMの世界観を再現したような映画で、見ているとたゆたうように時間が過ぎていきました…。「静寂の次に美しい音楽」を追求するアイヒャーの旅は続いていくのでしょうか…。

ソング・オブ・アース

2024-10-04 00:06:13 | 映画
TOHOシネマズシャンテで「ソング・オブ・アース」を見てきました。

ノルウェー西部の山岳地帯オルデダーレンの大自然と、そこで暮らす老夫婦の姿をとらえたドキュメンタリーです。この地帯は世界でも有数のフィヨルドを誇ります。この映画の監督は夫婦の娘であるドキュメンタリー作家マルグレート・オリン。ヴィム・ヴェンダースと、ノルウェーを代表する大女優リヴ・ウルマンが総指揮です(以下、ネタバレ気味です)。

映画はオルダーレンの春夏秋冬を順に追っていきます。84歳になるという監督の父が散歩する姿をひたすら映し出すのですが、これが散歩というよりはもはや登山…峻険な山道を、トレッキングポールをつきながら軽々と登っていきます。眩暈がしそうな断崖絶壁でも平然としていますが、住んでいる人にとってはいつもの光景なのでしょうね…。監督の母も時おり登場…お二人の仲睦まじい様子が本当に微笑ましいです。

雪山の白、氷河の青、湖の碧、草原の緑、花の赤、オーロラの七色…ドローンを駆使して撮影された映像は圧倒的な大自然を淡々と映し出します。まるで地球の歴史を見ているかのような、壮大な光景です。自然の中で生きている動物たちの姿も。トナカイ、馬、犬、フクロウ、ワシ…ちょいちょい現れたオコジョが愛らしかった…。この映画には自然の音も溢れています。氷河の音、雪崩の音、瀑布の音、風の音、川の音…まさに地球の歌。監督は自然の音を録音し、音楽に変換、作曲家が楽譜に起こし、オーケストラが演奏しています。監督のこの音への並々ならぬこだわりは、幼い頃に「氷河の音からオーケストラが聴こえる」と感じたことから始まるようです。

しかし、美しい自然は時に過酷です。この地でも雪崩や土砂崩れで命を奪われた人々がいました。一方で人間による環境破壊の影響も…この地でも年々、氷河は縮小しています。時に対立しながらも、この地で人々と自然は長い間共生してきました。それでも大自然と比べれば人間はあまりにも小さい…その事実をこの映画は目の当たりにさせてくれます。しかし、その小さな人間たちが細々と命をつないできた奇跡…この地球には奇跡が満ち溢れています…。

さて、アートといえば甘いもの…ということで、この日は日比谷シャンテにあるル・プチメックでクリームホーンマロングラッセを買ってきました。筒状にしたパイ生地の中にマロンクリームが入っているのですが、パイはサクサク、クリームは栗の味がしっかりして美味しゅうございました…。

生まれておいで 生きておいで

2024-10-03 00:05:39 | 美術
ひさしぶりに上野で展覧会のはしごをしてきました。と言っても、だいぶ前のことになってしまいましたが…。

最初に行ったのは、東京国立博物館「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」です(展覧会は既に終了しています)。この展覧会、開催を知った時から楽しみにしていました…内藤さんの世界観と国立博物館がどういう出会いをするのかと。この展覧会は博物館の収蔵品や建築空間と内藤さんの出会いから始まりました。内藤さんは縄文時代の土製品に自身の創造と重なる人間のこころを見出したそうです…。展示は3か所に分かれていました。第1会場となっている平成館の細長い展示室では、ガラスケースの中に縄文時代の遺物がそっと並べられ、天井からは小さな球体のオブジェが吊り下げられています。私は太古から未来へとつらなる生命の連鎖をイメージしました…。第2会場は本館特別5室。カーペットと壁が取り払われ、むき出しの空間があらわれていました。思わず息を飲みましたね…長年通ってきた国立博物館は実はこうなっていたのかと。そして、アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画のワンシーンに立ち会っているような不思議な感覚に陥りました。建物はその歴史を内包しているということを目の当たりにしたような…。第3会場は本館ラウンジ。小さなガラス瓶に水を満たした「母型」がそっと置かれています。壁にはきらきら光る金色の画鋲がいくつか。大きな窓からの光も差し込み、祝福された空間のよう。今まで見たことのないような感じの展覧会でしたが、内藤さんの祈りの縄文の人々の祈りが邂逅した場に立ち会っているような、そんな不思議な体験でした…。

