おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

女優

2022-09-04 07:51:36 | 映画
「女優」 1947年 日本


監督 衣笠貞之助
出演 山田五十鈴 土方与志 河野秋武 伊豆肇
   沼崎勲 志村喬 進藤英太郎 北沢彪
   薄田研二 三島雅夫 石黒達也 永田靖
   伊達信 千石規子 赤木蘭子

ストーリー
大久保博士、島村抱月等を盟主とする文芸協会は倉本源四郎の高等演劇場の二階に仮事務所を設けた。
その隣の楽屋が仮教室で、ここでは熱心な演劇研究所の生徒を前に大久保、抱月、福原等が生徒以上の熱をもって講義を進めていた。
その講義を一語も漏らすまいと聞いているのは異様なまでに熱心な女、小林正子であった。
同じ生徒の平井陽三の紹介で入ったのである。
正子は二度目の結婚にも失敗し、敢然、夫や家をふり切って出て来た女だった。
正子の存在はたちまち際立ったものになった。
ハムレットの試演の後、公演は“人形の家”と決り配役も済んだ。
正子は芸名を松井須磨子と改めノラを演じる事になった。
公演は絶賛を博し、須磨子の名は一躍拡大された。
今や新劇女優としての輝かしい第一歩を踏み出した彼女であり、その陰に抱月の熱烈な指導があった。
須磨子にとって抱月は更生の恩人、いやそれ以上のものになりつつあった。
何時の間にかお互いが尊敬し合い、引き合っていたのだ。
しかし抱月より先に平井陽三が須磨子を焦がれて結婚を申込んだ。
須磨子は考えてもみない事で、抱月に相談した。
曖昧な返事を与えて須磨子を帰した抱月は、そこでハッキリと自分が須磨子を愛してることを知った。
だが彼は養子で、彼の家庭、家風、何一つ彼の進歩的な考えに逆行しないものはない。
殊に妻伊都子に至ってはもはや我慢のならない存在であった。


寸評
僕は演劇にあまり興味もないし演劇の歴史に精通しているわけでもないが、島村抱月と松井須磨子の名前は知っている。
もちろん松井須磨子が島村抱月の後を追って自殺したことも知識として持っている。
それほど島村抱月と松井須磨子は芸能史において著名な人物だということだ。
この作品はその島村抱月と松井須磨子を描いた伝記映画である。
両名を見たことがない僕には、この作品で演じられた二人のイメージがそのまま島村抱月と松井須磨子のイメージとなっている。

小林正子が平井陽三の紹介で島村抱月等を盟主とする文芸協会に入ってくる。
田舎育ちのようだが気性は激しく、離婚していることを何とも思っていない当時としては珍しい女性である。
正子はイプセンの「人形の家」のノラ役をもらい成功し、正子は芸名を松井須磨子にする。
「人形の家」のノラは今までに夫のヘルメルから愛情を受けていると思っていたが、実は自分を人形のように可愛がっていただけであり、一人の人間として対等に見られていないことに気づき、ヘルメルの制止を振り切って家を出るという物語で、それは松井須磨子となった正子そのものだったのだ。
そのこともあって松井須磨子は絶賛されるのだが、そのような環境下では良く描かれるように実際にも他の劇団員のひがみや妬みを受けるものなのだろう。
どうやら松井須磨子もそのような憂き目にあっていたようだ。

松井須磨子を紹介した平井陽三が須磨子のことを想っていて結婚を申し込むが、須磨子の気持ちは抱月にあり、妻子ある抱月も須磨子に気持ちが傾いている。
由緒あるらしい島村家の養子である抱月に妻は理解を示さない。
抱月でなくてもあの妻のいる家がくつろげる場所とは思えない。
随分と悪女的に描かれたものだ。
もっと悪いのは振られた平井陽三で、彼は抱月が須磨子に宛てた手紙を盗み出し、それを抱月夫人に渡して、二人の仲を割こうと画策する。
作品にはこういう男の存在は必要で、事実として平井陽三なる人物がいたかどうかは知らない。
抱月も須磨子も精神的につながっていると述べているが、実際もそうだったのかもしれない。
僕は小津安二郎と原節子もそのような関係だったのではないかと思っている。

抱月の死を暗示するように劇中劇が演じられるが、死神の描写が面白く出来上がっている。
衣笠貞之助は戦前から「狂った一頁」のような前衛的な作品を撮っていたから、このシーンもそのような雰囲気で時代を超えた演出をうかがわせる。
近代美術館のアーカイブセンターで「狂った一頁」の断片を見たが、とても戦前の作品とは思えなかった。
最後で松井須磨子が自殺する場面の描き方も工夫されている。
須磨子の姿は一度も描かれておらず、死を想像させる描き方で、叔父さんが緞帳のスイッチにぶつかったはずみで幕が下りる演出にしびれた。


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2 コメント

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松井須磨子の歌は (さすらい日乗)
2022-09-08 14:36:47
彼女が歌った『カチューシャ』は、大ヒットでした。当時、20万枚売れたそうです。

今では、ネットでも聴けますが、完全な音痴です。

ただ、当時は歌舞音曲をする素人女性は皆無で、芸者かお師匠さんだけでした。女優ではあるが、素人の須磨子が歌うのが新鮮で受けたのだろうと私は思います。
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カチューシャ (館長)
2022-09-09 07:09:19
松井須磨子を名前だけで知っているのですが、カチューシャかわいや わかれのつらさ・・・で始まる歌はなぜか口ずさめますね。
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