おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

エンドロールのつづき

2024-09-07 09:16:20 | 映画
「エンドロールのつづき」 2021年  インド / フランス


監督 パン・ナリン
出演 バヴィン・ラバリ リチャー・ミーナー
   バヴェーシュ・シュリマリ ディペン・ラヴァル

ストーリー
インド、グジャラート州の田舎町チャララ村で9歳の少年サマイは両親と妹と4人で暮らし、学校に通いながら父が営むチャイ店を手伝っていた。
ある日突然、父が家族で街の小さな映画館ギャラクシー座に行こうと言い出した。
厳格なバラモン階級の父は映画を低俗なものとみなしていたが、深く信仰しているカーリー女神の映画は別だとして特別に許可したのだ。
映画館は人で溢れかえりやっとの思いでチケットを買い席に着くと、サマイの目に飛び込んできたのは後方からスクリーンへと伸びる光の帯で、サマイは初めて見る世界に大興奮。
サマイは次の日になっても興奮が冷めず、学校を抜け出してギャラクシー座に忍び込んだのだが、係員に見つかりつまみ出されてしまった。
映写技師のファザルは、サマイの母が作ってくれたお弁当と引き換えに、映写室から映画を見せてくれた。
こうして毎日映写室に通うようになったサマイは映写窓から見る色とりどりの映画の世界に没頭し、ますます映画に惹きこまれていく。
ふたりの間には不思議な友情が芽生えていき、サマイはいつか映画を作りたいという大きな夢を抱きはじめた。
ところが、サマイが学校をサボってギャラクシー座に通っていることが父にバレてしまった。
サマイにバラモンとして真面目に生きてほしいと願う父は、厳しく叱りギャラクシー座へ行くことを禁止した。
サマイの映画への情熱は冷めることはなく、仲間たちと鏡と電球などを使って光を捕まえることに成功した。
サマイたちは駅の倉庫に保管されている映画のフィルムを盗み出し、オバケ村へと運び出した。
次なるチャレンジとして、扇風機の羽や自転車などのガラクタから映写機を自作してみたが失敗に終わった。


寸評
映写技師と少年の交流はインド版の「ニュー・シネマ・パラダイス」だ。
少年が映画の虜になっていくのだが、少年の映画愛と共に感じさせるのが監督パン・ナリンの先人映画監督への尊敬の思いだ。
最初に「先人に感謝を」と表示され、リュミエール、マイブリッジ、D・リーン、キューブリック、タルコフスキーの名前がクレジットされる。
そしてラストシーンだ。
処分された映画フィルムから再生されたカラフルな腕輪に音声がかぶさっていく。
読み上げられる名前は、スタンリー・キューブリック、アントニオーニ、チャーリー・チャップリン、デビッド・リーン、マヤ・デレン、ゴダール、フランシス・F・コッポラ、アンドレイ・タルコフスキー、キン・フー、ヒッチコック、勅使河原宏、ベルイマン、フェリーニ、スコセッシ、チャン・イーモウ、デ・シーカ、小津、スピルバーグ、スパイク・リー、エイゼンシュテイン、ジェーン・カンピオン、クリス・マルケル、ヒティロバ、タランティーノ、黒澤明、ウェルトミュラー、ビグロー、ホドロフスキー、メリエスなどの映画監督で、僕の知らない前衛監督なども含まれているが、ほとんどを知っている著名な映画人だ。
僕としてはトリュフォーや溝口健二も入れておいて欲しかった。

バラモン階級はインドのカースト制度の頂点に位置する階級の筈だが、バラモン階級の父を見ると階級と貧富は比例するものではなさそうだ。
格差やカースト制度を批判する場面があるかと思ったが出てこなかった。
面白いのはサマイが手作りで映写機を完成させるエピソードだ。
先ず映画が光によって映されていることを知り、鏡と電球、ダンボールを使って光を捕まえることに成功する。
自転車の車輪などのガラクタからフィルムを巻き取る装置をつくり映写機らしきものを完成させるが失敗に終わる。
映写機にはシャッターがあり開閉によってフィルムが動く仕組みになっている事を知り、扇風機の羽やミシンを使ってついに映写機を完成させる。
上映した映画は音声がないので、自分たちが効果音やセリフを入れて物語を完成させる。
映画を作りたかったサマイは幼くして映画を作ったことになる。
母親も応援していたようで、その姿を見て父親はサマイを送り出すことを決断する。
ありきたりな展開だが、別れの場面はやはり感動する。
母親はサマイの理解者であり、作る料理が美味そうで、弁当作りは料理番組を見ているような楽しさがある。

さてラストの腕輪のシーンだ。
サマイが乗り込んだのは女性専用車で、着飾った女性たちがカラフルな腕輪をしている。
それらはフィルムを再加工して出来たものなのだが、そこに前述の監督たちの名前がかぶさる。
僕には、フィルムは消えてなくなってしまったが、彼らが作った名作の思い出は人々の心の中に残っていると言っているように思えた。
フィルム映像がデジタル映像に変わっていくことも描かれているが、フィルムの良さはなくなっていないと思う。
アナログのレコードが見直されたように、再びフィルムが見直される時代が来るかもしれない。


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