AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

脳清穴の臨床応用例 ver.1.2

2018-04-24 | 経穴の意味

 

1.脳清穴とは

脳清穴とは、解谿の上2寸にある新穴で、脛骨外縁側付近で長母指伸筋腱上に取穴する。長母指伸筋腱を刺激するという意味では、解谿穴刺針に似るが、解谿と比べてしっかりと刺激できるという利点がある。この度、脳清穴刺針が効果あった症例を通じ、脳清穴刺針の臨床応用の一端を知ることができたので報告する。

 なお脳清穴については、「足三里と脳清穴の相違点(2010年7月11月発表)」と題して報告済。とくに脳清穴の刺針方向と深度について記している。未見の方は併せてご覧いただきたい。

https://blog.goo.ne.jp/ango-shinkyu/e/e7514bb2ee7d5d4602f318ad0cdce4ac

 

2.症例1(T.O. 63才男性)

1)主訴:足首を回しにくい

来院時の主訴は、坐骨神経痛と上殿部コリ。ともに仙骨神経症状なので、坐骨神経ブロック点刺針と中殿筋刺針で改善しつつあった。なお中殿筋は上殿神経の運動支配であり、上殿神経は仙骨神経叢の枝でなので、同じ仙骨神経の枝である坐骨神経痛時に同時に出現することが多い。
本患者は、他に「足首を回しにくい」との訴えもあり、治療数回目からは、こちらの方が主訴となった。

2)考察

足首の動きが悪いという訴えから、拮抗関係にあるべき下腿後側筋や下腿前面筋の緊張を調べてみる(これはⅠa抑制を考えている)と、確かに圧痛点は多数見つかったが、どこを押圧しても痛がるといった状態だったので、特異的反応点を見出すことは逆に難しかった。

そこでどの姿勢をすると最もつらいかを問診すると、「正坐しようとすると、下腿前面がつつっぱって痛むので、上体を前傾させ、体重があまり下腿にかからないようにしている」との回答が得られた。

3)治療

これは前脛骨筋を十分にストレッチできない状態であると考え、仰臥位で条口あたりから前脛骨筋に2寸4番にて刺針、その状態で足関節の上下の運動針を実施した。直後に正坐させてみると、上体の前傾程度が少し改善し、下腿前面の痛みは消失し、代わりに足背部の衝陽あたりがつっぱって痛むということであった。

 
足指を底屈する動作で痛むのだと捉え、再び仰臥位にして脳清穴から長母指伸筋腱と長指伸筋腱に刺入し、その状態で足指の底背屈の自動運動をさせた。その直後に正坐させてみると、上体の前傾がほぼ消失し、正しい正座姿勢ができるようになり、下腿前面や足背の痛みも消失した。

4)判明したこと

1)正坐が苦手という者は、膝関節部痛のことが多いが、負荷をかけた際の足関節の伸展痛や、足指関節伸展痛が原因のこともある。

2)前脛骨筋の負荷伸展障害は、前脛骨筋部に刺針しての運動針(足関節底背屈運動)で有効になるケースがある。長母趾伸筋・長指伸筋の負荷伸展障害は、脳清穴に刺針しての運動針(足指の底背屈運動)で有効になるケースがある。

 

3.症例2(S.A.43才男性)

1)主訴:足関節が痛くなって正座姿勢がとれない

以前から上記状態が存在する。痛むのは、足関節背面~下腿前面の下方。

2)考察:正座姿勢時に、足母指MP関節が強く屈曲されるが、その動作で長母指伸筋腱が強制伸張される。この時の痛み。すなわち長母指伸筋の過収縮が本態。

本例は脳清運動鍼の適応であろう。ただし、これまでこの刺針は仰臥位で行うのが常だったのだが、この症例の数日前、理由なく私自身の脳清の重だるさを感じることがあってた。こういうことは過去に何回かあった。そのたびに長座位(足を伸ばしての座位)になっっ自分の脳清に刺針し、母指の底背屈運動を行った。よく響くのだが、脳清部のダルサに対してはあまり効果を実感できなかった。ここで今回は、椅座位で脳清に刺針した状態で、爪先の上げ下げ自動運動を行ったところ、初めて効果を実感できることになった。

3)治療

座位または立位で脳清刺針し、爪先の上下自動運動を5回行わせて抜針。その直後にベッド上で正座させてみると痛みなく動作できるようになったとのことだった。

4)判明したこと

同じ運動鍼でも、自分の体重を利用するといった、負荷をかけた運動鍼でないと、十分な効果は得られないらしい。なお、「脳清」という漢字のイメージから受ける、脳をすっきりさせるような治療効能はないようだ。

 

4.診断名は外側型シンスプリントか?

 

当初、なぜ特異的に脳清穴あたりの鈍痛を生ずるのか不明だったが、やかてこれは「前外側型シンスプリント」の診断名になるのではないかと考えるようになった。シンスプリントの典型は、「後内側型シンスプリント」であり、この場合硬い内側の三陰交付近を中心に痛むものだが、「前外側型シンスプリント」というパターンもある。すねの前面と外側の筋膜(前脛骨筋、長母趾伸筋)に牽引ストレスが作用して痛みを生じ、付着する脛骨骨面の骨膜にも牽引ストレスが作用して痛む状態である。足関節背屈がしづらくなる。脛骨筋の障害では、脛骨前面の胃経から中封に沿って重苦しく痛むが、我慢できないほどの強い痛みになることはあまりない。後内側型シンスプリントに比べて治療に反応しやすい。