おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

衝動殺人 息子よ

2021-03-28 10:16:06 | 映画
「衝動殺人 息子よ」 1979年 日本


監督 木下恵介
出演 若山富三郎 高峰秀子 田中健 大竹しのぶ
   近藤正臣 尾藤イサオ 藤田まこと 加藤剛
   高岡健二 吉永小百合 田村高廣 中村玉緒

ストーリー
京浜工業地帯の一角で鉄工所を経営している川瀬周三は、昭和41年になって、めっきり身体のおとろえを覚え、工場の実務を26歳になる一人息子の武志に譲った。
そして、秋には、妻・雪枝の郷里から田切杏子を迎え、結婚式をひかえていた。
昭和41年5月、武志は、友人吉川と近くの釣り堀に出かけた帰り道、ある若者に、すれ違った瞬間に腹部を刃物で刺され、周三の腕の中で息たえた。
犯人は事件から三日後に自首してきたが、ヤクザに「お前には蠅の一匹も殺せないだろう」と言われ、カッとなって、“誰でもいい、最初に行きちがった奴を殺そうと思っていた”と話す。
武志の葬儀を境に、周三の生活は一変し、工場を放り出し、墓地通いが続く。
昭和42年2月、事件から十ヵ月近くして判決が下った。
被告が未成年であり前途あることから、5年から10年の不定期刑で、軽すぎる刑に周三は怒った。
周三は法律相談の窓口を訪ねるが、こうした故なき災害に対する被害者遺族の補償は全く無いに等しかった。
周三は法律の勉強を始め、そして、事件発生以来熱心な取材にあたっている新聞記者、松崎から紹介された娘を殺された中沢や、全国の同様の境遇の人たちと被害者遺族を保護する法律を作ってもらうよう国会に働きかけることを誓う。


寸評
映画的に優れているとは思わないが、非常に重いテーマの作品で若山富三郎と高峰秀子の好演が光る。
通り魔殺人等の犯罪被害者の救済運動にかかわった人の話だが、被害者の無念さがひしひしと伝わってきた。
「こんなことは自分の子供を最後に…」との被害者遺族の会見を時々目にするが、子供を通り魔殺人で亡くした親の無念さは想像に難くない。
そして精神異常者で判断能力がなかったから無罪であるとか、加害者の人権に配慮しなどという、およそ残された家族には承服できないようなことが議論される。
法律によって守られているのは一体誰なのだと、殺された被害者の無念は一体誰が晴らすのかと、僕は通り魔殺人のニュースを見るたびに憤りを覚える。
現在では犯罪被害者給付金制度が施行されていているが、本作の公開時では法案が国会に上程さえされていなかった。
この映画が世論を動かし、犯罪被害者給付金制度の成立に貢献したとも言われているが、この制度は昭和49年8月30日に発生した三菱重工ビル爆破事件(死者8人、負傷者380人)などを契機としていることは確かだ。
このことは映画の中でも語られている。
事件が大企業で起きたこと、死者及び負傷者が多数いたことが議論を推し進めたのだろう。
逆に言えば一個人の力ではなかなか進展が難しかった案件でもあったのだろう。
主人公は会社を手放し、10年にわたって被害者を訪ね歩き被害者の会を組織していく。
それでも会長と個人の関係にとどまり横の連絡などの組織化にはなかなか成功しない。
全国を自費で飛び回り、被害者を訪ねる姿が胸を打つ。

主人公の川瀬周三は奥さんに恵まれている。
息子の葬儀の時には心労のあまり寝込んでしまっていて、葬儀は奥さんが仕切っている。
奥さんが「お父さんは泣きたいときに思いっきり泣けてよかった。私は泣きたいときにも泣けず・・・」と号泣する場面があるが、僕はこのシーンに号泣してしまった。
家族の無念さは甥の三郎(尾藤イサオ)が新聞記者の松崎(近藤正臣)に詰め寄るシーンに凝縮されている。
叔父は10年間苦しい思いをして運動を続けてきたが、犯人は10年以下の懲役刑だから今は刑務所から出てきて大手を振って生きているのだろう。
叔父、叔母の気持ちは、被害者の気持ちはどうなるのだと詰問する。
僕は、本当にそうなのだと再び憤りを覚える。

主人公川瀬周三と妻雪枝の活動を見ていると、拉致被害者家族の活動が重なってきた。
家族を突然失ったら、主人公の様な活動をせざるを得ないような気持にさせるのだろう。
理不尽な事件が多すぎるのだ。
命が軽んじられてきているのだ。
犯罪被害者給付金をもらっても亡くなった家族は帰ってくることはない。
藤田まことの言葉は切実なものがあったなあ。
「犯罪被害者等給付金支給法」は昭和55年5月1日に制定され、昭和56年1月1日から施行された。


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2 コメント

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若山の体技 (FUMIO SASHIDA)
2021-03-30 07:48:34
木下恵介映画としては、評価が低く、なぜ若山がこの運動に熱を持つのか、よくわかりません。
ただ、彼の体技はすごい。
新横浜駅の階段から落ちるところを一発でやって平気だったそうです。
柔道など、アクションでは勝新太郎をはるかに上回る彼の体技には、見ていたスタッフも驚嘆したそうです。
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もっと若山 (館長)
2021-03-31 08:07:36
若山の魅力を生かした作品がもっと撮られていても良かったと思います。
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