おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

アメリカン・スナイパー

2019-01-13 10:09:00 | 映画
「アメリカン・スナイパー」 2014年 アメリカ


監督 クリント・イーストウッド
出演 ブラッドリー・クーパー シエナ・ミラー
   ルーク・グライムス ジェイク・マクドーマン
   ケヴィン・レイス コリー・ハードリクト
   ナヴィド・ネガーバン キーア・オドネル
   サミー・シーク ティム・グリフィン

ストーリー
クリス・カイルはテキサス州に生まれ、厳格な父親から狩猟を教えられながら育った。
やがて時は経ち、ロデオに明け暮れていたカイルは、アメリカ大使館爆破事件をきっかけに海軍へ志願する。
30歳という年齢ながら厳しい訓練を突破して特殊部隊シールズに配属され、私生活でも恋人タヤと共に幸せな生活を送るクリスであったが、間もなく2001年のアメリカ同時多発テロ事件を契機に戦争が始まり、カイルもタヤとの結婚式の場で戦地への派遣命令が下るのだった。
イラク戦争で狙撃兵として類まれな才能を開花させたカイルは、多くの戦果から軍内で「レジェンド」と称賛されると共に、敵からは「悪魔」と呼ばれ懸賞金をかけられていた。
テロ組織を率いるザルカーウィーを捜索する作戦へと参加したカイルは1000m級の狙撃を得意とする元オリンピック射撃選手の敵スナイパー「ムスタファ」と遭遇し、以後何度も死闘を繰り広げる。
繰り返される凄惨な戦いのなかで親友のビグルスは戦傷により視力を失い、戦争に疑問を感じ始めたマーク・リーは戦死し、強い兄にあこがれて海兵隊に入隊した弟はイラク派兵で心に深い傷を負って除隊した。
同僚や弟が戦場で傷付き、倒れゆく様を目の当たりにし、徐々にカイルの心はPTSDに蝕ばまれていった。
戦地から帰国するたびに変わっていく夫の姿に苦しみ、人間らしさを取り戻してほしいと嘆願するタヤの願いもむなしく、戦地から帰国するたびにカイルと家族との溝は広がっていく。
4度目の派遣でサドルシティに赴いたカイルたちは敵の制圧地帯に展開し、ついに防護壁の工兵を射殺したムスタファの姿を捉える。

寸評
クリスは1998年にケニアのアメリカ大使館爆破事件をテレビで見て愛国心から海軍に志願する。
米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊したクリスは2001年の同時多発テロを再びテレビで目にし、祖国の人々を守るために貢献したいとの思いを強くする。
クリスは父親から「お前は羊たちを略奪者たる狼から守るシープドッグたれ」と教えられて生きてきた男だ。
その教えに従って、命をかけて進撃する海兵隊員を必死で守る。
クリスのよりどころは「弱き国民を敵のオオカミから守らねばならない」というものだ。
しかし弱い国民は米国にだけいるわけではない。
自国にいる家族を守っているのは米兵だけではない。
敵国にもそのような人々が居るのだ。
スコープに写る少年は武器を担ぎ上げることが出来ない。
敵のスナイパーの後ろで一瞬写ったのはか弱い女性で母親らしく、敵スナイパーも彼らを守っている。
自分は少年ですら迷いもなく殺してきたが、ある時スコープの中の少年にためらいを見せる。
自分は弱い羊を守るために狼を殺してきた番犬だったが、自分が戦っていたのは狼ではなく、もしかしたら…と思い出したのかもしれない。
最後には戦闘中に妻のタヤへ「帰りたい」と電話してしまう。
僕は見ていて「ハート・ロッカー」を思い出していたが、クリスは全く違う存在だった。
彼の苦悩は退役後に番犬を殴り倒そうとした所に凝縮されていた。

地上戦は凄惨だ。
敵が何処に潜んでいるのか、誰が敵兵なのか、弾がいつどこから飛んでくるのか分からない緊張感を産み出す。
敵のスナイパーとの一騎打ちのような娯楽性もちゃんと加味しているところがスゴイ。
彼らは砂嵐を利用して逃げるが、イラク戦争に端を発したアメリカの中東戦争は視界のない戦いだったのだ。
その視界を遮られた世界から抜け出したい願望のようにも見えた。

スーパーヒーロー、レジェンドと讃えられるクリスは、まさに幻想のアメリカそのものである。
アメリカという国が建国以来繰り広げてきたプロパガンダでもある。
しかしこの作品はそのような様相を見せながら無残にも崩壊してゆく。
退役後に対話するPTSDに苦しむ帰還兵であり、究極にはクリスを射殺する元海兵隊員の出現だ。
しかもそれは製作中に起きた現実の事件なのだ。
関係者には悲しい出来事だったが、付け加えられたラストシーンはこの映画をより完璧なものにしていた。
準備期間中に事件が起きたという偶然、その犯人に「仮釈放なしの終身刑」判決が日本での上映期間中に降りたという偶然。
映画の公開時にイスラム国というテロ集団掃討のために地上戦に入るらしいという報道が流れた。
時代背景を考えると何とタイムリーな作品なことか。
音楽担当さえしてきたイーストウッドが、あえて音を封印し無言のエンドクレジットを流した。
この沈黙の中に、今も戦争の呪縛から逃れられないアメリカの苦悩が見て取れる。


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