眠雲臥石(雲に眠り石に臥す)
石の上に横になりながら雲を眺め、悠々自適に過ごす様子。
書を始めて間もない頃、私の書の師が団長を務める中国旅行ツアーに、
母と一緒に参加したことがある。
確か十日間位の日程の中、思い出す限りでも天安門広場や万里の長城、
西安の法門寺、西湖、南京、などの観光地、そして骨董品街として有名な
瑠璃蔽(るりちゃん)や北京故宮博物院などを巡る、かなりな過密スケジュールだった。
早朝からバスでほぼ毎日が移動の日々で、しかも道路は舗装されていなかったり、
街中でも信号がなく、それぞれの車が警笛をずっ~と鳴らしながら暴走。
ランチにと配られた紙袋に入ったお饅頭は、バスの網棚に置いておいたら、
ポタポタと油が滴り、南京の公衆トイレは、石の壁に囲まれた中に、ただ穴が
6つ位開いただけのもので、現地の方々はなぜかお互い向き合って用を足していて。
年配の方、綺麗好きな方には、かなり過酷な旅だったようだ。
私はというと、当時書を始めて間もなったこと、それにみんなと争って書の文物を買う
ことにあまり興味がなかったので、皆さまが硯や筆、書物を探している間、
一人街に出て、市場や公園に出かけ、筆談で会話を楽しんだりしていた。
そして何よりこのツアーで思い出深いのは、世界遺産の黄山(安徽省)に登ったことだ。
いわゆる山水画に出てくるような、巨大な花岡岩の断崖絶壁が美しいところ。
年配の方々(母も)は、強力(ごうりき)と呼ばれる籠屋の籠に揺られ、私は徒歩で登山。
途中にあった天に向って聳え立つ「飛来石」では、まさに仙人の境地をしばし体感。
眠雲臥石。このことばは、まさにこの風景から生まれたことばだろうと思った。
そして、このことばには、マーラーの曲がよく似合う。
このことばを見るたびに、思い出す曲は、交響曲「大地の歌」~青春について。
雲に乗り天上から大地を眺めるような、のどかで清々しい歌入りの曲。