雲は完璧な姿だと思う。。

いつの日か、愛する誰かが「アイツはこんな事考えて生きていたのか、、」と見つけてもらえたら。そんな思いで書き記してます。

時に世界は嘘でも回る

2012-09-13 02:48:29 | 素敵...映画/音楽/珈琲
うちの部に

「人なんて全く信じられません!
今まで信じて良かったことなんて一つもなかったし。。」

と常々言っている女性スタッフがいます。
それでも、何故か!?

「お馬さんだけは信じれる!裏切らないし。可愛いし!」

と、休日には何時もお馬さんに会いにいって
写真やビデオを撮ったりしているようです。
ちょっと不思議な言動にも思えますが......
何やら愛すべき面白い人です(^^)
そして、そんな

「人を信じれない、、」

なんて話しをしていると、
時折頭に浮かんでくる映画がいくつかあって。
中でも一番のお気に入りは
「SMOKE(スモーク)」
というアメリカの映画です。
ウェイン・ワン監督。これです(^.^)



この作品が公開された時は単館でしか見ることが出来なくて、
とてもヒッソリと上映されていました。
僕は東京、恵比寿の「ガーデンシネマ」
というところで見たような記憶があります。
いや、しかし、この映画には......ヤラレました。

「粋」です。はい。

この映画を一言で表せ!と言われれば、
僕は「粋=イキ」と答えます。
映画界や映画ファンの間ではとても評価が高いようで、
ベルリン国際映画祭で銀熊賞などもとっています。
主人公はニューヨークの街角で小さなタバコ屋を営むオーギー・レン。
一癖も二癖もある様なオヤジ。
ハーヴェイ・カイテルが演じていますが......とても「ハマり役」です。はい。

粋です。

このオーギーは写真が趣味で、14年間、4千日、
1日も欠かさず自分の店の傍の同じ場所、同じ時刻......
それは毎朝8時......に、写真を撮り続けています。
ただひたすらに......です。
自分が住み、愛している街角を撮り続けています。
彼はある日

「その写真を見たい」

と言って、
自宅に遊びに来た小説家の友人のポールにこう言います。



「4千日、どんな天気だろうと一日も欠かしたことが無い。
休暇も取れない。
これは俺のライフワークだ。
ここは俺の街角だ......俺の街角の記録だ......
ヘイ!フレンズ!写真はゆっくり見なきゃダメだ......」

「......?どうしてだ? みな同じだけど......」

「同じようで、、、一枚一枚全て違う。
よく晴れた朝、曇った朝。夏の日差し、秋の日差し。
ウィークデー、ウィークエンド。
オーバーコートの季節、Tシャツやショートパンツ。
同じ顔が通ったり、違う顔が通ったり。
新しい顔が常連になって、古い顔が消えていく。
地球は太陽を回り、太陽光は毎日違う角度で差してくる」

「......ゆっくり見る、、か?」

「ああ。俺はソレを勧めるよ。
明日に、明日に、明日......時間は同じペースで流れる」



オーギーは友人と二人で飲みあかしたその翌朝も、
変わらずその街角でシャッターを切ります。



この映画、万事がこんなふう。
大きな事件も、びっくりする様なカットも演出も何もありません。
主人公オーギーの毎日の写真撮影の様に、
物語はただ淡々と紡がれていきます。
しかし、その淡々とした描写が他の何より登場人物一人一人の個性と背景、
彼ら一人一人が持つ「貴い物語」を強く浮き上がらせていきます。

幼い頃に蒸発してしまった父親を探し出し、
その父の元で自分の正体を隠しながら安給料で働き出す黒人の青年。
幼い頃から極貧の生活をしてきた彼は、
その自尊心を守る為、色々な嘘をつき続けて生きて来ました。
そして、同様に、父親の元で働き出してからも、
クビにならない様に、
彼はどこまでもどこまでも嘘を貫き通して働こうとします。



物語には、
進むにつれてそんな「嘘」が蔓延していきます。



「その男はエリザベス女王に
“俺はタバコの煙の重さを計れる”
と言ったんだ......」



「死を覚悟した愛煙家の作家が、
死ぬ前に最後の一服をしようと "巻きタバコ" を巻こうとすると、
肝心の巻き紙が一枚も無く、、、
目の前には10年かけて書いた自分の原稿がある。
さて、死ぬ時に大事なのは書き上げた本なのか、
一本のタバコなのか......」



「あるスキーヤーが雪崩にあって死んでしまった。
彼には幼い子供がいて、25年後、その子も大人になってスキーヤーになる。
そして、彼もまた父が亡くなったアルプスに行きスキーをする。
そこで彼は信じられないものに出会うんだ......」



いったいどれが嘘で、どれが本当の話しなのか......
出てくる様々な話しはタイトルの通り、
まるでタバコの煙のように、
スクリーンの中で豊かに香り、漂いながら、スッと......
消えていきます。

「何を信じて、何を信じなければいいのか?」

いつしか、
そんなことはどーーでも良くなるくらい。
そんなことを考えるのは馬鹿げたことだよーー、っと、
嘲笑うかの様に。
色々な人々の虚々実々の物語が軽々と流れ、消えていきます。



現実は、
人生は、
タバコの煙の様に漂いながら、
いつしか形も無く消えていって、
だからこそ何を信じるのか、何を見るのか......
そんなことが、
そんな選択が、
「時に」人生の価値を決めることもあるのかもしれない。
僕らは嘘で埋め尽くされている世界に生きているのかもしれないけれど、
人に喜びを与えられる嘘もある。
信じるに値する嘘もある。
だから時に騙されてみることも、そんなことも、
もしかしたら大切なことなのかもしれない。



時に世界は嘘でも回る。



世界は嘘でも回っている。



ラストシーン。
季節はクリスマス。
スクリーンでは最後の素敵な「嘘」が展開されていきます。
バックに流れてくるのは「トム・ウェイツ(Tom Waits)」 の
「Innocent When You Dream」



「信じる者が一人でもいれば、その物語は真実になる」

この映画の脚本を手がけているポール・オースターが
この作品に自ら寄せた言葉。
村上春樹も大ファンだと話している小説家で、
この映画は彼がニューヨークタイムズに寄せた短編小説が
キッカケとなり作られたそうです。

時々見直したくなってしまうこの作品は、見ると、
滅多に吸わなくなった煙草に思わず火をつけてしまいます。
そして、その味は、何時も決まって......
美味しいのです。(^^)


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