おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ショコラ

2021-03-30 07:17:43 | 映画
「ショコラ」 2000年 アメリカ


監督 ラッセ・ハルストレム
出演 ジュリエット・ビノシュ
   ヴィクトワール・ティヴィソル
   ジョニー・デップ
   アルフレッド・モリナ
   ヒュー・オコナー
   レナ・オリン

ストーリー
古くからの伝統が根付くフランスの小さな村。
レノ伯爵(アルフレッド・モリーナ)の猛威で因習に凝り固まったこの村に、ある日、不思議な女ヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘アヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)が越してきてチョコレート店を開く。
しかし今は断食の期間。
ミサにも参加しようとせず、私生児であるアヌークを連れたヴィアンヌの存在は、敬虔な信仰の体現者で村人にもそれを望む村長のレノ伯爵の反感を買ってしまう。
次々と村の掟を吹き飛ばす二人の美しい新参者に、訝しげな視線を注ぐ人々。
厳格なこの村に似つかわしくないチョコだったが、母ヴィアンヌの客の好みにあったチョコを見分ける魔法のような力で、村人たちはチョコの虜になってしまう。
チョコレートのおいしさに魅了された村人たちは、心を開き、それまで秘めていた情熱を目覚めさせていく。
そして、夫の暴力を恐れ店に逃げ込んだジョゼフィーヌ(レナ・オリン)がヴィアンヌ母娘の生活に加わってまもなく、河辺にジプシーの一団が停泊する。
ヴィアンヌは、そのリーダーであるルー(ジョニー・デップ)という美しい男性に心を奪われ、彼を店に招き入れる。
だがよそ者であるジプシーたちを快く思わない村人たちの、ヴィアンヌに対する風当たりは強くなった。
やがて老女アルマンド(ジュディ・デンチ)の誕生日パーティー中、ルーの船は放火され、ジプシーの一行は村を出ていく。
そして疲れて眠ったまま息を引き取ったアルマンドの葬式が続く中、ヴィアンヌは荷造りをして、次の土地に移るべく、嫌がる娘を引っ張って出ていこうとするのだった。

 
寸評
保守派VS進歩派というか、古い因習に縛られている人々を、迫害を受けながらもやがて人々封建的案を因習から解き放つという骨組みの映画はよくある。
でも、そこにファンタジーの要素を詰め込んだことで、とてもホノボノとした感じの映画になっている。
舞台はフランスの小さな村だが、冒頭のその村の俯瞰はその光景そのものが童話の世界の様で、ファンタジー作品の幕開けと言った感じだ。

古い因習を背負って立っているのがレノ伯爵だ。
親子が店を開いたのは断食の時期で、その時期にチョコレートのショップをオープンさせただけで反感を抱く。
彼は村長だが、教会の若い牧師に高圧的で、まるで宗教をも支配しているようでもある。
彼に対抗するのがチョコレート店をオープンしたヴィアンヌで、彼女は断食とは無縁だし教会にもいかない。
ヴィアンヌは特殊な能力を有していて、客の好みのチョコレートを当てることが出来る。
そしてそのチョコレートを食べた夫婦は、疎遠になっていたが再びラブラブになるし、同じく夫の暴力に悩んでいた妻は自立を決意したりするし、老人の恋も成就するようになる。
チョコレートは人生が良い方向に進み出す魔法の食べ物なのだ。
このあたりはファンタジーの世界なのだが、ヴィアンヌは超能力者のスーパーレディではない。
伯爵の冷酷な態度に怒ったヴィアンヌは、彼のところに怒鳴り込んで伯爵を非難しわめき散らす。
炎に包まれた娘を助けようと川に飛び込んで止められた時には、絶望のあまり錯乱する普通の母親なのである。
普通の母親としての姿を描くことで、単なる子供だましのファンタジー映画から脱却することに成功している。

娘のアヌークは寝物語として祖父の話を聞くのが好きだ。
祖父の妻、すなわちヴィアンヌの母は人々を助ける薬を売り歩くために旅を続ける宿命の女性で、少女であったヴィアンヌを連れて夫のもとを去った。
おそらくヴィアンヌも同様の行動を取ったのではないかと推測される。
その意味では彼女たちは神の系譜であり、神の象徴なのかもしれない。
しかしヴィアンヌは神というよりは、ちょっとした人々にチョコレートを通じて人生の「歓び」を分け与える特技を持っているだけなのである。
その経緯はジョゼフィーヌの夫からの自立を除いて何ともほほえましいものである。

役者はヴィアンヌのジュリエット・ビノシュと、糖尿病を患っている老女アルマンドを演じたジュディ・デンチが魅力的である。
店を引き継いだジョゼフィーヌが店に名前を「アルマンド」としたのも泣かせる。
ただラストはファンタジー映画の為か、チョコレート映画の為か、非常に甘いものとなっている。
ここまで徹底したハッピーエンドを描いたのは勿論作者の意図であろう。
しかし滅茶苦茶甘いなあ・・・。
もっとも、こういう作品を観ると何だかホッとした気持ちになれるのも映画の魔力だ。


