aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

大阪の日本画

2023-05-29 00:50:08 | 美術
東京ステーションギャラリーで「大阪の日本画」を見てきました。

この展覧会は近代大阪の日本画の史上初の大規模展ということです。不肖わたくし、大阪の日本画については、数年前の「あやしい絵」展で甲斐荘楠音、北野恒富、島成園などをようやく認識したくらいなのですが、この展覧会は楽しみにしておりました。展覧会は北野恒富と門下の作品から始まります。北野恒富の「風」はスタイリッシュかつ艶めかしい。同じ画家の「宝恵籠」は打って変わって初々しさが漂います。木谷千種の「吉澤あやめ」は毒のある妖しさ。中村貞以の「失題」は丸っこいフォルムが面白く…女性が猫みたいに見えます。浪花風俗画の章には菅楯彦、生田花朝の作品が並びますが、生田花朝の「浪花天神祭」が細密描写が軽やかで清々しい。新南画の章には矢野橋村、矢野鉄山の作品が出ていましたが、矢野橋村の「湖山清暁」が見事…金地に広がる雄大な山景はとても右腕一本で描かれたとは思えません。船場派の作品は商家の床の間を飾った絵ですが、穏やかな画風です。深田直城の「水中游鯉図」は澄んだ水の中で鯉が泳ぐ涼しげな作品、いつまでも見ていたいような気すらします。平井直水の「梅花孔雀図」は華やか、孔雀の羽の描写に目を奪われます。大阪の日本画は女性画家の活躍も目立ちます。大阪では当時、商家の女性や子供たちが教養として絵を習う習慣があったようです。島成園の「祭りのよそおい」は問題作でもあり…着飾った女の子三人と、少し離れたところに一人ぽつんと佇む質素な身なりの女の子…見ていると胸が痛くなってくるような光景です。高橋成薇の「秋立つ」は匂い立つような不思議の魅力のある作品。彼女は中村貞以と結婚した後は画業から退きましたが、師の島成園はその才を惜しんだとか。ラストは池田遙邨「雪の大阪」。一面の雪に覆われた大阪のパノラマ、目にも鮮やかな白が眩しい…。

というわけで、大阪の日本画を堪能してまいりました。確かに東京とも京都とも違う独特の魅力がありますよね…鷹揚で淡泊。時には妖しくもあり…。大阪画壇の人々は公募展などに作品を出すこともなく、船場派などはもっぱらパトロンのオーダーによって描いていたため、競争とは無縁だったことが影響しているのかもしれません。この無縁ぶりが今となっては、新鮮なのかもしれず…。大阪画壇が今、密かにブームになりつつあるような気がしますが、ステーションギャラリーでは次に甲斐荘楠音の展覧会が開催されるようで、こちらも楽しみです。

さて、例によって、アートといえば美味しいもの…ということで、この日は八重洲北口の「釜たけうどん」に寄ってまいりました。大阪讃岐うどんのお店です。名物らしき「ちく玉天ぶっかけ」をいただきましたが、柔らかめのうどんに甘めのつゆ、サクサクのちくわ天に半熟トロリのたまご天…で、美味しゅうございました。さすが大阪発です…。
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remap

2023-05-24 23:22:55 | 美術
アーティゾン美術館で「ダムタイプ|2022: remap」を見てきました(以下の展示は全て、既に終了しています)。

この展覧会は第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示の帰国展です。ダムタイプはプロジェクトごとにさまざまなメンバーが参加して共同制作を行っていますが、この展覧会では教授が新たにメンバーとして参加しています。教授はこの作品のために1時間のサウンドを制作しています。また、教授の呼びかけにより、世界各地でフィールドレコーディングされた音もターンテーブルから流れています。展示室はほぼ暗闇ですが、中央のスペースでは1850年代の地理の教科書から引用されたという言葉がレーザー光線で壁に投影され、教授の友人たち(デヴィッド・シルビアン、カヒミカリィ)によって朗読されます。真中のスペースでは天井のビデオ映像が床の鏡に映し出されているのを、人々が取り囲んで見ていて、何かの儀式のようでした…。闇のなかで、聴こえてくるさまざまな音に耳を澄ませていると世界は音でできている、と実感します。ある瞬間、教授ならではのシンセの和音が響き…ああ、ここに教授は生きてるんだな…と、しみじみ思いました。宇宙のかなたから響いてくるような音でしたね…。

その後、「アートを楽しむ ―見る、感じる、学ぶ」も見てきました。これがもう、ラーニングプログラムのお手本のような展覧会でした。セクションごとのパンフレットもあって、こちらも力作。セクション1は「肖像画のひとコマ」ですが、しょっぱなから、青木繁「海の幸」が、森村泰昌「M式 海の幸」と並んでいます。ピカソの「腕を組んですわるサルタンバック」がホロヴィッツの所蔵だったとは初めて知りました。セクション2は「風景画への旅」。印象派の作品が並ぶなか、なぜ眼を吸い寄せられてしまったのが、藤島武二の「屋島よりの遠望」。不思議な魅力があります。セクション3は「印象派の日常空間」。ここにはカイユボットの「ピアノを弾く若い男」と本物のエラール社のグランドピアノが…いや、やることが凄いです…もう、触ってみたくてたまりませんでした…。

