おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

情婦

2021-03-29 08:07:14 | 映画
「情婦」 1957年 アメリカ


監督 ビリー・ワイルダー
出演 タイロン・パワー
   マレーネ・ディートリッヒ
   チャールズ・ロートン
   エルザ・ランチェスター
   トリン・サッチャー
   ジョン・ウィリアムズ

ストーリー
病癒えたロンドン法曹界の長老ウィルフリッド卿は、看護婦に付き添われて事務所に帰る。
が、酒、煙草、そして得意の刑事事件もダメだといわれ、大いにクサっていた。
そこへ弁護士仲間が依頼人を伴って現われ、話を聞くうちに卿は俄然興味がわいてきた。
ヴォールという依頼人は、知り合いの富裕な未亡人が殺されたことから嫌疑が自分にかかっていることを説明し、自分の潔白は妻クリスチーネが保証すると述べて卿に弁護を頼んだ。
だが円満な夫婦の間の証言など、法廷で取り上げられるわけがない。
他にヴォールの無実を証す証人がないとすれば、殺す動機のない点を主張しなければならない。
その点についてヴォールは、自分の発明品に少し投資してもらいたいと思っていたのだと述べる。
ところが、新聞で未亡人の全財産がヴォールに遺されていたことが判り、ヴォールの立場は不利になる。
やがて事務所にスコットランド・ヤードの車が停まり、ヴォールは逮捕される。
その後ヴォールの妻クリスチーネが来訪しヴォールのアリバイを証言するが、その言葉はなぜか曖昧だった。
この2人は、ヴォールが戦時中ドイツに進駐していた頃、彼女を助けことから結ばれた仲である。
ウィルフリッド卿は看護婦や周囲の心配をよそに、弁護に立つことになった。
検事の証人喚問、ウィルフリッドの反対訊問など、事態は黒白いずれとも定めかねる展開になる。
その時検事側証人として、クリスチーネが出廷。
自分には前夫があり、ヴォールとの結婚は正式のものではないと証言、しかも未亡人殺しを告白したという、驚くべき証言をする。


寸評
実に面白い法廷劇であるが、ワイルダーらしいユーモアを随所に盛り込んだ極上のエンタメ作品となっている。
特に付き添い看護婦のミス・プリムソルとウィルフリッドのやり取りは愉快で、絶妙な息抜きとなっている。
葉巻やウィスキーの話も本筋に関係ないが随分と楽しめる。
ウィルフリッド役のチャールズ・ロートンがイギリスの弁護士は多分たぶんこんなだろうと思わせる頑固おやじ的な弁護士を好演していて重厚な裁判劇を支えている。
検事側の証人に対して新事実を加えながら反論を加えていく様は中々堂に入っている。
未亡人宅の家政婦ジャネットが被告人のヴォールを嫌っているので彼に不利な証言をするのかと思っていたら、実はその他にも原因があったなどは裁判劇として楽しめる。

観客はタイロン・パワーのヴォールが殺人など侵していないと思っているので、どのようにして無実が証明されるのかと固唾をのんで見守ることになる。
逆に疑問を持って見守るのがマレーネ・ディートリヒが演じるヴォールの妻であるクリスチーネだ。
もともと退廃的な雰囲気を持っている女優さんなので、登場シーンから怪しげである。
彼女の態度は夫を信じていないような不審なもので、しかも母国ドイツに正式な夫がおり、ヴォールとは正式な夫婦ではないと言うのだから、怪しい存在と感じるのは当然だ。
彼女のどこか冷めたようなルックスが効果的である。
マレーネ・ディートリヒは1970年の大阪万博にやってきてコンサートを開いたので歌手としての記憶も残っているのだが、彼女の歌う「リリー・マルレーン」はよかった。
一方で「100万ドルの脚線美」と称えられていたから、本作でもその脚線美を見せるシーンが用意されている。

映画的にも当然なのだが、裁判は終盤になって大きく動く。
ある女性が重要な証拠品をウィルフリッドに渡すのだが、僕はこの場面で大きな疑問が残った。
彼女が証拠品を提供した理由は納得できたが、彼女はそれをどのようにして手に入れたのだろうという疑問だ。
その疑問は裁判が終わってから明らかにされるのだが、ラストのこのシーンは脚本にもう少し工夫が欲しかった。
ここをもっと上手く処理していたら大傑作の作品になっていただろう。
ウィルフリッドは長年の経験で判決に何かしっくりこないものを感じているのだが、それが一気に解き明かされる描き方があまりにも安直すぎると思う。
もちろんアッと驚く大ドンデン返しなのだが、ドンデン返しを描く方法がこれしかないのかという描き方に肩透かしをくった感じがしないでもない。
しかし、ドンデン返しに次ぐドンデン返しで、とても予想できる内容ではない。
それまでも軽妙な語り口によって随分と楽しませてもらった観客は、最後になって「ええ、そうなの!」と叫ばずにはいられない驚きを与えられるのである。
最後に、まだ見ていない観客の為に結末を話さないでほしいと言うナレーションが入るが、納得である。
アガサ・クリスティ原作の「XXXX殺人事件」などに比べると、謎解きの面白さも勝っている。
軽妙なラストシーンが上質のエンタテインメント作品であったことを知らせてくれている。
ビリー・ワイルダーらしいと感じるラストシーンだ。


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