おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

サウルの息子

2019-06-20 08:41:15 | 映画
「サウルの息子」 2015年 ハンガリー


監督 ネメシュ・ラースロー
出演 ルーリグ・ゲーザ
   モルナール・レヴェンテ
   ユルス・レチン
   トッド・シャルモン
   ジョーテール・シャーンドル

ストーリー
1944年10月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所。
ハンガリー系のユダヤ人、サウル(ルーリグ・ゲーザ)は、同胞であるユダヤ人の屍体処理に従事する特殊部隊・ゾンダーコマンドとして働いている。
ある日、ガス室でまだ息のある少年を発見する。
結局亡くなってしまったその少年を、サウルは自分の息子と思い込む。
その少年はすぐさま殺されてしまうが、サウルはラビ(=ユダヤ教の聖職者)を捜し出し、ユダヤ教の教義に則って手厚く埋葬してやろうと収容所内を奔走する。
そんな中、ゾンダーコマンドの間では、収容所脱走計画が秘密裏に進んでいた…。


寸評
これはすさまじい映画である。
数あるナチスのホロコースト映画やアウシュビッツを舞台としたユダヤ人虐殺映画と一線を画している。
主人公が強制収容所に入れられたユダヤ人でありながら、ナチスに命じられて、同胞であるユダヤ人たちをガス室へ送り込み、死体処理も行う特殊部隊ゾンダーコマンドだというところが斬新であるとともに、その描写はドキュメンタリー以上の非道を描き出している。
収容所に送り込まれたユダヤ人たちは無残に処刑されたり、強制労働を強いられているのだが、それらを監督実行しているのが同胞であるユダヤ人たちだ。
ゾンダー・コマンダーである彼等も命は欲しい。
自分の命を守るためには同胞の命を犠牲にしなければならないというひどい状況下にある。
収容所内は常に処刑が行われていて、その始末と実行で混乱している。
カメラはその様子を手持ちカメラで生々しく写し撮る。
出来事は色々起きるが物語の進展に直接的な影響を及ぼすものではない。
ただただ延々と無慈悲な混乱が描かれ続けていく。
その中で主人公は、息子と思い込んだ少年をユダヤ教では許されない火葬から本来の教義である埋葬にするために奔走する。
しかもその奔走は処刑と過酷な強制労働の合間を縫って必死の形相で行われる。
そのために、必要以上なまでの収容所の卑劣な状況が描き続けられる。
サウルは自らの行っている行為がどんなに非人間的なものであるかを感じている。
おそらく少年の埋葬は、思わず出てしまった自分が人間でありたいと願う本能の行為だったのだろう。
祈りならやってやると言う仲間の声には耳を貸さず、正式な聖職者であるラビを探し続ける。
少年の遺体を隠し、聖職者を探し続ける必死な姿をカメラは追い続ける。
自らの命を危険にさらしながらも苦闘するサウルの姿を描き続けた映画は最後になってやっと大きく動く。
ゾンダーコマンド達が脱走を企て、サウルも少年の遺体と共に脱出する。
追手が迫る中で何とか埋葬を試みるが成功しない。
落胆しレジスタンスに合流しようとするサウルの前に、亡くなった少年と年恰好が同じような少年が現れる。
サウルの微笑みは自身が救われた思いに至った為だったのかもしれない。
サウルたちは結局射殺されたようで、全くもって救いようのない映画なのだが、最後にその少年が森の中に逃げ込む姿を捉えて映画は終わり、せめてもの救いとしている。
あの少年が生き延びたかどうかは不明で、一点の光明がわずかにそのことだとする辛い映画ではあった。
サウルは人間らしさを最後まで維持しようとしたが、人から人間らしさを奪ってしまうのも戦争のなせる業で、説教臭さはないものの、やはり戦争はいやだと思わせるに十分な内容の作品だ。


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