そして、特集コーナー展示の「画家の手紙」も見てきました。近代の洋画家たちが書いた手紙、受け取った手紙と画家の作品を展示するという、ユニークな企画です。古賀春江が恋人に送った葉書は裏に自画像を描いているのですが、何とも初々しい…。ルオーの「裁判所のキリスト」「悪魔Ⅲ」も展示されていましたが、この頃のルオーは作品の制作に追われ、督促されまくりの日々だったらしく、こんな仕事、受けなきゃよかった、とかぼやいていたのだとか。言われてみれば、困り切った顔のキリストや、げんなりした顔の悪魔がルオー自身に見えなくもありません…。

そんなわけで、一粒で三度おいしいアーティゾン美術館でした。時間切れでカフェに寄れなかったのが残念でしたが…ここのカフェ、前々から気になっているのですが、まだ行ったことないんですよね…今度行くときはぜひトライしてみたいものです…。
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ウェス・アンダーソンすぎる風景

2023-05-17 01:21:52 | 美術
寺田倉庫G1ビルで「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」を見てきました。

ウェス・アンダーソンすぎる…といっても、ウェス・アンダーソン自身の作品展ではありません…ウェス・アンダーソンの映画に出てきそうな場所を撮影して投稿する人気インスタグラムが展覧会になりました。ちなみにウェス・アンダーソン自身のコメントはといえば、「ぼくが出会ったこともない人びとが、ぼくが見たこともない場所や物を撮ったものだがー実際、ぼくが撮りそうな写真だ」とのこと。この展覧会はトレンド発信地のソウルで大ヒットしたそうですが、日本の展覧会も若手女子で賑わっておりました。ウェス・アンダーソンすぎる風景とは「シンメトリー」「ポップなパステルカラー」「はっきりとした模様」のことですが、ポップでカラフル、そしてどこかノスタルジックな写真の数々…それにしても、よくこれだけの写真が集まったものだなぁ、としみじみしてしまいます。300点余りもの写真に撮られた風景はすべて現実世界に存在するものなのですから…そう、世界はウェス・アンダーソンすぎる風景で満ちている!そして、それぞれの写真にはそれぞれのストーリーがあるのです。なかでも印象深かったのが、ナミビアのゴーストタウンの写真です。パステルカラー(だった)のドアの部屋に砂漠の砂が流れ込む図はまさに映画。会場には「グランド・ブタペスト・ホテル」のセットを再現したコーナーもありましたね…。この展覧会を見ていると無性に旅に出たくなります…世界にはこんなに幸せな風景があるのですから。実際にはなかなか旅に出られなくても、世界じゅうにウェス・アンダーソンすぎる風景が存在していると思うだけで、なんだか幸せな気持ちになるから不思議です…。

その後、TERADA ART COMPLEXⅡの中にあるギャラリーYUKIKOMIZUTANIで「山本基 時に宿る-Staying time-」を見てきました(展示は既に終了しています)。山本氏は塩を使って床に模様を描くインスタレーションを制作されてきた方ですが、今回は「時」「季節」を手掛かりとした作品が展示されています。アクリル絵具で描かれた空や海を思わせる絵画のシリーズは、見ていると心が解放されていくようです。そして、今回は「さくらしべふる」という大作が展示されていました。数万枚もの桜の花びらの型に塩が流し込まれ…散りゆく桜花の美しさ儚さは人の命のようでもあります。山本氏はこの世を去った大切な人との思い出を忘れないために描き続けてきたのだそうです。作品を通じて思いをつなぎとめていきたいという祈りが届きますように…。

さて、例によって、アートといえば甘いもの(?)ということで、天王洲にある「Lily cakes」に寄ってきました。苺のショートケーキはスライスされた苺が何層にも積み重なってフォトジェニック。なんだかウェス・アンダーソンすぎるケーキでした。お隣の「breadworks」でパンも買って帰りましたが、こちらも美味しゅうございました…。
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Last concert

2023-05-07 22:46:13 | 音楽
109シネマズプレミアム新宿で「Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+」を見てきました。

昨年12月に世界に向けて配信されたコンサートに1曲を加えた特別版です。これまで教授のライブやコンサートには何度となく足を運んできたものの、常に遠くから拝んでいる状態でしたが、今回は一番前の席で見ました。この109シネマズプレミアム新宿は教授自身が音響を監修しています。想像以上の音環境で、まるで教授が眼の前でピアノを弾いているような気すらしました。これが本当のコンサートだったら、と思うと切なかったですが…。

この音環境のおかげで、教授のピアノの特徴である、残響音の美しさを心ゆくまで味わうことができました。一音一音ひもとくような作曲家のピアノですが、あの残響音の美しさは本当に比類のないものでした。消えゆく響きを聴いていると、最後の輝きを放ちながら海に沈んでいく夕陽を眺めているような感覚を覚えます…。

このコンサートはおそらく最後のコンサートになると教授自身も思っていたのでしょう。一音一音いつくしみながらも、そのピアノは自然に還るような音でした…雨粒がピアノの上に落ちたら、雪片がピアノの上に舞い降りたら、風がピアノの上を吹きわたったら、期せずして美しい音楽が生まれたというような。ずっとずっと教授には音だけが広がるクリアで美しい世界が見えていたのだと思います。そんな音世界を残して、教授自身は違う世界へと旅立ちました。

アンコールしたくともその相手はもうこの世にいない…その事実は寂しいですが、教授が遺した音は聴く者の心の中で美しく響き続けるのでしょう…。






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