「イン・ザ・ハイツ」 2020年 アメリカ
監督 ジョン・M・チュウ
出演 アンソニー・ラモス コーリー・ホーキンズ
レスリー・グレイス メリッサ・バレラ
オルガ・メレディス ダフネ・ルービン=ベガ
ジミー・スミッツ
ストーリー
眩しいほどきれいな南の島で、ウスナビは四人の子供たちの前で昔の話を始める。
舞台はニューヨークのワシントンハイツで、ウスナビはここでコンビニを経営していた。
彼の店には、宝くじを買いに来た街の母と呼ばれるアブエラをはじめ馴染みの客が次々とやってくる。
そんな中、ウスナビと一緒に働いている従兄弟のソニーが遅刻してやってきた。
続いて入ってきたのは常連客のダニエラの店で働くヴァネッサ。
実はウスナビはヴァネッサに恋心を抱いていたが、勇気が出ずなかなか彼女を誘うことができずにいた。
同じくウスナビの店の常連客であるベニーはニーナに思いを寄せていた。
幼少のころから優秀だったニーナは皆の期待を一身に受け常に期待されていた。
しかし彼女は地区初の入学となったスタンフォード大学を退学しようとしていることを、誰にも言えずにいた。
ヴァネッサは美容室で働いているが、彼女は街を出てデザイナーとして成功したいという夢を持っていた。
ある日、ソニーの元に一本の電話があった。
昨日販売した宝くじの中に96,000ドルの当選が出たというのだ。
もし自分に当たったらなどと話しながら現実味のない話にため息をつくが、彼らにも夢があり、それに向かい日々努力をしていたのだ。
ついにウスナビはヴァネッサをデートに誘うことに成功し、二人でクラブに向かうことになったが、自分に自信がないウスナビはダンスの誘いに来た男にヴァネッサを取られてしまう。
そんなウスナビにヴァネッサは少し不満げな表情を浮かべる。
そんな中、突然停電が起きたので現場はパニックになり、ウスナビとヴァネッサは離れ離れになってしまった。
そのまま帰宅したウスナビは、街の母と言われる老婆のアブエラをベッドに寝かしたのだが・・・。
寸評
アメリカ社会における移民への差別と共に、彼らの夢と悲哀を描いたミュージカルだが、ラップ調の音楽が圧倒的なパワーを生み出している。
歌とダンスのオンパレードで肝心の物語は散漫となってしまっているは残念だ。
祖国に帰りたい青年のウスナビ、スキルアップで上を目指したい青年ソニー、大学を退学してしまった秀才のニーナ、デザイナーを目指す女性のヴァネッサなど、若者たちそれぞれの夢を描いているが、中心はウスナビとヴァネッサのラブストーリーで、そこにベニーとニーナのラブストーリーが絡む展開である。
ウスナビは母国ドミニカに帰りたい気持ちがあることも影響しているのか、ヴァネッサに対して気持ちの表現がうまくできない優柔不断さ見せ、ヴァネッサの気持ちを上手く受け止めることが出来ない。
本当に好きな女性に素直になれない態度は、若者としてありがちなことで分らぬでもない。
しかし若者のじれったい関係は、音楽に乗せて歌い上げる出演者の歌唱力と彼らのパフォーマンスでかき消されてしまっている。
物語の変化は乏しいのだが、その分、歌とダンスは迫力十分である。
特に群舞となったシーンには圧倒される。
ニューヨークの路地で展開されるシーンでは、いったい何人のダンサーがいたのだろうと思わせる。
プールでの歌とダンスは、オリンピック種目のアーティスティックスイミングも真っ青である。
日本では○○ハイツと名のついたアパートを目にすることがあり、僕は集合住宅に暮らす人々の物語かと思っていたら、ワシントンハイツとは移民たちが暮らす地域の名前だった。
そこにはドミニカ、プエルトリコ、メキシコ、キューバなどからやってきた移民たちが暮している。
それぞれの母国の国旗を掲げて唄い踊るシーンも祖国愛が感じとれて楽しいものがある。
彼らの中には不法移民もいるし、ニーナのように差別を受ける者もいる。
物が失くなった時に無実のニーナが疑いをかけられるのは、日本における保護観察処分の少年が疑いをかけられるのと同じ状況だと思うが、事実が分かった時になぜニーナが謝らねばならなかったのか理解できなかった。
若者たちは子供の頃に両親に連れられてやってきた移民だ。
ウスナビの名前の由来が、父親が見た軍艦に書いてあった海軍の文字 ”US NAVY” によるというのが笑わせるが、アメリカに同化しようとする父親の気持ちの表れと思うと切ないものがある。
若者の心の支えであり母親代わりと思われるのが老人のアブエラである。
彼女は小さなことでもいいから誇りを持つ気持ちが大切だと語る。
彼女自身が歌っていたのかどうか知らないが、アブエラが歌うシーンは感動させるものがある。
彼女が感じさせる人生の重みだろうか。
ウスナビがコンビニの後始末をして母国に帰ろうとした時、ヴァネッサは彼女の世界を見てみたいと言っていたウスナビにそれを見せるのだが、その場所は後始末をしたはずのコンビニである。
それはヴァネッサの「行かないで」というメッセージだ。
分かっている結末だと思うが、イマイチ盛り上がりに欠けている。
おそらく歌とダンスに疲れて、映画の後半がバテてしまっていた為だろう。
しかし今迄と一線を画した新しいスタイルのミュージカル映画を発見したと言う気持ちだけは残った。