おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

美しき運命の傷痕

2023-08-25 07:27:31 | 映画
「美しき運命の傷痕」 2005年 フランス / イタリア / ベルギー / 日本


監督 ダニス・タノヴィッチ
出演 エマニュエル・ベアール カリン・ヴィアール マリー・ジラン
   キャロル・ブーケ ジャック・ペラン ジャック・ガンブラン
   ジャン・ロシュフォール ミキ・マノイロヴィッチ ギヨーム・カネ
   マリアム・ダボ ガエル・ボナ ドミニク・レイモン

ストーリー
夫の浮気に悩む長女ソフィ(エマニュエル・ベアール)。
身体の不自由な母の面倒をみて、孤独な日々を重ねる次女セリーヌ(カリン・ヴィアール)。
年の離れた大学教授フレデリックと不倫関係にある三女アンヌ(マリー・ジラン)。
彼女たちは、22年前に起きた悲劇によって父親を失った。
そしてその悲劇は、彼女たちの人生に強い影響を及ぼしていた。
ソフィは夫と愛人をホテルまで尾行して嫉妬に身もだえ、フレデリックから突然に別れを告げられたアンヌは、訪れた産婦人科で彼の急死を伝える新聞記事を読み、悲しみに震える。
ある朝、セリーヌは見ず知らずの男に通りで話しかけられるが、ふり切って家へと急ぐ。
22年前、教師をしていた父親と全裸の男子生徒が研究室で一緒にいるところを、母(キャロル・ブーケ)とセリーヌは目撃し、告発された父親は刑務所送りとなった。
出所して家へ戻って来た父を母は中に入れず、父は自殺したのだった。
そして、セリーヌに声をかけてきた男こそ、22年前にあの現場にいた男の子、セバスチャンだった。
その夜、家の向かいのカフェにセバスチャンの姿を見つけたセリーヌは、彼に話しかける。
彼は彼女に詩を詠む。
孤独だったセリーヌの心にかすかな変化が起こり、恋の兆しさえ感じ始める。
別の日、セバスチャンはセリーヌを訪ね、あの事件について告白をしようとする。
それは彼女たちにとって、思いもよらない真実だった。


寸評
タイトルバックから思わせぶりな映像が展開され、本編に入ると背景の赤茶色い映像が目を引く。
卵からかえったヒナが他の卵を巣の外に出そうとして自分が落ちてしまう。
可愛そうに思った男がヒナを巣に戻し立ち去ると、ヒナは他の卵を巣の外に押し出し、卵は落下して割れてしまうシーンが冒頭で描かれるのだが、それがこの映画を暗示しているのだと誰もが思うだろう。

三姉妹の物語ながら、三人が出会うことはラストまでないので、それぞれの独立した話となっているのだが、ベースには両親の離婚が横たわっている。
しかしそれが語られるのは最後の方なので、三姉妹が男に対していだく感情の出所が分かりにくく、僕はのめり込めないものがあった。

この映画は「愛」についての物語である。
長女ソフィは夫の浮気に悩んでいるのだが、浮気の夫を許すかどうか以前に、彼女が夫に対して愛情を抱いていたのか疑問がある。
夫の愛人ジュリーが「あなたは自分だけが大切なのよ」と言うが、ソフィも相手からだけ「愛」を求めている。
次女のセリーヌは老人ホームに入っている母親の面倒を見ているが、どうやら父親の事件で男性不振に陥っているようなのだが、同時に男性を求める気持ちもある複雑な女性だ。
訪ねてきたセバスチャンを避けながらも、やがて男女の関係を結ぼうと誘いをかける。
セリーヌのセバスチャンへの「愛」は独りよがりの一方的な「愛」である。
三女アンヌに至っては子供っぽい一方的に求めるだけの「愛」である。
親友の父であり師でもある男を愛し、結局親友も男も失ってしまう。

セバスチャンは重要なことを告白するが、許しを請う相手であるセリーヌには冷静なだけだ。
彼は「どうしてお母さんはお父さんを告発したの」などとセリーヌに問いかけるのだ。
セリーヌは「わからない、判断力がなかったのかもしれない」と答える。
僕は、母親はもともと父親を愛していなかったからだと思う。
妻は夫を嫌悪していて、関係を断ち切るきっかけを待っていたのではないかと思うのだ。
この映画で「愛」を感じさせる唯一の人物は、三姉妹の父親であるアントワーヌだ。
セバスチャンの告白から想像すると、父は事件に対して反論をしなかった。
公に自己弁護すればセバスチャンが傷つくことを憂慮したのだろう。
自己弁護すれば子供のセバスチャンに恥ずかしい告白を強要することをかばった優しさによる「愛」だ。
父の優しさは鳥のヒナを巣に戻す映像で映画冒頭に紹介されている。
アンヌは教授たちとの面接で王女メディアを語る。
僕は学生時代にパゾリーニ監督の「王女メディア」を見ていたので、彼女の語る王女メディア論は理解できた。
しかし、母の態度を王女メディアと同類に見ることなどできない。
後悔はないと言い切る母は、信仰もなく、愛する愛もない地獄の世界に居る。
その申し子が三姉妹なのだが、描き切れていたという満足感を感じられないフラストレーションが残る。


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