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進化する魂

フリートーク
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『これからの「正義」の話をしよう』 正義に悩む人へのガイドブック

2010-10-08 15:47:02 | 哲学・思想
これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学(マイケル・サンデル (著), 鬼澤 忍 (翻訳))

NHK「ハーバード白熱教室」の影響もあって、今年のベストセラーとなり、日本に哲学ブームを引き起こした。
この本が、なぜこれほどまでに受け入れられ、そして大議論のキッカケを作るに至ったのか。
その本質的な原因は、TV番組が面白かったというだけではない。
多くの日本人が哲学を渇望するからだ。

東西冷戦の終焉による大きな物語の喪失、経済成長力の鈍化、少子高齢化社会、過剰な財政赤字、社会福祉の行き詰まり、グローバリゼーションと新興国の台頭、地域コミュニティの崩壊など今、日本が、日本人が置かれている状況はかつてなく苦々しいものだ。
物質的な豊かさで見れば、日本は相対的に世界屈指の豊かさを手にしているのにも関わらずだ。
人々は、自分達には何かが足りないと感じている。
何が重要なことを見逃し、考えるべきことを見落としているのではないか、皆がそう思い始めた。
近年の政治的混乱が、より一層の日本の行き詰まりを暗示し、その思いに拍車をかける。

そこに颯爽と登場したのが、マイケル・サンデルであり、この本だ。
この本の導入が、その想いに答えている。



哲学は、机上の空論では断じてない。金融危機、経済格差、テロ、戦後補償といった、現代世界を覆う無数の困難の奥には、つねにこうした哲学・倫理の問題が潜んでいる。この問題に向き合うことなしには、よい社会をつくり、そこで生きることはできない。アリストテレス、ロック、カント、ベンサム、ミル、ロールズ、そしてノージックといった古今の哲学者たちは、これらにどう取り組んだのだろう。彼らの考えを吟味することで、見えてくるものがきっとあるはずだ。



皆がハーバード大学の世界最先端で活躍する教授の語る言葉に耳を傾け始めた。
「哲学なんて何の役にも立たない」と嘲り倒すだけだった多くの日本人にも世界の知見を取り組む用意ができたのだ。
「役に立たない哲学」があるのではなく、「哲学を役立てられない」自分達がいたことに気づいたのだ。

その意味で、この本はゴールではないし、何かを指し示しているものでもない。
この本はスタートだ。
哲学を実社会にどう適応させることができるかの、議論の始まりである。

ただ、1つ注意しておかなければならないことがある。
この本は「哲学という学問」を探求するものではない。
「新しい哲学」を発見しようとする試みではなく、
「既にある哲学」を現実の社会にどう適応できるか検証するための試みである。
哲学に関する専門性がなくても読むことができる一方で、
この本を読むことだけで哲学の深みを知ることは難しいと思われる。
その意味でも、この本はあくまでもスタートなのである。

この本のタイトルがそれをよく示している。

"これから"の「正義」の話をしよう

この本は読み終えて初めて始まる。