AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

眼窩内刺針が刺激対象とするもの ver.2.2

2021-01-08 | 眼科症状

筆者は加藤雅和先生(米沢市で鍼灸院開業)に誘われ、最近、MPS(Myofascial Pain Syndrome 筋膜性疼痛症候群)研究会に入会した。そこで小山曲泉の掃骨針法の存在を知った。小山曲泉の眼窩内刺針を追試してみると具合が良いようなので、第2版としてこの内容を付け加えた。

1.はじめに
眼科疾患に対する治療で、古くから上下の眼窩内刺針という技法が存在している。この刺針は、治療効果を論ずる以前の問題として、眼球を傷つける懸念、皮下出血しやすい部であること(軽い場合は瞼に皮下出血斑をつくる。ときには瞼が腫れあがる)、施術に対する患者の恐怖感があることなどから、施術するのに躊躇する部位となっている。

実際に臨床に用いるかという問題はさておき、理論的にどういう意味があるのかを整理してみたい。

2.上眼窩内刺針 

1)魚腰(奇穴)

位置:眉毛中央。正視するとき瞳孔の直上。
刺針:内方に横刺する。
解説:三叉神経第1枝の分枝である眼窩上神経刺激になる。正中から外方2.5㎝外方の眉毛上に眼窩上神経ブロック点がある。
 
2)上眼窩内刺針 
位置:眼球と上眼窩の間隙。具体的には瞳孔線上、瞳孔線の内眼角寄り、瞳孔線の外眼角寄りの3つの方法がある。
刺針:閉眼させ、細針にて静かに直刺。1~2㎝刺入。置針。
解説:深刺すると上眼窩裂内に刺入できる。

①上眼窩裂刺

睛明の上からの眼窩内に非常に深刺すると、上眼窩裂刺針になる。上眼窩裂とは、眼窩底の内方にある穴で、ここから三叉神経第1枝、動眼・滑車・外転神経、眼静脈も出る。
※郡山七二は、眼窩内刺針には、鎮静作用もあると記し、鎮静法として内眼角付近からの眼窩刺針を第一に推薦している。(郡山七二「現代針灸治法録」天平出版)

②上眼瞼挙筋刺

※上眼瞼挙筋(動眼神経支配)は、上眼瞼を挙上させる働きがある。本筋は眼瞼腱膜を介して眼瞼板につながっている。上眼瞼挙筋の腱膜が剥離すると、後天性腱膜性眼瞼下垂になるが、一説によれば老化などで眼瞼挙筋が伸びて弛んだ状態になっても眼瞼下垂となるとされる。この場合、上眼窩内刺針をする意義がある。もっとも専門家は、眼瞼挙筋に対する刺針や、その拮抗筋である眼輪筋に対する刺激は無効だと判断しているようだ。

③涙腺刺激
外眼角と眉の間部の眼窩内に涙腺がある。外側からの上眼窩内刺では、涙腺を刺激できる。
※ドライアイは、涙腺分泌減少によるものではなく、マイボーム腺からの脂分泌が減少すため、眼球表面に分布した涙の蒸発量が増加するためだとされる。涙腺直接刺激はあまり価値がない。


3.下眼窩内刺針 


1)毛様体神経節刺針


歴史と意義:毛様体神経節刺針法は1979年、中村辰三氏が発表した。毛様体神経節は副交感神経性の神経節(眼の栄養、分泌、疲労回復などの機能)であることから、この部への刺針を試みる価値があると推測した。実際に試みると、針治療により急速に視力が改善するという。針治療が眼底出血に有効である症例があったとの治験も得たという。

刺針技法:眼耳水平面(眼窩下縁の最低点と耳孔最上部を結ぶ面)から、上向き角度約30度、正中面に対する内向き角度約30度で、眼窩下縁と外側縁の交点から、眼球の後方に向けて約3.5㎝内側上方へ刺入。1号針を用いた10分間置針。軽く雀啄後に抜針。


 

