無意識日記
宇多田光 word:i_
 



もう一度その「ハート・オブ・レコード」(byゼイン・ロウ)たる段落を引用しておく。

『Do I dare be vulnerable?
 What if I lose all control?
 But I don't wanna be alone
 Every day of my life』

訳すとこう。

『それでも弱さをみせられる?
 何もかも手に負えなくなるかもしれないのに?
 でも一人にはなりたくないからさ
 人生のどの日であっても』

なお、本筋とは関係ないけど一応注釈つけとくと、「手に負えなくなる」には定番の直訳"get out of hand"というのがあるので万が一英語の試験を受ける読者の方がいらしたら歌詞にある"lose all control"よりこっちを使おう。今回は文脈に合わせた訳にした。注釈終わり。戻ろう。


ここの『But』は何がどう「でも」という逆接なのか。これを考えると結構難しいのだ。

というのも、この歌を聴いた人は、

「もし弱さを"見せてしまったら"一人になってしまうから」

とも

「もし弱さを"見せられなかったら"一人になってしまうから」

とも、どちらとも解釈できてしまうからだ。この段落の歌詞だけではどっちだかはわからない。「弱さを見せる」≒「傷つき易いままでいることを周りに知られる」ことで周りの人が離れるのか、それとも「弱さを見せられない」ことで周りの人が離れていくのか。この歌で歌われているのはどちらだろう?

既述の通りこの、

『Do I dare be vulnerable?
 What if I lose all control?
 But I don't wanna be alone
 Every day of my life』

のパートは『Find Love』で都合4回繰り返される。ではその記念すべき(?)1回目の登場の直前の歌詞は一体どうなっているのか見てみよう。それによって何がわかるのか。

『For now committed to my therapy
 I train with Vicki 3 to 5 times a week
 Getting stronger isn't easy baby』

訳すとこう。

「今のところ私はセラピーに通っています。
 週に3~5回、ヴィッキーと一緒にトレーニングに励んでます。
 強くなるのはカンタンなことじゃ、ないよね。」

これは、ヒカルのインスタライブなんかを欠かさず観ている方なら御存知の通り、最近のヒカルの話だ。アルバムで最後に制作した楽曲『気分じゃないの(Not In The Mood)』では「その日実際にヒカルが目撃した様々なこと」を歌詞にしていたが、こちら『Find Love』でも実体験、実話を元にした歌詞を書いている。そういやヴィッキーのことチェックするの忘れてたわ。YouTubeにでもあるのかな?

そして、ここは2番の歌詞冒頭、Aメロと呼ばれる箇所になるが、ここは1番の同じく冒頭のAメロの内容ときっちり対応しているのだ。

『Some days my heart feels miles away
My body isn't listening』

訳すとこう。

「心が果てしなく遠くに感じる事がある
 身体も言うことを聞かない」

そう、2番の冒頭と合わせると

「心が不調だからセラピーに通ってるし
 身体が不調だからトレーニングに励んでいる」

という風にキチンと対応している訳である。そしてどちらも、ヒカルの実体験に基づいている。(前にも触れたが、ライブセッションインタビューで語っていた通り、ヒカルには声が不調な時期があった)

ここらへんの歌詞の見通しが出来てくると、『Do I dare be vulnerable?』の歌詞の意味と価値への理解が深まってくる。ますます話が長くなっててすまないが、多分次回も次々回も続きますっ。

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っとと、「VOGUE JAPAN」の話はもう発売が間近に迫っているのだから来月に譲るとして話を元に戻そうか。その表紙を飾ったとてもキレイな人による『キレイな人(Find Love)』と『Find Love』の歌詞の話だ。

『Find Love』で、「周りの人が立ち去るのを見たくない、一人になりたくはないから」という一節が出て来た、って話からだね。

そちらが『"Cuz" I don't wanna be alone』の方。では、『Find Love』での『"But" I don't wanna be alone』の方はどうなっているか。次の段落の形で出て来る。

『Do I dare be vulnerable?
 What if I lose all control?
 But I don't wanna be alone
 Every day of my life』

訳すとこんな感じ

『それでも弱さをみせられる?
 何もかも手に負えなくなるかもしれないのに?
 でも一人にはなりたくないからさ
 人生のどの日であっても』

ここの葛藤が『Find Love』の中心なんだと思う。アップルラジオでインタビューアのゼイン・ロウがこの一節を"Heart Of the record"と表現していた。この1曲のみならず、アルバム『BADモード』全体としての“核心”ですらある、と。

確かに、ヒカルは最近インタビューやらインスタライブやらでここに出て来る"vulnerable"、カタカナにすると「ヴルネラブル」になるかな、ヒカルはこの語を英国風な「ヴルナァブル」という発音で話している。そういや自分でインド系っぽり訛りらしいと言ってたが、米国発音も混ざって独特になってるのかもね。それはさておき。

その意味は辞書を引くと

「傷つきやすい
 攻撃や非難を受けやすい
 批判や皮肉などに傷つきやすい」

となっている。一言で言えば「脆弱」って事になるが、リスナーからすれば『タイム・リミット』の

『傷つき易いまま
 オトナになったっていいじゃないか』

って歌詞が思い出される所だろう。この言葉をフィーチャーした

『Do I dare be vulnerable?』

の一節と『"But" I don't wanna be alone』の"But"がどう接続されているか、そこのところの話を次回詳しく。

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