次に行ったのは、同じく東京国立博物館の「空海と神護寺」です(展覧会は既に終了しています)。この展覧会は神護寺創建1200年と空海生誕1250年を記念して開催されました。本尊の「薬師如来像」が寺外で初公開されるというので行ってまいりました…さすがに威厳のあるお姿でしたね…。国宝の「五大菩薩像」は五体が揃う例としては日本最古なのだそうです。曼荼羅のように配置され、ライティングの妙も相まってより神秘的に。また、230年ぶりの修復を終えたという「高雄曼荼羅」も。精緻な美しさがよみがえったような…。神護寺三像の揃い踏みも。その他にも「灌頂暦名」「観楓図屏風」などの国宝や「大般若経」などの重文の多数…神護寺の威力を思い知らされた展覧会でした。

最後に行ったのは東京都美術館の「デ・キリコ展」。キリコの10年ぶりの大回顧展です(展覧会は既に終了しています)。前回の汐留ミュージアムでの展覧会も行きました…あれからもう10年も経ったのか…。今回の展覧会は初期から晩年までの作品が網羅されていましたが、初期の形而上絵画がけっこう出ていたのが嬉しかったです…イタリア広場、形而上的室内、マヌカン…見ているだけで心が異界に飛びます。室内風景と谷間の家具も不思議…さすが謎を愛した画家です。その後、伝統的な絵画へと回帰しますが、再び形而上絵画へ描くように…過去の作品と新たなモチーフを再構成した作品は新形而上絵画といわれました。光と影のコントラストが強烈な初期の形而上絵画と比べるとどこか明るい印象を与えます。今回は絵画の他にも彫刻や、キリコが手掛けた舞台衣装も展示されていました…何ともシュールな衣装でしたね…。そんなわけで、前衛と古典を行き来したキリコの世界を堪能…キリコ展の決定版とも言えそうな充実した内容でしたが、再びこの規模のキリコ展が開催されるのはまた10年後になるのでしょうか…。

LISTEN.

2024-10-02 00:20:44 | 映画
角川シネマ有楽町で「LISTEN.」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

こちらもPeter Barakan’s Music Film Festival2024の一環での上映です。この映画はアメリカの映像作家ギャリー・バシン氏と女優の山口智子さんが10年かけて30カ国の伝統音楽を記録した企画の前半の5年分の素材を編集した作品です。不肖わたくし、民族音楽は大好きなのですが、そうそう自分で現地に出かけて行くわけにもいかず、こういう企画は涙が出るほどありがたく…(以下、ネタバレ気味です)。

このプロジェクトは山口さんのライフワークであり、LISTEN.は未来へ紡ぐ映像のタイムカプセルなのだとか。それにしても30ヵ国ってすごいですよね…カザフスタン、ハンガリー、トルコ、ギリシャ、セルビア、アルゼンチン、ベリーズ、インド、アイスランド、ジョージアなどの伝統音楽が取り上げられていますが、国名を並べるだけでなんだかクラクラしてしまいます…なんてワールドワイドな…!音も映像も素晴らしく、世界にはこんなに素晴らしい音と踊りが溢れているということを実感できる作品でした。まさに音の世界遺産。この企画は山口さんがハンガリーのブタペストで夜の帳から聴こえてきたヴァイオリンに魅せられたことから始まりました。カザフスタンの若手グループ、トルコのピアニスト、ギリシャのリラを奏でる詩人の歌、セルビアのバルカンブラス、アンデス山脈から響く歌、ベリーズの老人のギター弾き語り、インドの超絶技巧、アイスランドの古代の歌…とりわけラストのジョージアでの祝宴で披露されたポリフォニーが最高でした…。

