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アートネタなど日々のあれこれ

地獄絵ワンダーランド

2017-08-29 17:37:11 | 美術
三井記念美術館で「地獄絵ワンダーランド」を見てきました。

ことの発端は「ぶらぶら美術館」だったのですが・・・「地獄絵ワンダーランド」の回を見ていたら、なぜか隣で7歳の息子が食い入るようにテレビを見つめている・・・いつも私がテレビで美術番組を見ていると、文句タラタラどこかへ行ってしまうのに。「これ見たい?」と聞いたら、「見たい!」というので美術館に連れて行くことに。

ところでこの展覧会、小中学生の子どもを連れていくと、親子二人が大人の入場料のほぼ半額で入れるという太っ腹な料金設定になっており、ありがたく利用させていただきました。会場に入るとまず音声ガイドを借りたいという息子。聞いても意味わかんないと思うよ?と言っても、借りたいと言い張るので、借りてやりました。サントリー美術館の展覧会に行った時に音声ガイドの使い方を覚えたのか、自分で操作しています。

展示は水木しげる先生の漫画の原画から。何と息子はガラスにへばりつくようにして熱心に作品を見ています。漫画を見たら、あとは飽きてしまうのかと思いきや、その後も音声ガイドと照らし合わせながら、一点一点、しげしげと眺めています。音声ガイドもトータル約30分とけっこう長いのですが、コンプリートしていました。意味がちゃんとわかっていたのかは、いまいち不明ですが・・・。源信の「往生要集」の解説を聞きながら、「この人、地獄に住んでたの?」と聞くので、「たぶん違うと思うよ・・・」と言っておきました。ひと通り展示を見終わると「あー、地獄、楽しかった〜」と意気揚々と会場を後にするわが息子・・・。

「地獄絵ワンダーランド」というタイトルから、子ども向けの展覧会のようにも思えますが、大人が見ても見応えのある展覧会でした。導入こそ漫画ですが、六道絵、十王図、十界曼荼羅、地獄めぐりの物語など、地獄の基礎知識を学びながら鑑賞できる構成になっています。仏の世界を学ぶ機会はしばしばあっても、地獄の世界を学ぶ機会って実はそんなにないのですよね。知恩院の六道絵、龍谷の「地蔵十王図」は美しくもあり、「立山曼荼羅」や「熊野観心十界曼荼羅」の独特の世界観に引き込まれ・・・民芸館のゆるい「十王図屏風」になごんだり、ヘタウマっぽいのに何気に描き込んである東覚寺の「地蔵十王図」に思わず見入ったりもしました。木喰の「十王像」も出ていましたね。鑑賞していると、「取り澄ました仏画より、こっちの方が面白くね?」という悪魔、いや閻魔のささやきが聴こえてくるような気が・・・。だから息子もあんなに夢中になっているのだろうか。

そんなわけで、先日のサントリー美術館の「おもしろびじゅつワンダーランド」と今回の「地獄絵ワンダーランド」と、「ワンダーランド」な二つの展覧会を楽しんでまいりました。二つの展覧会がある意味対照的なのが、興味深かったです。作品を鑑賞する大人とアトラクションで遊ぶ子どもが二極化していたサントリー。大人の中に地獄に興味のある子どもがちらほら混じって、同じ目線で鑑賞している三井。どちらがいいとかいうことではないですが、子どもの興味を決めるのは結局、子どもなんだな、ということをしみじみと感じました。この日、7歳の息子は異様な食いつきを見せましたが、2歳の娘は薄暗い館内で心地よくなってしまったのか、入館後、しばらくすると熟睡。会場を出たところでようやく目を覚まし、「あれ、おばけは?」と寝ぼけ眼・・・。そういえば同じ2歳の頃、息子は「鬼灯の冷徹」の録画を飽きずに何度も見ていたっけ。三つ子の魂百まで、とは言うけれど・・・。

その後、「カニが食べたい」と騒ぎ出した子どもたちを連れ、「日本橋 かに福」で食事にしました。ひさびさのカニ料理。かに飯、かに汁、カニクリームコロッケ、どれも美味しゅうございました。

