挫折する力 -新藤兼人かく語りきー

2011-05-16 15:07:45 | 日記
中川洋吉著  新潮社刊

まずタイトルについて。「挫折する力」という表現が凄すぎる。「挫折感というのは、挫折した当人の生き方そのものを否定するような力で迫ってきます。……挫折を乗り越えるために挫折を分析して、そこから何らかの正しさを見つけ出すことを繰り返さなきゃ生きられない」(292ページ)。こう言い切れること自体が凄い。「挫折」とは「立ち直れる」ことを前提にはしていない言葉である。「挫折」と「力」は相互矛盾する言葉なのだが……。
読了して印象的だったのは、「律儀」というか「信念を曲げない人」ということだつた。「信念」を「楷書で書いた人」という感じがした。3人目の妻だった乙羽信子に関しても、堂々と不倫関係が長かったことを認めるだけでなく、妻として、女優としても良きパートナーであったことを披瀝している。律儀と信念が奇しくも同居している稀有な人だと思った。
実は、私は映画に関心が薄い。映画は良く見たけれど監督やシナリオライターの名など気にもしない類の人間である。にも拘らず購読したのは、友人の一人が新藤兼人の助監督をしていたことによる。多分、近代映画協会時代の頃だったと思う。行きつけの呑み屋に何ヶ月もおいて現われて、しばらく顔を見せているかと思うと、また何ヶ月も来なくなり、いつも「金がない」と言っていた。その縁で読んだ。
新藤兼人フィルモグラフィを見ていたら、彼の名前が監督としてリストにはいっていた。良かった。

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