私が行った日は山口さんとバシンさん、そしてバラカンさんのトークも行われていたので拝聴してきました。山口さんを生で拝見するのは初めてなのですが、さばさばしたかっこいいお姉さま、という感じで素敵でしたね。制作のお話がメインでしたが、お二人が現地に行かれると、まずは現地のCDショップでかの地のミュージシャンのCDを大量に買い、これはという人にコンタクトを取るのだとか。他にはボイジャーに載せられたレコードの話とかもされていましたね…。スポンサーさんへの感謝を述べる場面も。そして何より、音を聴いて、感じてほしい…という山口さんの情熱が伝わってくるお話でした。こんな素晴らしいタイムカプセルを残してくださったお二人に心から感謝です…。

自分の道 欧州ジャズのゆくえ

2024-10-01 20:56:28 | 映画
角川シネマ有楽町で「自分の道 欧州ジャズのゆくえ」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

Peter Barakan’s Music Film Festival2024の一環での上映です。この映画は「BLUE NOTEハート・オブ・モダン・ジャズ」と同じくユリアン・ベネディクト監督の作品です。この作品ではヨーロッパのジャズミュージシャンが独自の道を歩む過程を追っています(以下、ネタバレ気味です)。

映画では欧州ジャズの歴史を、アーカイブ映像と欧州ジャズメンのインタビューで明らかにしています。第二次世界大戦後、アメリカの著名ジャズミュージシャンがヨーロッパに演奏に行ったことから、ヨーロッパにジャズが伝わりました。ヨーロッパではミュージシャンがさほど黒人扱いされなかったらしく、人種差別を逃れてアメリカからヨーロッパにやってきたジャズミュージシャンがいる一方、東欧の共産主義政権の下ではジャズが自由の象徴という面もありました。映画ではジャズ・ジャイアンツのヨーロッパでの演奏シーン、欧州ジャズのアーティストのインタビューも多数(ECMのミュージシャン達も出ています)、そしてなんとヤン・ガルバレクがナレーターを務めています。私、ガルバレク大好きなんですよ…テナー吹きで一番好きかもしれません…彼の話す声を聴いて、演奏する姿を見られて満足でした。チャーリー・パーカーになろうとしてもなれない、自分の道を行くしかないということを語っていましたね…。最後の方にECMのマンフレッド・アイヒャーも出ていましたが、レコーディングを指揮する姿はイメージ通りでかっこよかったです。アメリカの黒人の音楽がメインストリームとなっているジャズにおいて、ヨーロッパの白人たちはいかに自分たちの道を見出していったのか…メインストリームではないからこその自由があったようにも思います。そして、さまざまなスタイルを受け入れる懐の広さがジャズの一番の魅力かもしれません…。

私が行った日はピーター・バラカンさんのトークもあったので拝聴してきました。その中でブルーノートの創設者はユダヤ系ドイツ人、ECMの創設者もドイツ人というお話もあり、ジャズの歴史でドイツ人が果たした役割の大きさにあらためて気づかされました。白人世界でマイノリティだった黒人がジャズを生み出し、黒人ジャズの世界ではマイノリティだった白人が白人ジャズを生み出すという入れ子構造、そしてキーマンは実はドイツ人…いろいろと発見のあった映画でした。

ボレロ 永遠の旋律

2024-09-30 23:24:20 | 映画
TOHOシネマズシャンテで「ボレロ 永遠の旋律」を見てきました。

音楽史に残る傑作「ボレロ」の誕生の秘密を、史実をもとに解き明かす音楽映画です。この名曲は実は作曲者のラヴェル自身が最も憎んでいた曲でもあったという…それはいったいなぜなのか…(以下、ネタバレ気味です)。

1928年のパリ、ラヴェルは、ダンサーのイダ・ルビンシュタインからバレエの音楽を依頼されたものの、一音も書けずにいた…というところから話が始まります。編曲の名手でもあったラヴェルは既成曲を編曲して提供しようとするものの、曲の権利が既に他人にわたっていたことを知り、自身で曲を創ることに…。工場の機械音や家政婦の好きな流行歌などからヒントを得て、ボレロを完成させるのですが…。

