おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

愛について、ある土曜日の面会室

2024-09-02 11:56:38 | 映画
「愛について、ある土曜日の面会室」 2009年 フランス 

                  
監督 レア・フェネール                  
出演 ファリダ・ラウアジ デルフィーヌ・シュイヨー           
   レダ・カテブ ディナーラ・ドルカーロワ
   マルク・バルベ ポーリン・エチエンヌ
   ヴァンサン・ロティエ ジュリアン・ルーカス

ストーリー
サッカーに夢中な少女ロール。
ある日、恋人のアレクサンドルが逮捕されてしまう。
未成年の面会には大人の同席が必要と知り、偶然知り合った病院スタッフの青年に付き添いを願い出る。
仕事も恋人との関係もうまくいっていないステファン。
見知らぬ男性から彼と瓜二つの受刑者と入れ替わるという奇妙な依頼をされ、多額の報酬に目がくらんでこの提案を受けてしまう。
アルジェリアに住むゾラのもとに、フランスで暮らす息子が殺されたという知らせが届く。
その死の真相を知ろうとフランスへ渡ったゾラは、捕まった犯人の姉に接触を図り、交流を深めていく。
ある土曜日の朝、それぞれの事情を抱えた3人が、刑務所の面会室へと向かうが…。


寸評
3組それぞれの愛のあり方について同時進行的に描かれて、ある土曜日の刑務所の面会室に向かってその形が昇華していく。
前半の切り出し部分ではじっくりとその背景とそれぞれの精神構造が必要以上とも言えるぐらいじっくりと描かれる。
早急なカットを積み重ねて迫力を生み出すアクション映画を見なれた観客では、この前半部分で眠りに入ってしまうのではないかと思うぐらい、登場人物の内面を静かに静かに描いていく。
そしてエンディングに近づけば近づくほど、それまでためていた鬱積したものが一気に吐き出てくるような迫力を出してきた。
母、少女、青年と世代の違ったそれぞれの愛について繊細に描き出しているのだが、これが28歳になる女性監督のデビュー作と聞いて驚く。
母、青年の感情は未体験のはずなのに、この繊細な感覚はどこから来たのだろうと思ってしまう。
16歳の普通のサッカー好き女子高校生ロールは、たまたまバスで乗り合わせたロシアからの越境青年と盛り上がる。
初恋とはそうしたことで生まれるものなのだろうが、またそれが消えうせてしまうのもまた初恋と言うものだ。
それをこの監督は残酷とも、現実的ともいえる形で描き切るすごさを見せる。
母親であるゾラは息子の死の真相を探るために、偶然を装い加害者の姉セリーヌと接触し交流を深めてゆく。
セリーヌが母親ゾラの接触の真意を知るくだりから、息子に無償の愛を注ぐことが本能的な母親が、把握していたはずの息子の人生の真実に呆然とする姿を静かに静かに描く。
受刑者の言葉だけでその姿を導き出した演出は、その衝撃の残酷さをより一層際立たせていた。
静かな結末の中で、唯一動的にその結末を迎えるステファンのためらいと決断が、唯一動的なだけに衝撃を与え、「上手い!」と思わせる。
唯一のサスペンス的要素の盛り上がりをここまで温存していたのだと思わせた。
不器用なステファンは仕事も恋人との関係もぎくしゃくしている。
母親からも金を借りていて上手くいっていない。
大金をせしめてそれらを精算しようとするが、愛する女の為に自らの自由を捨てねばならない。
これが最後と前夜に交わす女との愛の抱擁が切々たるものとして映し出される。
どう見ても冴えない男をレダ・カテブが演じているのだが実に適役で、しかも恋人であるエルザを演じているディナーラ・ドルカーロワも美形でない(?)ので、冴えないカップルの愛の確認として実にリアリティがあって胸を打った。
日本での面会場面は金網越しの面会となるが、このような間仕切りの中で面会できるシステムを何かの映画でも見た記憶があるのだが、この面会システムが最後の盛り上がりを見せる。
それぞれが、それぞれのブースで見せる結末のために、それまでを積み上げてきた演出力は非凡だ。
いや、結末を見せたのではなく、はたしてこの後の展開はどうなるのだろうと、その後の結末を我々にゆだねた手腕こそ特筆ものだった。