
2023年9月15日公開 アメリカ 103分 G
ベネチアで隠遁生活を過ごしていたポアロは、霊媒師(ミシェル・ヨー)のトリックを見破るために、子供の亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。しかし、その招待客が、人間には不可能と思われる方法で殺害され、ポアロ自身も命を狙われることに…。 はたしてこの殺人事件の真犯人は、人間か、亡霊か──世界一の名探偵ポアロが超常現象の謎に挑む、水上の都市ベネチアを舞台にした迷宮ミステリーが幕を開ける。(公式HPより)
『オリエント急行殺人事件』、『ナイル殺人事件』に続く、アガサ・クリスティ原作(「ハロウィーン・パーティ」)、ケネス・ブラナー監督・主演の《名探偵ポアロ》シリーズ第3弾です。
『オリエント急行殺人事件』はともかく、前作の『ナイル殺人事件』があまりにも陳腐でがっかりしたので期待せずに観たのですが、原作を未読ということもあり、そこそこ楽しめました。物語の大半は屋敷の中ですが、ベネチアの美しい街並みも映し出され情緒を感じさせます。
前作では最愛の女性カトリーヌを戦争で失ったポアロの心の痛みが描かれましたが、今作では探偵業を引退してベネチアで隠とん生活を送っていたポアロを旧友のミステリー作家アリアドニ・オリヴァ(ティナ・フェイ )が事件に引きずり込むんですね😅
館の女主人ロウィーナ・ドレイク(ケリー・ライリー )は、最愛の娘アリシアを亡くし引退したオペラ歌手で、娘の霊と対話したいと降霊会を依頼しました。この館は孤児院だった過去があり、当時貧困と病から大勢の子供たちが閉じ込められて餓死したため、亡霊が出ると噂がありました。
亡霊の存在や霊媒師を否定するポアロは、早速霊媒師のレイノルズ夫人が、助手のデズデモーナ・ホランド(エマ・レアード )とニコラス・ホランド姉弟と組んで行ったトリックを見破ります。
しかし、その夜、ポアロは何者かに襲われ、直後にレイノルズ夫人が殺されてしまいます。
洗面所で蛇口をひねっても水が出て来なかったり、鏡に少女が映ったり、さらには彼だけに少女の歌声が聞こえてくる始末。どうにも不可解な現象がポアロの身に起こります。え~~?これってホラーだったの😨
でも、逆に発奮したポアロはいつものように容疑者一人一人に聞き取りを行い、その際の言動や様子を冷静に観察していきます。
ドクター・フェリエ(ジェレミー・ドーナン)はドレイク家の主治医ですが、心を病んでいたアリシアを救えなかった自責の念と、自らも戦争で負った心の傷に苦しんでいました。そんな父親を支えているのは彼の聡明な10歳の息子レオポルド(ジュード・ヒル )です。
家政婦のオルガ・セミノフ(カミーユ・コッタン )もまた、娘のように可愛がっていたアリシアの死に責任を感じていました。
アリシアの元婚約者マキシム・ジェラード(カイル・アレン)は謎の招待状に導かれてこの夜の客となっていましたが、実は彼もアリシアと別れたことを後悔していました。
登場人物それぞれが悲しみという「亡霊」に憑りつかれているようです。
さらに、ポアロのボディガードのヴィターレ・ポルトフォリオ(リッカルド・スカマルチョ )の意外な過去もポアロによって明かされます。冒頭で、ポアロを無遠慮に訪ねてくる輩を時に橋から運河に突き落として守るシーンがあり、彼は何者?と思った疑問が解けました😉 ヴィターレもまたアリシアの事件に関わっていたのです。
物語の後半、再び悲劇が起こり、フェリエ医師が密室で亡くなります。
アリシアの死を巡って、彼女を殺した人物とレイノルズやフェリエの死との関連を探るポアロは遂に真相に辿り着きます。
交霊会は、過去三作で酷評を受けたアリアドニがポアロをだしにして再び人気を挽回するために企画したわけですが、「友はいない」と公言するポアロが彼女の誘いを受けたのは探偵の本能からかも。
犯人がわかってみれば、その動機もまた明白です。
歪んだ愛情が生んだ悲劇であり、今回の事件の動機は「脅迫者」の排除でした。ポアロの幻覚は紅茶に入れられた蜂蜜(石楠花の蜜は幻覚作用がある)によるもので、その蜂蜜こそがアリシアの悲劇を招いていました。犯人は自分を脅迫していると誤解して二人を殺めていましたが、実はその脅迫者の正体もまた意外な人物でした。時として悪意より厄介なのが「愛」なのかもしれません。
救いはオルガがレオポルドを引き取り共に暮らすことになったことと、ホランド姉弟が彼らの夢を叶えることができるようになったことかしら。
最後にポアロが見たのは本当に「幻覚」だったのかと疑うようなエピソードも加えられています。
事件を通してポアロにも心境の変化が生じ、再び依頼を受け探偵業も復活しそう😁