そして、コレド室町で「アートアクアリウム2017」も見ていきました。いや〜、ド派手でしたね・・・何とも壮麗な金魚空間。あの中にいったい何匹の金魚がいたのだろう。子どもたちも夢中になって見ていました。帰りに金魚のおもちゃをねだられましたが(笑)。また、夏のいい思い出ができました・・・。

パッション・フラメンコ

2017-08-22 23:29:05 | 映画
ル・シネマで「パッション・フラメンコ」を見てきました。

現代最高峰のフラメンコ・ダンサーであり、異端児とも呼ばれるサラ・バラスのドキュメンタリーです。この映画では、パコ・デ・ルシア、アントニオ・ガデス、カルメン・アマジャなど、6人のマエストロに捧げた舞台「ボセス・フラメンコ組曲」の準備期間と世界ツアーに密着しています。ちなみにボセス、とは声の意味らしいです。(以下、少々ネタバレ気味です。)

それにしても、格好いい女性でした・・・めっちゃ男前です。踊りも男性的。とりわけ、あの高速ステップ!そして彼女は才能だけではなく、努力を大切にしています。「才能を開花させるのは努力」「努力しないものはさっさと消えてほしい」とまで言っていて、私のような才乏しい上にぐーたらな者には耳が痛い限りです・・・。この舞台のパコ・デ・ルシアのパートのタイトルが「努力」でしたが、鬼のような努力家ぶりに、お二人の共通点を感じました。

常に前向きで自身も努力を惜しまず、メンバーには的確な指示を与え・・・まさに絵に描いたようなリーダー、いやカリスマです。一方、子どものことを話す時にはママの顔に。「この仕事で一番つらいのは子どもを残してくること」とも言っていました。子宮筋腫があったため、医者には子どもができない、と言われていたこともあったそうで、その頃は現実逃避するかのように速い踊りばかり踊っていたとか。今は難病の子どもたちのための活動もしているようです。

そして、「ボセス・フラメンコ組曲」の上演のシーン・・・サラ・バラスの踊りが凄まじく、画面に目が釘付けになってしまいました。この組曲は、マエストロのキャラクターに合わせて、各パートに「努力」「成長」「自由」などのタイトルが付けられていますが、踊りからそのメッセージがひしひしと伝わってくるようです。

あと、この映画にはストーンズのサックスプレイヤー、ティム・ライスも登場。二人のコラボも面白いです。サラはフラメンコとジャズには共通点があって、想定外の境地に辿り着くことがある、というようなことを言っていました。ティムは超絶技巧を忘れるような無我の境地に新しいものが生まれる・・・と。

ところでこの映画、エンドロールが始まっても、席を立たずに見て行ってほしいです。最後の最後に、鳥肌の立つようなシーンがあります。やっぱりこの舞台、生で見たかったなぁ・・・(涙)。

視覚と知覚

2017-08-17 23:52:51 | 映画
アップリンクで「オラファー・エリアソン 視覚と知覚」を見てきました。

オラファー・エリアソンといえば、2005年の原美術館での展覧会の記憶が鮮やかですが・・・あれから干支が一回りしてしまったのですね。その後、なかなか作品をまとめて見る機会がありませんでしたが、映画が公開されることを知り、ずっと楽しみにしておりました。

2008年、ニューヨークで巨大な滝のインスタレーション「ザ・ニューヨークシティ・ウォーターフォールズ」を発表したエリアソン。その制作過程を中心に、彼の制作風景を撮影したドキュメンタリーです。

この映画はドキュメンタリーではあるのですが、映画というよりエリアソン自身の映像作品のようにも見えました。そして、この映画を見ることは頭の中を変えられるような経験でもあります。ワタリウム美術館でコンセプチュアルな展覧会を見た後に、世界が変わって見えるような感覚に陥ることがありますが、あの感覚に近い。(以下、少々ネタバレ気味です。)

この映画から受け取ったメッセージでとりわけ印象深かったことが二つ。一つは世界のある姿を疑え、ということ。自分に見えている世界はあくまで主観。現実は主観次第。もう一つは、アートは世界を変える一手段であるということ。アートは世界を変えられるのか、ということは永遠の命題ですが、彼が語ると信仰、信念というよりは事実と思えてきます。そして、鑑賞者も創り手であること。ここで責任という言葉も使っていました。アートによって、生きる時代とどう関わるのか・・・。

