おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

シラノ・ド・ベルジュラック

2022-09-05 07:35:30 | 映画
「シラノ・ド・ベルジュラック」 1990年 フランス / ハンガリー


監督 ジャン=ポール・ラプノー
出演 ジェラール・ドパルデュー アンヌ・ブロシェ
   ヴァンサン・ペレーズ ジャック・ウェベール
   ロラン・ベルタン フィリップ・モリエ=ジュヌー

ストーリー
1640年。雑多な人で溢れ返るブルゴーニュ劇場の中で、ひときわ目立つ大きな鼻の持ち主、詩人にして剣客とその名も高いガスコンの青年隊の偉丈夫、シラノ・ド・ベルジュラックが大声を上げた。
今しも彼が秘かに思いを寄せる従妹のロクサーヌに色目を使ったモンフルリーを舞台から引きずり降ろし、それに言いがかりをつけてきたかねてより妻ある身でありながらロクサーヌを狙っているギッシュ伯爵の手先となっているヴァルヴェール子爵と決闘しようというのである。
騒ぎの夜、シラノはロクサーヌから伝言を受けるが、それは彼女の慕う美青年クリスチャンがガスコンの青年隊に入隊するので、彼女の思いを伝えてほしいというものだった。
自らの鼻にコンプレックスを抱くシラノは無念をかみしめ、ロクサーヌの為に愛の橋渡しを務める。
こうしてシラノはクリスチャンのために愛の手紙を書き、口説き方を伝授する。
一方シラノに怨みを抱くギッシュ伯爵は仕返しのためガスコンの青年隊を戦場に送ることにするが、それを知ったシラノの機転でロクサーヌとクリスチャンは出陣の前夜ににわか仕立てながら結婚式を挙げる。
シラノはクリスチャンにも無断で、どんなに戦闘が激しくなってもロクサーヌに一日2通の恋文を届けることを忘れなかった。
それを知ったクリスチャンは危険を省みず戦場にやって来たロクサーヌに、シラノも愛を告白すべきだと言うのだが、その間もなくクリスチャンは銃弾に倒れ、ロクサーヌは手紙を恋人の思い出と共に胸にしまう。
そして14年、修道院で暮らすようになったロクサーヌのもとをシラノが訪ねてくるという日。
相変わらず敵の多いシラノはその途中で頭上から材木を落とされて重傷を負うが、はうようにしてロクサーヌのもとへ向かい、あのクリスチーヌの恋文を読ませてくれと頼む。
シラノは朗読を始めるが、夕闇の中にもかからわず一言一句間違いなく諳んじる聞き覚えのある声に、ロクサーヌははじめて手紙の主が彼であったことを悟るが、時すでに遅くシラノは息絶えるのだった。


寸評
「シラノ・ド・ベルジュラック」はよく知られた話で、僕もシラノが大きな鼻の持ち主で別の男に代わって自分が愛する女性に愛の告白をするという大まかな把握をしていた。
バルコニーにいる女性にシラノが男に代わって語り掛けるシーンがかすかに脳裏に残っているのだが、それは多分テレビ放映された1950年のマイケル・ゴードン監督による「シラノ・ド・ベルジュラック」を見たからではないかと思うし、僕の知識もその作品から得たものだと思うのだが、その記憶も定かではない。

シラノは文才に恵まれ剣の腕前も超一流であるが容姿にコンプレックスを持っている。
その為に愛する女性に愛を告白することができない。
相手の女性が超美人で頭脳明晰な明るいスポーツウーマンとくれば、こちらは自然とコンプレックスを抱いてしまい、その女性を前にすれば金縛り状態となって、とても愛の告白など出来るものではない。
想い出が美化され過ぎているのであろうが、初恋の人には僕もそのような状態だったように思う。
ロクサーヌは気高い女性で、文才のない男は目にも止めない。
美男のクリスチャンを見初めるが、彼が平凡な言葉しか発しない時に愛想をつかしそうになる。
それを救うのがシラノなのだが、彼の助力でクリスチャンはロクサーヌと結婚することができる。
クリスチャンは有頂天になっているが、しかし無学で文才のない彼は結婚後のロクサーヌとの生活をどのように想像していたのだろう。
すぐに正体がバレてしまい、結婚生活がすぐに破局に向かうことが明白だったはずだ。
ギッシュ伯爵によってスペイン軍と戦う前線に送られたことは、むしろ彼にとって幸いだったように思う。

シラノは戦場からクリスチャンに代わってロクサーヌに手紙を送り続ける。
スペイン軍の猛攻撃を前にしてシラノは死を覚悟し、別れの手紙をロクサーヌに書くのだが、もしかすると彼は自分の名前をしたためるつもりではなかったのかと思う。
涙をこぼした手紙はクリスチャンが奪い取り身に着けたまま死んでいく。
その手紙を見たロクサーヌは当然それがクリスチャンからの死を覚悟した別れの手紙だと思い込む。
僕はこの手紙の発想が愛の代理人という発想を超えたものになっていて、原作の素晴らしいところだと思う。
ロクサーヌがこの手紙の真相を知って、「手紙に着いた涙の後はあなたのものだったのね」とシラノに語り掛けると、シラノは「血の跡は彼のものだ」と言い放つ。
美辞麗句を繰り出すシラノであったが、僕は全編を通じてこの会話が一番気に入っている。

シラノは自分の作品を盗作され、自分の書いたシーンが大ウケなことを告げられ、「自分の一生は、自分の言葉を誰かに捧げる一生だったのだ」と語るが、しかしそれは大いなる美徳なのだと僕は思う。
自分の手柄を誇るより、誰かの手柄として物事を成功裏に導くことは素晴らしいことなのだと思うのだ。
変化に対しては反対意見を声高に述べるが、それが成功すると黙り込んでしまう人が多いのも世の常である。
僕はこの話は面白いと思うのだが、ロクサーヌと言う女性は好きにはなれない。
シラノの真実の愛を知ったロクサーヌの態度も、演出のせいかも知れないが盛り上がりを欠いていた。
死に際してシラノはロクサーヌに自分の気持ちを伝えることができたが、そんな風になれば幸せなことだと思う。


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