2)球後刺針

位置:外眼角と内眼角との間の、外方から1/4 の垂直線上で「承泣」の高さ。

刺針:眼窩内に直刺、その後針尖を上内方に少し向け、視神経孔方向に刺入。患者は眼球が熱く腫れる感じを覚える。針の刺入時の注意は睛明の刺針と同様。
解説:球後とは、眼球の後という意味がある。中国では内眼病の治療穴として用いられる。眼の周囲に中国鍼を何本も刺すのだから内出血になるが、治療者はそのことにあまりこだわらない。治すためのやむを得ない副作用だと思っているらしい。まあ、現代眼科治療で処置なしの病態でも本当に治るのであれば文句のつけようがないことである。

深刺すると下眼窩裂に入ると思うが、下眼窩裂が眼窩下神経(三叉神経第2枝の分枝)が通る部であって、臨床上は眼窩下孔(=四白)刺激と同等の価値があると思う。したがって、三叉神経第2枝の興奮時に使えるであろう。 

 

前記の毛様体神経節刺針は未知な点があるほか、技術的難易度も高い。毛様体神経節刺針の代用として従来からは球後刺針が行われてきたと思う。球後刺針の狙いは、下眼窩裂に刺入するのではなく、眼球後にある長・短毛様体神経や鼻毛様体神経であろう。わさびを食べると、鼻にツーンときて、涙が出るのは、これらの神経興奮による。

 

4.小山曲泉の上眼窩内刺と下眼窩内刺

小山曲泉(1912-1994)は、掃骨針法を創案者として知られている。その理論は今日の医学観点からは納得のいかない部分はあるが、実践面では「骨にぶつけるように深刺することがよい治療効果を生む」と指摘した。

眼精疲労に対しては、これを軽い眼窩神経痛としてとらえるべきだとする。眼痛を訴える患者に対して、眼球自体を指圧するのと、眼窩内に指を折り曲げて按圧するの とでは、どちらが快痛であるかを術者が問うと、文句なしに骨を圧重した法が気持ちよいと言うと指摘し、3番~5番で圧痛方向に刺針して軽く雀啄すようにする、必ず快痛の響きがあるということである。
  
筆者は眼の疲れを訴える患者の何例かに本法を追試してみた。これまで筆者が眼窩内刺針を行う場合、これまでは押手を弱く構えていたこともあって、圧痛の有無を調べていなかった。閉眼させ、眼窩内に指を折り曲げて按圧してみると、患者に聴くまでもなく、術者の指先に圧痛硬結を感じとれる共通ポイントのあることを発見した。それは睛明のやや上方と、承泣の2点だった。
  
これらを刺入部位とし、指頭で探し当てた圧痛硬結に向けて刺入すると、しっかりと硬い筋中に刺入できているといった手応えがあった。針灸師にとって、硬い筋中に刺入できている手応えというのは非常に重要で、これまでの眼窩の骨にも、眼球にも当てないように刺入するような針では、効いているのか効いていないのかの感触がつかめないのであった。

この硬い筋といいのは場所的に、外眼筋や眼瞼挙筋のだと思えた。眼窩内の骨にぶつかるまでこのシコリに向けて4番針で約2㎝刺入して5分間置針してみた。患者は眼球部に重い感じがしたという。さらに閉眼したまま、上下左右の眼球運動を数回指示した。 (眼球運動の際は、何も刺激感がなかったという)。施術後は、眼のスッキリ感があったとのこと。

眼精疲労には、眼の奥がつらいという者と、目頭がつらいという者に大別できる。前者には天柱深刺を、後者には小山曲泉流を、と使い分けをすればよいのではないかと思った。  

※このテーマでブログを発表したところ、掃骨鍼法の存在を知らしめた<小橋正枝先生からご返事を頂戴し、以下のような詳しい手技を披露していただいたので紹介する。

ご本人に鍼管を持って頂き、最も納得の行くポイントを検出して頂くこともあります。その位置から直近の骨壁に先ず当ててから、骨に添わせて刺入します。石灰沈着など必要が有れば、雀啄も致します。

 


 

 

 

 


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