と書くと、何やら小難しい映画のようですが・・・実際、少々難解ではあるのですが、メッセージ自体は明快かつ合理的。そのあたり、彼の作品と同様なのかもしれません。彼の作品は何人にも開かれていて、しかも美しい。本来、あるはずもない場所に滝があらわれたら、人は何を思うのか・・・。

ところで、今、開催されているヨコハマトリエンナーレ2017にも彼の作品が出品されているようです。こちらも気になるなあ・・・。

おもしろびじゅつワンダーランド2017

2017-08-16 01:15:32 | 美術
サントリー美術館で「おもしろびじゅつワンダーランド2017」を見てきました。

5年前の「おもしろびじゅつワンダーランド」には、当時2歳の息子を連れて行きましたが、今回は7歳になった息子と2歳の娘を連れていきました。「美術館なんていきたくねーよ」とダダをこねる小学生男子を「見終わったらうまいもん食わしてやるからさ」と、餌で誘って連れ出し・・・5年前は無邪気に見ていたのになぁ・・・時の経つのは早いもんです。

さて、4階の会場に入るとまずは鳳凰の屏風が。CGで鳳凰が飛び出すように見える仕掛けになっています。「きれいな鳥さん」と見とれる娘。屏風には見向きもせず、鳥の羽ばたきを真似して遊ぶCGの方に向かって一直線に走り出し、必死にパタパタしている息子。早くも男子と女子の反応の違いが。しかし、本物の美術品の方には二人ともあまり興味がなく・・・次の切子の部屋もほとんどスルー。こんなに綺麗なのにもったいない、とその分、私めがしげしげと眺めてまいりました。次の宝尽ルームの展示は、直径4メートルほどのすり鉢状のプール(?)の中に宝尽くしのモチーフのクッションが沢山放り込んであるという、ある意味、今回の仕掛けの中で最もローテク&ローコストと思われるものでしたが、子どもたちの食いつきは一番良かったようです。けっこう大きな子も、鉢の傾斜を滑り台代わりにして飽かずに遊んでいます。わが家の子どもたちもなかなか離れようとせず、「もう次行こうよ〜」「まだ遊ぶ〜」という問答を何度か繰り返していました。そういえば5年前の展示の時も、最もローテクな展示が結局、子どもたちの一番人気だったような記憶が・・・。

3階の最初の展示は、「みんなで叫んで!吹墨文」。マイクに向かって話すと、大きな徳利に吹墨文が浮き上がるという仕掛けになっています。折角なので、私も挑戦してみました。大人が大声で叫んだ時よりも、子どもがおしゃべりした時の方が、吹墨文が大きく出るようで、もしかしたら子どもの声の周波数に反応するようになってるのかな、とも思いました。次の部屋は「みて・きいて!鼠草子」。無料の音声ガイドで物語を聴きながら、草子を眺めるという展示です。2歳の娘は途中で脱落しましたが、息子の方は意外に飽きずに、最後まで聞いていました。折角なので私も最後まで聞いていきました。聞き終わった後は、鼠さん、可哀想・・・とも思うのですが、よくよく考えてみると、この結婚は動機が不純だったのでは、とか、いや、そもそもこんな男女のもつれ話(?)を子どもたちに聞かせちゃっていいのか?とか、あらぬ方向に思考が行ってしまい・・・。最後の部屋には、江戸時代の着物や能装束の展示と、タッチパネルで色や文様を組み合わせて自分だけのキモノをデザインするという仕掛けが。ここでも男子と女子の反応の違いが見られました。まずは「きれいなお洋服(←いや、和服なんだけど)」に見とれる娘と、華やかな着物には見向きもせず、タッチパネルに直行する息子。結局、二人とも楽しげにタッチパネルで遊んでいましたが。最後は、「とじろ!美のとびら」と言いつつ、会場を後にするわが息子・・・。

そんなわけで、文句タラタラついてきた子どもたちも、それなりに展覧会を楽しんでいたようです。息子に「どれが面白かった?」と聞くと、「鳥のパタパタするやつとすべり台とマイクのやつ」だそうです。はぁ・・・いつか、ちゃんと美術品の方も見てもらいたいものです・・・。

