おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

美しき諍い女(いさかいめ)

2023-08-24 07:14:51 | 映画
「美しき諍い女(いさかいめ)」 1991年 フランス


監督 ジャック・リヴェット
出演 ミシェル・ピッコリ ジェーン・バーキン エマニュエル・ベアール
   マリアンヌ・ドニクール ダヴィッド・バースタイン

ストーリー
画商ポルビュスは彼の旧友でかつての恋仇だったフレンフォーフェルの邸宅に新進画家ニコラとその恋人マリアンヌを招待した。
フレンフォーフェルは10年ほど前、妻のリズをモデルに描いた自らの最も野心的な未完の傑作「美しき諍い女」を中断して以来、絵を描いていなかった。
「美しき諍い女」とは17世紀に天外な人生を送った高級娼婦カトリーヌ・レスコーのことで、フレンフォーフェルは彼女のことを本で読み、彼女を描こうと試みたのであった。
ポルビュスの計らいでニコラとマリアンヌに出会ったフレンフォーフェルは、マリアンヌをモデルにその最高傑作を完成させる意欲を奮い起こした。
最初はモデルになることを嫌がったマリアンヌは、ニコラの薦めもあって5日間で完成させることを条件にしぶしぶ了承する。
だがフレンフォーフェルの要求は彼女の考える以上に苛酷なもので、肉体を過度に酷使する様々なポーズを要求され、さらには彼女の内面の感情そのものをさらけ出すことを求められる。
だが、フレンフォーフェルは描き続けるうちに自信をなくしはじめ、逆にマリアンヌが挑発して描かせるようにもなっていく。
画家とモデル、2人の緊張関係は妻のリズやニコラを含めた2組のカップル全体に微妙な緊張をもたらし、ニコラのもとにやって来た妹ジュリアンヌも加わりさらに拍車がかかる。
やがて長い闘いの果てにフレンフォーフェルはついに絵を完成させるが、誰の目にも触れさせないように壁の中に埋め込んでしまい、代わりの絵を一気に描き上げた。
真の「美しき諍い女」を見たのはフレンフォーフェル以外には、アトリエを覗いたリズだけであった。
次の日、代わりの「美しき諍い女」のお披露目が行われた。
緊張感も和らぎ、2組のカップルにポルビュス、ジュリアンヌも加わり祝いのワインが開けられた。
それぞれの思いを永遠に胸に秘めながら…… 。


寸評
この内容で4時間を引っ張るのがスゴイとしか言いようがない。
絵を描くとはこういうことなのかと知らしめてくれる。
特に前半はその世界を知らない僕に疑似体験を強いているような内容である。
延々とデッサンが続けられ、紙の上を走るペンの刻むようなガリガリという音や木炭を走らせるザッザッという音が繰り返される。
画家にとってモデルはかけがえのない存在なのだろう。
画家がモデルのポテンシャルを高めて内面を引き出そうとし、モデルが徐々にそれに同化していく過程を示すための時間として、延々と同じようなシーンが続く。
その間に何も起きないのだが、時間だけは過ぎていく。
退屈とも言えるこの時間を支えているのは、画家の前に立つマリアンヌを演じるエマニュエル・ベアールの美しいヌード姿である。
惜しげもなく裸身をさらす彼女の姿こそが芸術と言えそうだ。
画家とモデルの対決は「アマデウス」におけるモーツアルトとサリエリの如くである。
やがて支配者が画家からモデルへと逆転していく。
第一部の大半は、画家の狂気に近い絵画への思い入れによってマリアンヌが変貌していく過程が描かれているのだが、そのラストにおいてリードしていたはずの画家とそれに従っていたはずのモデルの到達地点が逆転してしまうのだ。

第二部に入り妻のリズが「彼があなたの顔を描きたいと言い始めたら、断わったほうがいい」とマリアンヌに忠告をする場面が出てくる。
マリアンヌはその忠告を拒否し、画家が妻をモデルにした未完の『美しき諍い女』のカンヴァスに描かれた妻の顔を塗り潰す場面へとつながっていくのだが、画家にとってモデルに適任と認めた女性の顔とは何であったのだろう。
画家は、マリアンヌをモデルにしながらも『美しき諍い女』のなかにずっとリズの幻影を観続けていたのだろう。
画家は完成した『美しき諍い女』を閉じ込めてしまうが、その前に秘かに絵を見ていたリズはサインをつけておく。
画家はそれを発見し、リズがその絵を見たことを知る。
リズは「すばらしい絵だったし、あなたのとった行動は正しかった」と告げる。
画家とリズの間にあった溝は絵の完成によって埋められたのだろう。
同時にマリアンヌは自己の内面にあった感情を取り戻し自らの道を歩むことが出来るようになったのだろう。
しかしそのことはニコラとの決別を意味していたのだと思う。
何が起きるでもなく、登場人物たちの内面を描き続けた4時間を飽きもせずに見続けた僕自身にも感心する。
ドラマを期待する者には拷問的な作品だ。


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