粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

日本と韓国の言論空間

2015-02-19 16:24:23 | 厄介な隣国

フランス・パリに本部を置く国境なき記者団が毎年世界の国々の「自由度ランキング」を公表している。2014年度では日本は世界で59位、お隣の韓国は57位となっている。日本が世界でこんな低い国なのかと疑問だし、まして韓国の後塵さえ配しているのが全く理解できない。

ジャーナリストの木村正人氏の説明によると、安倍内閣が13年末と特定秘密保護法が成立させたことが理由だとしている。しかし、2014年のランキングの時点ではこの法律は発効していない。「発効されれば自由度が下がるだろう」という想定の順位でしかない。

ちなみに日本は2013年で53位、2012年は22位である。なんと民主党政権から安倍政権になって30位以上もランクを落としている。どうも、この国境なき記者団は安倍政権を民族主義的右翼政権と見なしている節がある。この政権の誕生によって、国民の自由が制限され閉鎖的な言論空間を強いられると。日本の左翼陣営が安倍政権誕生を警戒し危険視しているのと明らかに符合している。

最近明らかに左翼系と思しき言論人たちが特に日本人人質事件の報道を巡って政権批判を自粛する空気が社会やマスメディアに広がるのを危惧するという声明を出して物議を醸している。本日のラジオの番組でもいかにも左派系と思われるキャスターも同様のことを語っていた。つまり、この事件で安倍政権の対応を批判することは、「テロ側を利する」という世間の反発を受け、結果的に「ものが自由に言言いづらい空気」になっていくのではないかとコメントしていた。

しかし、このキャスターを含め、左派系の言論人たちは原発事故当時は、反原発の大合唱で少しでも原発を肯定する人あるいは被曝の影響を冷静に解説する人々、特に学者たちを「御用学者」と激しく糾弾していた。これら学者たちにとっては、当時まさに「ものを言いづらい空気」に圧迫されていたのである。だから、こうした言論人たちが4年前は逆に「加害者」の立場にいたともいえるのに、何を今更「被害者面」するのかと敢えて言いたい。

よく「ものが言いづらい空気」というが、それは個人個人の印象に過ぎない。国家機関が意図的に言論を封鎖しているということでは決してない。具体的には自分たちの主張が、ネットで反発を受け彼らのブログやツイッターなどに抗議が殺到し炎上することだ。あるいはテレビなどの発言に視聴者から放送局に抗議が殺到する場合だ。本人にとっては不快なことだが、それは自由の言論世界で当然ありうることだ。まして、自分の言論で相応の報酬を受けている場合はそれなりの責任と覚悟をもってしかるべきだ。それを「ものを言いづらい空気」などと被害者ぶる姿に対しては、自分から見れば「甘ったれるな」と言いたいくらいだ。

ところで、前述で韓国のランクが日本より2位も上位にあることに言及し、それが理解できないと書いたのは、昨年からの産経新聞前ソウル支局長事件のこともあるが、最近韓国で報じられたニュースに接したからである。

韓国地裁、慰安婦研究書の出版禁止

 元慰安婦の韓国人女性9人が、韓国・世宗大の朴裕河教授の著書「帝国の慰安婦」で慰安婦を「売春婦」などと記述され名誉を毀損されたとして同書の出版や広告を禁じるよう求めた仮処分申請で、韓国のソウル東部地裁は17日、訴えの一部を認める決定を出した。聯合ニュースが報じた。

 同ニュースによると、地裁は決定で、同書が慰安婦を「軍人の政策遂行を助けた愛国少女」「自発的売春婦」などと表現した部分を削除しなければ、女性らの名誉や人格権が回復困難なほど傷つけられる恐れがあると判断。こうした表現を削除しないまま出版することを禁じた。

 地裁は、元慰安婦らは、軍部隊に付属する慰安所に連れて行かれて初めて自分の置かれた状況に気づいたと指摘。抵抗すれば日本軍の暴力や脅迫を受けたとして、慰安婦は売春婦とは「質的に違う」と判断した。(共同)

この報道に驚きとともに不快感を覚える。韓国の大学教授が旧日本軍の慰安婦を「自発的売春婦」としているが確かに全て正しいと言えないかもしれない。ただ、多くが家の貧しさから親などの意向を受けて売春婦の道に甘んじて進んだ。ある意味「自発的」と見なしても間違いではない。それも一般兵士の何十倍の報酬を得ていたことを考えればなおさらだ。

逆に地裁が「元慰安婦らは、軍部隊に付属する慰安所に連れて行かれて初めて自分の置かれた状況に気づいた」と判決したのは事実として疑わしい。少なくとも地裁がそう決めつけ、出版を禁止することは司法の暴走と言わざるを得ない。韓国の出版差し止めは、言論の自由を国家権力によって奪う行為だ。日本の「ものが言いづらい空気」と全く次元の違う深刻な事態だ。日本でこんなことで裁判で出版差し止めが決定されることはあり得ない。

こうした事例をみれば、日本と韓国の言論空間を比較すると、国境なき記者団の順位はどう見ても「あり得ない話」だ。日本が仮に59位だとしても、韓国はこれよりもはるかに下位になるはずだ、それにしても、「ものを言いづらい空気」と表明した言論人たちは、韓国司法の出版差し止めをどう見ているのだろうか。自分の言論が国家権力で封鎖される隣国の現状を。