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2 コメント

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「ショコラ」について (風早真希)
2023-07-29 16:15:10
この映画「ショコラ」は、ラッセ・ハルストレム監督が描いた、美しく夢のような不思議なおとぎ話の世界ですね。

悠々と広がるのどかな田園風景と小川のせせらぎに囲まれた丘の上にたたずむ小さな村。
カメラがその村に近づいていくと、"Once upon a time----"のナレーションが重なって来て、この夢のような、美しく不思議なおとぎ話の世界が幕を開けます。

「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」「ギルバート・グレイプ」の名匠、ラッセ・ハルストレム監督が奏でる心優しく、ハートウォーミングな素敵な映画「ショコラ」。

この物語の舞台は、フランスのある架空の村、ランクスネ。
この村に住む人々は、昔からの伝統と戒律を守り、穏やかで静かな日々の暮らしを送っています。

すると北風の吹く、とある日に真っ赤なコートに身を包んだ母娘がこの村へとやって来ます。
母のヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘のアヌーク(ブィクトワール・ティヴィソル)は、閉店したパン屋を借りて、そこにチョコレート・ショップを開店します。

チョコレートの効果を知り尽くしたヴィアンヌは、村のお客それぞれにぴったりと合ったチョコレートを勧めていき、昔からの厳しい戒律に縛られた村人たちは、最初はよそから来たこの母娘に警戒心を抱きますが、次第にヴィアンヌの作るチョコレートの虜になっていきます。

とにかく、この映画に出て来るチョコレートのおいしそうな事。
人間の快楽を解放してくれる力のメタファーとして出て来るチョコレートは、何とも言葉では言い表せないような"ファンタジックな説得力"を持っています。

村人の恋愛を取り持ったり、親子の仲を改善したり、暴力的な夫に虐げられていた女性を自立させたりと、ヴィアンヌの作るチョコレートは、まるで魔法の薬のような、夢のような効果を生み出します。

このように全てが、幸せの内に物事が運んでいき、村の人々にポジティヴな生きる勇気を与えていきます。

これらのシークェンスで、人間を見つめるラッセ・ハルストレム監督の優しいまなざしを感じて、我々、観る者の心を和ませ、豊かな気持ちにさせてくれます。

そして、この映画で描かれている"伝統と変化の衝突"は、実は大昔から人間の歴史を通じて繰り返されて来た、ある種の真実であり、リアリティに深く根差しています。
だから、このような相克に戸惑い、苦悩する村人たちの姿に共感出来るのだと思います。

登場する村人の一人一人の表情には、豊かな人間性が溢れ出ていて、我々の生活空間の中でも、とても身近な存在のように思えて来ます。

ラッセ・ハルストレム監督が描くこのようなコミュニティは、時代や国境をも越えたところで、人間同士の心の触れ合いの機微といったものを感じさせてくれます。

この「ショコラ」という映画で、ラッセ・ハルストレム監督が訴えたかったテーマというのは、多分、風のようにこの村にやって来た、この主役の母娘が、閉鎖的な村に吹き込んだ自由でおおらかな空気の恩恵を、彼女たち自身が被るところにあるような気がします。

人は何を排除するかではなく、何を受け入れるかが大切なんですよ----という"寛容で慈悲"の精神が、村をそして、村人たちを変えていきます。

当然、その結果として、チョコレートで人々に愛を分け与えてきた、この母娘は、村人たちに受け入れられ、彼女たち自身も優しい愛に包まれていきます。

そして、この映画での印象的で忘れられないのが、ジプシーのルー(ジョニー・デップ)が、チョコレート・ショップの壊れた戸を修理する場面です。

戸が修理された事で、いつも吹き込んでいた風がやみます。
それは、北風と共に旅を続けていた、この母娘の旅の終わりというものを象徴的に暗示しています。

遂に訪れた安住の地。やがて春が訪れ、この映画は静かに幕を下ろします。
この詩的な余韻を漂わせたラストには、本当に心が癒される思いがしました。

ヴィアンヌを演じたジュリエット・ビノシュ、ルーを演じたジョニー・デップ、二人共、肩の力が抜けた自然体の演技を示していて、この"美しく夢のような不思議なおとぎ話の世界"に、すんなりと溶け込んでいて、とても素晴らしかったと思います。

そして、何といってもチョコレートのスウィートで、カカオの効いたビターな"ラッセ・ハルストレム節"を存分に、楽しく味わえた至福の時を持てた事の喜び。

本当に映画って素晴らしいなとあらためて感じました。
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食べたくなる (館長)
2023-07-30 07:22:23
ホッとすると同時にチョコレートを食べたくなる映画でした。
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