ラヴェルの音楽の魅力は非常に理知的なところと官能的あるいは陶酔的なところが絶妙なバランスで同居しているところかと思いますが、この映画では官能的なところは本人の意図したところではなかったというスタンスです。ボレロも本人的には新しい時代を礼賛する意図で作曲したのですが、ラヴェルの音楽の特性をダンサーは鋭く見抜いていたのでしょう…この曲に非常に官能的な振付をします。これにラヴェルが激怒。さらにこの曲の大成功に「キャリアが飲み込まれてしまった」と…他の曲が埋もれてしまうという結果にラヴェルの苦しみが深まります。

この映画ではラヴェルの人生、どちらかというと影の部分にも焦点を当てています。思いのほか挫折の多い人生だったのですね…戦争の傷、ローマ大賞に5度の落選、盗作疑惑、母の死、自身の脳の障害…。晩年は、楽想はあるのに譜面に起こせないという状態に陥ります。さらに病が重くなると、ボレロのレコードを聴きながら「この曲誰が作ったの?悪くないね」と…。

それにしてもボレロって凄い曲ですよね…1分間のテーマが17回繰り返されているというだけの曲が時代を超え地域を超えて人を熱狂させているのです…映画のオープニングでもボレロのさまざまなアレンジの映像が流れますが、まさに永遠の旋律。さらに、この映画ではボレロ以外のラヴェルの名曲も使われています。ピアノ曲も海に沈む落日のような美しさ…思い出したのは教授の音楽です。教授はドビュッシーに傾倒していましたが、どちらかというとドビュッシーよりラヴェル寄りだったのでは…と今さらながら思い始めました。それにしても、エンドロールで使われていたあの曲は天国のような美しさだったなぁ…。

アルディッティがひらく

2024-09-29 23:58:51 | 音楽
サントリーホールサマーフェスティバル2024「アーヴィン・アルディッティがひらく オーケストラ・プログラム」に行ってきました。

とは言っても、行ってからだいぶ日が経ってしまいましたが、自分の心覚えのために…。今回、プロデューサー・シリーズに登場したのはアーヴィン・アルディッテイ氏。氏の率いるカルテットは今年で創立50周年ということです。この日はクセナキスのオーケストラ曲を2曲も演奏するらしい…しかもアルディッテイ氏のソロもあるらしい…ということで、いそいそと行ってまいりました。

1曲目は細川俊之「フルス(河)」。いかにも細川氏らしい幽玄な響きの曲。弦楽四重奏が人、オーケストラが自然、宇宙と捉えられています。原型はアルディッティ・カルテットのために書かれた小曲で、この曲はカルテットの40周年のお祝いとして書かれたものだそうです。2曲目はクセナキス「トゥオラケムス」。祝祭的な響きをもつ小品。金管楽器のファンファーレから始まるこの曲は武満徹氏の60歳を祝うコンサートのために書かれました。ちなみにタイトルの「Tuorakemusu」とは「武満徹」のアナグラムなのだとか。アルディッティ氏と武満氏の間には絶大なる信頼関係があり、「私にとって武満は、日本の現代音楽界の王」とも語っています。3曲目はクセナキス「ドクス・オーク」。この曲が圧巻でしたね…巨大な音塊が迫ってくるようでした。この曲ではアルディッティ氏のソロも…ソリッドな演奏。この曲はアルディッティ氏に献呈、初演されています。アルディッテイ氏は「クセナキスは、私の若い時期から長い間に渡って一番影響を受けた作曲家」と語っています。最後はフィリップ・マヌリ「メランコリア・フィグレーン」。マヌリ氏は今回のテーマ作曲家です。魔境を探検しているような曲でした。この曲もアルディッティ・カルテットのために書かれていますが、曲の土台となっている弦楽四重奏曲はアルブレヒト・デューラーの銅版画「メランコリア」に着想を得ています。画に描かれている四次魔法陣から派生した数の組み合わせを用いて作品の基本構造を決定したということですが、多彩な音像が次々と現れては消え、現れては消えする摩訶不思議な曲でした…。

アルディッティ氏と音楽家たちとの絆、日本との縁…そういったものが浮かびあがってくるプログラムでした。また、アルディッティ・カルテットが現代音楽の世界で重要な役割を果たしていたことをあらためて認識させられる機会ともなりました。いろいろな意味で創立50周年のお祝いにふさわしいコンサートでしたね…。