aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

音響ハウス

2020-11-29 12:04:37 | 映画
ユーロスペースで「音響ハウス Melody-GO-Round」を見てきました。

1974年、銀座に設立され、昨年創立45周年を迎えたレコーディング・スタジオ「音響ハウス」のドキュメンタリーです。映画はこのスタジオを愛するミュージシャンたちへのインタビューと、コラボ新曲“Melody-GO-Round”のレコーディング風景とで構成されています。この映画の予告編で坂本教授が「東京に音響ハウスがあるっていうのは贅沢なことなんです」と語っていましたが、ここではまさに夢のような、至福の時間が流れているのだな、ということが伝わってきます。今となっては、腕利きのミュージシャンたちが東京のど真ん中でせーの、で音を出すということ自体が贅沢になっているのかもしれませんね。全体的に音楽好きのツボを心地よく刺激してくれる映画なのですが、企画・監督の相原裕美さんはレコーディングエンジニアの出身なのだそうです・・・(以下、ネタバレ気味です)。

この映画、登場するミュージシャンたちも凄いです・・・教授、高橋幸宏、佐野元春、矢野顕子、松任谷夫妻、大貫妙子、綾戸智恵、葉加瀬太郎、デヴィッド・リー・ロス・・・。この顔ぶれを見ていると、J-popの歴史は音響スタジオで作られたといっても過言ではないと思えてきます。ミュージシャンたちのコメントも尋常じゃない“音響愛”にあふれています。ここに住んでたという教授、家みたいなもんだしという綾戸さん、僕にとってはアビーロードより意味があるという葉加瀬さん。矢野さんがかつて子連れでレコーディングに来て、子どもに出前のカツ丼を食べさせたり、ドラムのミュート用の毛布で寝かせたりしていたというエピソードには思わず笑ってしまいました。

“Melody-GO-Round”のレコーディング風景も興味深いです。これを見ていると音響ハウスの各スタジオの特性も何となくわかります。弦向きの1st、ホーン向きの2st、地味だけど正確な音の6st・・・。錚々たるミュージシャン達の演奏シーンも。幸宏さんのドラム、井上鑑さんのキーボード、佐橋佳幸さんのギター・・・ヴァイオリンの葉加瀬さんもノリノリで弾いてました。ヴォーカルは13歳のHANAさん。大貫さんによく似たウィスパーボイスだなぁと思っていたら、なんと大貫さんが歌唱指導をつけていました。指導のポイントがさすがです。このコラボの発起人でもある佐橋さんとレコーディングエンジニアの飯尾さんが終始、楽しそうにレコ―ディングを進めている様子が印象的でした。こうして生まれた“Melody-GO-Round”は言うまでもなく、素敵でハッピーな曲です。

そしてこの映画、最後に「いい音とは?」という問いにミュージシャンたちが答えているのですが、これが面白かったです。自分がいいと思う音という大貫さん、自分を鼓舞してくれる音という矢野さん、ハイファイだったらいい音というわけじゃなくて(以下、長い解説が続く)の教授・・・そして、佐野元春さんの回答が絶妙でした。さすがです(笑)。そんなわけで、豊かな音と贅沢な空間、贅沢な時間を堪能したのでした・・・。
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一瞬一瞬をアートする

2020-11-23 13:18:21 | 美術
松濤美術館で「後藤克芳 ニューヨークだより」を見てきました。

山形県米沢市で生まれ、ニューヨークで活躍したアーティストです。主に木を使ったスーパーリアリズム作品を制作する傍ら、ニューヨークの文化や暮らしを紹介する「ニューヨークだより」を晩年まで日本に届け続けました。

展覧会では後藤克芳の生涯を丁寧に辿りながら、作品を紹介しています。米沢時代の作品は具象画ですが、どこか瑞々しい。彼は1964年に渡米し、スーパーリアリズムの世界へと足を踏み入れます。キッチュでポップな作品の数々は、主に木製ですが、これ、ほんとに木でできているの?と思わず触ってみたくなってしまうリアリティ。メインビジュアルにもなっている“Duco CEMENT”は、アメリカで売っている接着剤のパッケージとカエルを合体させた面白い作品ですが、どこか日本の薬局の前に立っているカエルの像を彷彿とさせます。 “COROLADO”は後藤がニューヨークで認められるきっかけとなった作品ですが、シュールな趣もあり・・・。“MAIL BOX”はお魚型の郵便受けですが、なんとも楽しい造型。“LOVE LOCK”は大きなハート型の南京錠ですが、錠を焼き切ろうとした痕跡もあったりして、何やら意味深。 “NY SUNDAY”は靴底の裏を模した大きな作品ですが、靴底の裏に張り付いたシールやら、ゴムの質感やらをみごとに再現しています。