観賞後は、約束どおり、食事に連れて行きました。子どもたちがお肉がいい、というのでミッドタウンの「ロティ アメリカンワインバー&ブラッセリ」へ。でっかいハンバーガーをぺろりと完食する息子。いつの間にこんなに食べるようになっていたのだろうか・・・。

帰りに芝生広場の花火のイルミネーションも見て行きました。私たちが行った日には、本物の仕掛け花火の演出もありました。生で仕掛け花火を見るなんて久しぶり・・・娘にとっては人生初めての花火です。目を丸くして見ていました。いい夏の思い出になりました・・・。

光/音

2017-08-08 20:48:44 | 美術
エスパス・ルイ・ヴィトンで「ダン・フレイヴィン展」を見てきました。

蛍光灯を使ったミニマルアートで知られるアメリカ人アーティスト。今回の展覧会はルイ・ヴィトンのコレクションの中から、彼の7つの作品を紹介しています。4種類のサイズと10種類の色の蛍光灯のみを使ったアートはシンプルの極みです。が、この日はもう一つのお目当てが・・・。

この日は展覧会を舞台に、彼と同時代を生きた作曲家、モートン・フェルドマンの「弦楽四重奏曲Ⅱ」をFlux Quartetの生演奏で聴けるというイベントが。どちらも無料という、実に太っ腹な企画です。6時間(!)という大曲なので、時間の都合上、ほんの一部しか聴けませんでしたが、それでも満足でした。光そのものを追及し、ミニマリズムを代表するフレイヴィンと、音そのものを追及し、ニューヨーク楽派を牽引したフェルドマン。ホワイトキューブの空間に蛍光灯の光、たゆたう波のような音楽。背後には暮れゆく表参道の空。何とも非現実的な光景で、白昼夢を見ているようでした。

ひさびさの表参道だったので、ちょっと寄り道していきました。行き先は「グラッシェル表参道」。アイスケーキで有名なお店です。プリンパフェをいただいてきました。時間もお値段もそれなりにかかりましたが、さすがにおいしゅうございました。記憶に残りそうなパフェです・・・。

写真家の人生

2017-08-06 00:00:36 | 映画
Bunkamuraザ・ミュージアムで「ソール・ライター展」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。私が行った日は休日だったせいか、けっこう混んでましたね・・・それも若い方が多かったです。ソール・ライターのことは、去年、アップリンク上映していた彼の映画(その時は見逃したのですが)でその存在を知りました。50年代からNYでファッション・カメラマンとして活躍した後、80年代に突如、姿を消し、2006年にシュタイデル社から出版された写真集により、世界デビューしたというお方です。この時、既に83歳。何と言うか、写真観(?)が変わるような展覧会でした。それぐらい「深い」写真。ファション写真はあくまでスタイリッシュ、街角の写真はそこはかとなくエモーショナル、女性を撮った写真はさりげなくエロティック。色彩感覚も独特です。並行して絵画も手がけていたようですね。「雪」の濡れた窓、「足跡」の傘の赤。そして、彼の言葉がまたかっこいいんですよね・・・。「見るものすべてが写真になる」「写真家からの贈り物は、日常で見逃されている美を時折提示することだ」「雨粒で包まれた窓の方が、私に撮っては有名人の写真より面白い」。

同じ日に、Bunkamuraのル・シネマで「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」も見てきました。こちらも名言のオンパレード。映画自体は、ゆったりとした彼の日々の生活を淡々と追ったものですが・・・。「私は大した人間じゃない。映画にする価値なんかあるものか」と、自ら宣言する方ですから、映画の撮影は難航を極めたのだろうか、とも思いましたが、実に自然な仕上がりです。私はけっこういらちなので、こういう「急がない人生」は真似できないな、と思いつつも憧れます。「私は物事を先送りする。急ぐ理由がわからない」その傍らで、うーん、と伸びをする猫ちゃん。「人生で大切なことは何を手に入れるかではなく、何を捨てるかということだ」「幸福は人生の要じゃない、それ以外のすべてが人生なんだ」逆説的な悟りの境地。しかし、亡くなったパートナーのことを語る時は、激しい感情の揺れを見せています。ソール・ライターは2013年にこの世を去っていますが、あの世でまた彼女と邂逅しているのでしょうか・・・。

