イスラームから見た「世界史」

2011-11-10 08:43:07 | 日記
タミム・アンサーリー著  紀伊國屋書店刊

まず断っておきたいのは、本書は歴史書でも宗教関係の本ではないということ。事実著者はアメリカ・サンフランシスコ在住の、アフガニスタン出身の作家である。もうひとつは、これは「世界史」をタイトルとしているが、アッラーから啓示を受けた預言者ムハマンドに始まり現代に至るイスラームの歴史「物語(著者が言う所の)」であることだ。だから、もっと詳しく知りたい向きの人は専門書を読んで欲しい(と、著者も言っている)。
これほど分かり易いイスラームの通史は、読んだことがない。多少イスラームに造詣のある人には喰い足りない所もあるだろうが、イスラーム教に疎い日本人にとってはわかり易い本だ。イスラームの初期から、今の中東諸国、さらにパキスタン・アフガニスタン・パレスチナを巡る様々な問題や、シーア派・スンナ派・ユダヤ教の相克が、実は今も進行中の大きな流れの中での問題であることが良く分かる。そして、おそらく決着がつくにはあと一世紀はかかるかもしれないことも……。日頃キリスト教中心の「世界史」を読み慣れている我々には新鮮な「世界史」だと思う。
ここで少々脱線すると、『仏教から見た「世界史」』というテーマは成り立つのだろうか。イスラーム諸国は発足した当時すでに「世界」の中心だった。そしてヨーロッパは遅れた地域だった。近世に到ってヨーロッパが「世界の中心」となり、イスラーム諸国は後進国となってしまう。しかし、ここが大事なのだが、イスラーム諸国は戦争や貿易・交流を通して絶えずヨーロッパと関係を持ち続けていた。
一方仏教は、中東への進出を阻まれ、発祥の国インドもイスラームに侵食され、北はロシアというキリスト教に押さえられ、結局東南アジア、中国、朝鮮、日本という一部地域に偏在せざるを得ず、「世界」と関係を持ったのは近代に入ってからだった。おそらく、仏教から見た世界史は書けなかったのだろう。
「世界史」はひとつではない! という意味で十分楽しんで読める本。但し、本文660頁の本。読むには根気がいります。おまけに読み飛ばすことができない。ぜひ読んでください。
もう少し書きたいことがあるようなので、また後日に。