粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

原発が止まって12.7兆円の損失

2015-02-22 12:52:34 | 反原発反日メディア

鹿児島の川内原発は昨年秋、安全審査の新基準を通過して今年の始めには再稼働ができるものと思われていた。しかし、それが今年度末さらには今年の夏までずれ込むという見方が強くなっている。

もちろん、この間全国の原発は動かずそれを補うものとして多くは火石燃料の輸入による火力発電に手頼ざるを得ない。原発事故以来、原発が稼働できないことによる化石燃料の輸入額は12.7兆円に上り日本経済に及ぼす悪影響は計り知れない。

その辺の事情は討論ネット言論アリーナ「原子力規制がもたらす日本経済の危機」で出席者の証言で明らかにされている。出席者、池田信夫アゴラ研究所所長、諸葛宗男パブリック・アウトリサーチ上席研究員、澤昭裕国際環境経済研究所所長。

ここ3年半での12.7兆円の国富が流出したというのは諸葛氏の指摘だが、これを国民一人当たりちょうど10万円にもなるし、3人家族の所帯で30万円の額に上る、しかし、今なお世論は原発再稼働の声が強く、この損失を問題にする声は極めて弱い。

その損失を事業者である電力会社は電力料金の値上げで補填することになる。これまた諸葛氏の算出だが、特に企業への負担は毎年6300億円ほどになり、これは従業員の給料の2%にもなるという。したがって安倍首相が企業側に社員のベースアップを要請しても簡単に応じられない事情があるということのようだ。

しかし、こんな切迫した電力事情にも関わらず、原子力規制委員会の安全審査はなかなか進まない。田中委員長も新基準の安全審査は6ヶ月程度で済むという感触を政府や事業者に示していたようだが、始まってみればその3倍もの時間がかかっている。政府や電力会社がここへきていらだちを見せ始めているが、今はこの規制員会が世論の強い声を背景に再稼働にストップをかけるような立場になっている。

特に2013年3月田中委員長により出されたいわゆる「田中私案が再稼働実施に対する強力な阻害要因になっている。規制の基準を満たしていない原子力発電所は、運転の再開の前提条件を満たさないものと判断する」これは法令や規制委員会の公式の決議にもなっていない私的な基準に過ぎない。しかし、これが暗黙の了解のように規制委員会の空気を支配し、政府や事業者もこれに異をとなえることを控えている。

出席者3人とも早くこの「田中私案」という暗黙の原則を排除することを主張している。そのためにも政府が新たな法律や政令で審査のプロセスを明確化、簡略化してスピーディにできるよう法整備をすることが必要だという。具体的には基礎的な審査が通過した時点で再稼働を認可して、それ以外の審査は稼働中に行うというふうにだ。海外ではそれが一般的であるといわれている。

しかし、澤氏が指摘するように、安倍内閣は歴代の自民党内閣の中で原子力に対して最も慎重であるという。防衛や経済振興などの政策が優先されて、原発に対しては腰が引けている。結局、選挙を始めとして政局を気にして再稼働に慎重な世論に迎合しているというのが澤氏の印象のようだ。

こうした現実を見ると、原発事故の衝撃から国民は落ち着くどころか、その呪縛が依然世間を覆っていると言わざる得ない。それが政権や役人たちをいまだ束縛している。12.7兆円の国富損失や電気料金の値上げによる企業や家庭の重い負担も表立って国会やマスコミで話題にならない。左翼系言論人たちが「今は物が言いづらい空気になっている」と盛んに喧伝しているが、原発再稼働も同じように重い空気が日本を包んでいる。どちらが日本に実際的な損害を生んでいることかはいうまでもない。