そして、この日にル・シネマで「Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代」も見てきました。92歳の伝説的写真家、ロバート・フランクのドキュメタリーです。彼は23歳で単身、スイスからNYに渡り、58年には全米を旅して撮影した写真集「The Americans」で成功を収めました。しかし、その後は、信頼していた弁護士に著作権を奪われ、子どもたちにも先立たれるなど、苦難が続きます。それでも、彼は「時代の鼓動を感じることが大切」と言いつつ、前を向いてアクティヴに生きます。「立ち上がり、両目を開き、瞬きせずに」。おじいちゃんになってもイケイケです。ところで、この映画、全体的にファッショナブルで、音楽もかっこよかったです。楽曲を提供しているのはストーンズ、ボブディラン、パティ・スミスなどなど、豪華なメンツです。最後に流れていた、ザ・キルズの“What New York used to be”も、めちゃイケてました・・・。

そんなわけで、作品も生きざまも、ある意味対照的な二人の写真家(共通点は「インタビュー嫌い」!)の人生を垣間みてまいりました。写真家という人生も、業なのですね・・・。

美を守る宮殿

2017-08-05 11:50:43 | 美術
ヒューマントラストシネマ有楽町で「エルミタージュ美術館 美を守る宮殿」を見てきました。(この映画館での上映は既に終了しています。)世界三大美術館の一つにも数えられ、250年も美を守り続けてきたエルミタージュ美術館のドキュメンタリーです。(以下、ネタバレ気味です。)

壮麗な美術館。燦やかな作品群。ダ・ヴィンチ、ラファエロ、レンブラント、ゴッホ、ゴーギャン、マティスなどの名画の数々が紹介されます。しかし、この美術館はロマノフ王朝からロシア革命、第2次世界大戦、スターリン時代という苦難の歴史を乗り越えてきました。ソクロフスキーの「フランコフォニア」で描かれていたエルミタージュの悲劇を思い出します。第二次世界大戦のレニングラード包囲戦の際は、ドイツ軍の侵攻をキャッチした美術館関係者は作品をウラル山脈に疎開させ、美術館の地下に避難しました。しかし、その生活は飼い猫まで食料にするという、壮絶なものでした。スターリン体制下では、職員や当時の館長が強制収容所に送られもしました。親子2代にわたる館長は「エルミタージュはロシアの歴史そのもの」と語ります。美を創る人だけでなく、美を守る人、それも命がけで守り抜いた人がいたからこそ、美は伝えられていくのだということを思い知らされた映画でした。

その後のある日、森アーツセンターギャラリーで「大エルミタージュ美術館展」を見てきました。(この展覧会は既に終了しています。)

「オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」というサブタイトルがついていますが、その名の通り、ティッツァーノ、クラーナハ、ルーベンス、ヴァン・ダイク、レンブラント・・・といった大御所の優品揃いです。展覧会の構成は、国別(イタリア、オランダ、フランドル、スペイン、フランス、ドイツ、イギリス)になっていて、わかりやすいものでした。会場に入ると、エカテリーナ2世の肖像がお出迎え。バトーニの「聖家族」の聖母子は本当に綺麗。レンブラントの「運命を悟るハマン」の劇的な光景。ブリューゲル親子の「スケートをする人たちと鳥罠のある冬景色」「魚の市場」も。「バベルの塔」展を思い出してしまいます。スネイデルスの「鳥のコンサート」は鳥類図鑑のよう。賑やかな鳴き声が聞こえてきそうです。スルバランの「聖母マリアの少女時代」、マリアがかわいい。そして、ムリーリョの「幼子イエスと洗礼者聖ヨハネ」のむくむくの幼児達もかわいい。シャルダンの「食前の祈り」も。この方の作品を見ていると何だか心が落ち着きます。ロベールの「運河のある建築風景」の独特の空気感。そして、大トリは展覧会のメインビジュアルにもなっているクラーナハの「林檎の木の下の聖母」。まさに優美、を絵に描いたような作品。しばし、見惚れてしまいました・・・。会場ではエルミタージュを紹介する映像も流されていました。エルミタージュはフランス語で「隠れ家」の意、エカテリーナ女帝は「ここの作品を見ているのは、私とネズミだけ」とおっしゃっていたそうな。今ここで、東洋の島国、ニッポンのおばちゃんも見てますよ、と、思わず呟きそうになりました・・・。

