あぽいち

温泉とヨガ、たまに心臓外科医

ERAS

2012-01-19 16:28:03 | Weblog
enhanced recovery after surgery、日本語では術後回復力強化と訳されていますが、要するに術後の回復をエビデンスにのっとり早めるプログラムです。このERASは10年ほど前に欧米で提唱されて、最近、大腸手術におけるプロトコールの検証結果が報告されだして、ちょっと話題になっています。術前の患者教育から術中、術後、退院後までカバーされており、外科医、麻酔科医、看護士、栄養士、リハビリ、ケースワーカーなど多職種のチームで包括的に治療を行っていくものです。fast trackといわれ術後の早期回復を目指すプログラムがありますが、それに近いもの、もしくはもう少し広い範囲でカバーしていくものと思われます。
日本でも消化器外科の中では、このERASを取り入れだした病院が出てきています。
いろいろと勉強になることは多く、自分で勉強していても、経験的にやはりそうかと思うこともあれば、ほんとにそんなことして大丈夫なのかと思うプログラムもありますが、なかでも面白そうなのが、術前の絶飲食を無くすことで、患者さんの口渇、空腹、不安の解消と異化亢進を減らしてインスリン抵抗性を抑えるという試みです。固形物はやはり前日の夜までですが、2時間ぐらい前までの飲水は可能ですので、炭水化物を含んだ12.5%糖液の飲料を使用するとのことで、日本で使用できるのは飲み物メーカーのネスレが販売しているアルジネードウォーターというもので、当院でも取り入れてみたいと考えています。今度、業者さんに説明会でもしてもらって、実際に味見してみようかと思っています。実際に取り入れている方に聞くと、患者さんの満足度は高いとのことでした。
やはり、前夜から水のみというのは、術前の患者さんにとって、つらいものでしょう。また、一度、低下したインスリン抵抗性は元に回復するのに数週間かかるとのことですので、理論上は術後の高血糖が押さえられ、感染の予防にもつながっていくものと思われます。
大半の報告が腹部外科の手術についてであり、心臓外科については、まだあまり報告が少ないようですので、心臓外科の中でもERASがこれから盛んになっていくと思われ楽しみであります。

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