脳はすすんでだまされたがる

2012-05-08 15:40:47 | 日記

スティーブン・マクニック スサナ・マルティネス=コンデ サンドラ・ブレイクスリー著  角川書店刊

著者のスティーブンは行動神経生理学、スサナは視覚神経生理学の研究室長。本書の主旨は、ヒトは何を視、それを脳はどう理解しているかがテーマ。どうやら、ヒトの眼は焦点にあるものだけに注目し、周辺のモノは無視する傾向があり、それを脳は視ていない(注意を払っていない)部分は、経験に基づいて推(憶)測するか、錯覚しているらしい。
と、書くと何やら小難しい本のように思えるが、それを私たちは具体的に体験していることを教えてくれる。そう、マジック(手品)である。「タネもシカケもありません。このボールを消してしまいます」とマジシャンが言えば、我々がボールを凝視していたはずなのに、消えてしまう。こうした経験は誰にでもあるだろう。見えていて、見えないのだ。ある筈の仕掛けが……。
ここでサブタイトル「マジックが明かす錯覚の不思議」が生きてくる。著者たちはこうした事例をマジックに求め、そこから理論を展開していく。その研究過程で、マジックにはズブの素人だった二人はなんとハリウッドのアカデミー・オブ・マジカル・アーツ、イギリスのザ・マジック・サークル、世界マジシャン協会のメンバーになってしまった、というおまけまでついてしまった程だ。
もし、あなたがマジックに興味を持っていたり、マジックを特技としているならば、本書はとてもおいしい本だ。なにしろ、協力したのは世界的に名人と言われたマジシャンなのだ。事例に挙がったマジックには「ネタバラし」が付記されているのだ!少しでも心得がある人ならば、新しいレパートリーを増やすことが出来るかもしれない。それどころか、マジックに入る導入部分の演出法まで教えてくれる。そして、読み進めて行くうちに本書のテーマも理解してしまう。
実に面白い構成の本で、二度楽しめること請け合いの本です。こうしたテーマにマジックを持ってきたのは、素晴らしいアイデアだと思う。

 


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