そしてまた、その後のある日、「美の巨人たち」でエルミタージュ美術館の回を見ました。エルミタージュとエカテリーナをめぐる愛憎ドロドロ(?)の逸話も。女帝様、怖いです・・・。さまざまな歴史を飲み込み、今日もエルミタージュは美を守り続けるのですね・・・。

Big Sky Little Moon

2017-08-02 22:31:34 | 美術
ワタリウム美術館で「Big Sky Little Moon バリー・マッギー+クレア・ロハス展」を見てきました。

バリー・マッギーの10年ぶりの展覧会です。80年代後半、グラフィティ・アーティストとして、アート界に華やかに登場したバリー・マッギー。10年前は、バリー・マッギー展だったのが、今回はバリー・マッギー+クレア・ロハス展に。この間にご結婚されたのでしょうか・・・。

ポップでカラフルなバリー・マッギーの作品。シンプルでナチュラルなクレア・ロハスの作品。不思議な調和と緊張・・・そして、ワタリウムの吹き抜けの白壁によく映えています。面白かったのが、人の顔をいくつも描いた作品。人の顔がなぜか仏像みたいにも見えました。

4階の椅子に、バリー・マッギーのインタビュー記事のファイルがありました。40歳を過ぎて、子どももできて、グラフィティを描くにも捕まらないように気をつけるようになったとか(笑)。「僕らみたいな存在は社会に血を送り込む心臓」「最初にストリートに仕掛けるのはアーティスト」「“成功”というものは、みんなが一緒になって、少しでも現実の前に立てるようにならなければいけないんだよ」といった名言も。やはり、趣深いお方です・・・。

ところでこの展覧会、10年前に、彼がこのワタリウムで展覧会を開いた時に、10年後にまたここで展覧会ができるといいね、と言っていたのが実現したのだそうです。こんな移り変わりの激しい世界で、10年前の約束が叶えられる。素敵なことです・・・。

オルセーのナビ派

2017-08-01 23:07:28 | 美術
三菱一号館美術館で「オルセーのナビ派展」を見てきました。(この展覧会は既に終了しています。)

随分と前に終わってしまった展覧会なのですが、自分の心覚えのために・・・。「ナビ派」というと、ボナールとか、イメージは浮かぶのですが、どうも作品をまとめて観た記憶がなく・・・この展覧会は、ナビ派が本格的に紹介される、日本では初めての機会だそうです。

ナビ派は19世紀末、ゴーギャンの影響を受け、自らを「ナビ(預言者)」と呼んで、活動を始めた若き芸術家達のグループです。メンバーはボナール、ヴュイヤール、ドニ、セリュジエ、ヴァロットンら。展覧会の最初は、ゴーギャンの「黄色いキリストのある自画像」から。黄色いキリストですよ、黄色。いかにもゴーギャンです。そして、そのゴーギャンから薫陶を受けたセリュジェの「タリスマン(護符)」。この作品がナビ派の原点となったそうです。

モーリス・ドニの「ミューズたち」、平面的な構図は浮世絵を連想させます。ボナールの「庭の女性」シリーズはパステルカラーで彩られたお洒落な作品。そのボナールが一方で、「ベッドでまどろむ女」のようなエロい作品も描いています。ヴュイヤールの「八角形の自画像」も面白い作品です。「公園」シリーズは鮮やかな緑が印象的。「ベッドにて」も独特の構図が斬新。ヴァロットンの作品もいくつか出ていました。やはり、この人の作品には毒があります。3年ぶりに見る「ボール」も。あらためて見ても、ひやりとさせられる作品です。ドニの「プシュケの物語」もファンタジックで美しい。セリュジェの「谷間の風景」は日本の屏風の影響を受けているのでしょうか。そして、最後の部屋には驚きの作品が。ジョルジュ・ラコンブの木彫です。最後にこうくるか・・・。

そんなわけで、一見、お洒落で時にジャポニズム風味、でも、どこか一筋縄ではいかないという感じのナビ派の世界を堪能してまいりました。それにしても、そもそもゴーギャンは若い画家たちに何て言ったのか。「これらの木々がどのように見えるかね?これらは黄色だね。では黄色に塗りたまえ」って・・・。ゴーギャン、謎です。謎過ぎです・・・。