作品のモチーフになったものは、日常の身近な物でした。展覧会では、作品のアイデアの元になったものを「後藤の種」として紹介しています。こんなものがアートになるのだなぁ・・・と、しみじみ思ってしまうグッズの数々。一方、後藤は荒川修作、篠原有司男などと交流があり、ネオ・ダダを日本に紹介したりもしています。会場には河原温から届いた例の大量のハガキ作品も展示されていました。また、晩年はキース・へリングの死に衝撃を受け、エイズを扱った作品も制作しています。展覧会の最後は後藤克芳の愛猫の作品です。子どもがいなかった彼は、殊のほか猫を可愛がっていたそうですが、もう眼の中に入れても痛くないくらいだったんだろうなぁ、というのが伝わってくる愛らしさ。ラストの“Window”は猫が窓際に後足で立って、空を行く飛行機を見つめている作品ですが、見ていると何だか切なくなってしまいます・・・。

脊椎カリエスによる障害がありつつも、外国で独自の世界を創りあげ、文化の架け橋ともなり・・・というと何やらハードな感じですが、作品はそれを微塵も感じさせない軽やかさ。どこか重苦しい日々のなか、たしかに楽しいひとときを過ごさせてもらいました・・・。
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桃山

2020-11-04 00:41:12 | 美術
東京国立博物館で「桃山-天下人の100年-」を見てきました。

桃山時代の名品を紹介する展覧会ですが、それはそれは豪華絢爛な展覧会でした。政治的には安土桃山時代は1573~1603年の30年間、ほぼ平成時代と同じくらいだったんですね。この展覧会では前後含めて約100年間、約230点の作品を展示しています(展示替えあり。ちなみに私が見たのは前期です)。

展覧会は「桃山の精髄」から始まりますが、まずは「洛中洛外図屏風」の揃い踏みに眼を奪われます。何年か前の洛中洛外図の展覧会の時に会期の関係で上杉家本を見逃したのがずっと心残りだったのですが、ようやくリベンジできました。狩野永徳というと、とかく豪放なイメージですが、この作品は非常に緻密かつ華麗。そして、永徳「檜図屏風」と等伯「松林図屏風」「観図壁貼付」が横並びという、とんでもない場面にも出くわします。かと思うと、国宝の「観楓図屏風」や「花下遊楽図屏風」も。屏風といえば岩佐又兵衛の「豊国祭礼図屏風」もコテコテの細密描写で見応えがありました。屏風のみならず襖絵も豪華。狩野山楽・山雪などの襖絵が、どーんと展示されています。豪壮な「松鷹図襖」や艶やかな「紅梅図襖」や「牡丹図襖」。茶道具も贅沢な展示で、国宝の「卯花墻」や、重文の「油滴天目」やらが、さりげなく置かれていたりも。また、この時代らしく、武具もまた華やかというか派手。本当にこんなんかぶって戦ができるのか?というような兜もありましたね。太刀も国宝・重文級がぞろぞろ、でした。その他にも見事なものがたくさん出ているのですが、とにかく圧倒的な物量なので、とてもじゃないけど書ききれません。いまだに思い出すだけでクラクラしそうです・・・というわけで、2400円という比較的強気な入場料の設定も十分納得できてしまうラインアップでした。(ちなみに国博のメンバースプレミアムパスを買うと5000円で特別展を4回見られるので、こちらを買って行きました)。

ここで既に満腹を通り越していたのですが、せっかくここまで来たのだし、ということで表慶館の「工藝2020」も見てきました。82名の作家による、近年の工芸作品82点を紹介する展覧会です。工藝と自然の関係性を探るというこの展覧会では、作品を金と銀、黒と白、赤と黄、青と緑の色分けで展示しています。陶磁、染織、漆工、金工、木竹工、人形などの作品が出ていましたが、とりわけ漆工の「柏葉蒔絵螺鈿六角合子」や「赤富士」に眼を惹かれました。この展覧会は会場構成を伊藤豊雄氏が担っていて、スタイリッシュな展示空間が出現しています。

その後、さらに欲張って、国立西洋美術館の「内藤コレクション展Ⅲ 写本彩飾の精華」も見てきました。コレクション展の最終回となる今回の展示は、フィナーレにふさわしい華麗なものでした。今回は聖歌集に由来するもの、教会法令集に由来するものが中心になっていましたが、特に聖歌集由来のものが音符も含めて一つの絵のようでした。装飾アルファベットの細工も楽しい。これで内藤コレクション展もコンプリートしました。国立西洋美術館もこの後、しばし長期休館に入るようですね・・・しばしのお別れですが、その前にいいものを見せていただいて感謝です・・・。
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