おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

女体

2022-09-03 10:17:18 | 映画
「女体」 1969年 日本


監督 増村保造
出演 浅丘ルリ子 岡田英次 岸田今日子 梓英子
   伊藤孝雄 川津祐介 小沢栄太郎 青山良彦
   早川雄三 北村和夫 伊東光一 中条静夫
   中田勉 小山内淳 三笠すみれ 川崎陽子

ストーリー
浜ミチ(浅丘ルリ子)は挑発的で魅惑に満ちた女である。
大学理事長小林卓造(小沢栄太郎)の息子行夫(青山良彦)に強姦されたミチは、慰謝料として二百万円を要求したが、行夫の姉晶江(岸田今日子)に侮辱的な扱いを受け小林家に激しい敵意を抱いた。
一方、スキャンダルを恐れた卓造は婿である秘書の石堂信之(岡田英次)に処理を一任、信之は妻晶江の意志に反して二百万円を支払った。
ミチは思いやりのある信之に愛を感じふたりは激しく求めあった。
ある日、ミチが信之との情事を告げて晶江をはずかしめた。
それを知った信之は、ミチが他の男とも交渉のあることを目撃、彼女と別れる決心をした。
信之のみた青年は五郎(川津祐介)という画家だったが、信之はミチを捨てられなかった。
そのため五郎から手切金を要求され、卓造から預っていた裏口入学金の一部を流用して支払った。
だが、五郎はミチと別れないばかりか、金の出所を追求するとうそぶいた。
信之はそんな五郎を誤って殺してしまった。
やがて保釈された信之は、妻を捨て、職を捨ててミチとの愛の生活に飛込んだ。
たが、バー経営が行きづまり、加えてミチの束縛を嫌う奔放な性格からふたりの間に亀裂が生じた。
ミチはやがて信之の妹雪子(梓英子)の婚約者秋月(伊藤孝雄)に心を寄せるようになった。
清潔で男性的な秋月は、ミチの誘惑を拒んだか、ミチは自分の愛を殺すことが出来なかった。
深夜のドライブに秋月を誘い出したミチではあったが、無理心中に失敗。
そして信之にも去られてひとりぼっちになったミチは「また素敵な男を見つければいいわ……」と咳いた。
ミチは酔った。そして、よろける足でガス管をひっかけ、永遠の眠りについた。


寸評
浅丘ルリ子は日活の人気女優だったが、日活の女優さんは石原裕次郎、小林旭などを主演にして人気を誇った男性映画の添え物として存在していた。
浅丘ルリ子は仲の良い佐久間良子の主演映画「五番町夕霧楼」を観て感銘を受け自己主張しだした。
すでに「憎いあンちくしょう」や「何か面白いことないか」などで、それまで演じてきた役柄と違った女性を演じ始めていたが、はっきりと脱皮を図ったのは100本出演記念映画となった蔵原惟繕監督の「執炎」(1964年)と、その後1967年に同監督で撮った「愛の渇き」だったと思う。
1966年には日活との専属契約を解消し他社出演もするようになり、本作は大映作品である。

冒頭から浅丘ルリ子がまともな人間でないことがよく分かる。
クネクネと変なダンスを踊るシーンが何度も出てくるし下着姿も度々披露されるが、やせすぎとも思われる浅丘ルリ子にそれほど性的魅力を感じない。
だからこそ増村はミチ役に浅丘ルリ子を起用したのだろう。
脚本が先にあり浅丘ルリ子を起用したのか、浅丘ルリ子主演と言う企画が先にあって脚本が書かれたのかは知らないが、浅丘ルリ子は増村保造の起用に応える演技を見せている。
同じような立場にあった松原智恵子には演技力がなかったのか、適当な企画が見つからなかったのか、この様な女性を演じる作品は撮られなかった。

浅丘演じるミチは普通の日本映画の女と違い、セックスを「抱かれた」ではなく「抱いた」と表現する女主導を体現する女である。
ミチという女は女性と言うより動物に近いものがあり、実に嫌味な女で共感するところが一つもない。
惚れっぽい女で、気に入った男なら相手の迷惑などお構いなしに色気を振りまいて猛烈アタックをする。
しかし華奢な彼女からは肉体的魅力で男を虜にすると言うイメージが沸かず、彼女の我儘ぶりが繰り返される。
豊満な女性ではあの憎らしさは出せなかったであろう。
浅丘ルリ子が岡田英次との生活に退屈し、伊藤孝雄を求めるようになるといよいよ狂気の度合いを増していくが、岡田との口論の中で「男を求めることがどうしてもやめられない」と浅丘が強弁するシーンは力強かった。
ミチは男を我がものにするためなら何でもする女だが、生への執着も強い。
伊藤孝雄に拒絶され入水自殺を試みる場面がしらじらしく、嫌味な女のボルテージが上がる。
ミチと対比されるのが石堂の妻晶江と妹の雪子で、晶江は離婚を承諾せず夫ひとりをを愛し続けると言い、雪子は平凡な幸せを求めミチを嫌って殴りかかる。
二人に対するミチの態度も苦々しいものがあるのだが、それは増村の狙ったものだと思う。
岡田が「俺たち戦中派にとって戦後の人生は余り物だ」と言い、「若い時は戦争や家族や仕事のために人生を費やしてきたのだから、もう自分のために費やしてもいいだろう」と言う。
しかし、いつの時代になっても、いくつになっても人生を自分の為だけに費やすことは至難の業である。
ミチはそれをやってきた女だが、それは一生続けられないよと言うラストであった。
増村保造がイメージしてきたヒロインそのものといえる雰囲気のある浅丘ルリ子と、陰りを見せ始める前の増村保造が出会った傑作と言えるだろう。


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3 コメント

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最高でしたね (さすらい日乗)
2022-09-07 20:00:06
浅丘ルリ子が、学生にカンパするところが最高。今はない明治大学の正門です。
この辺は非常に立派になっています。
ラーメン屋でふてくされている浅丘ルリ子が、最高でしたね。
あのような女はいましたね。
岡田英次が良かったですね。
でも、よく考えると妹役の梓英子は、もとはピンク映画に出ていた女優で、この浅丘ルリ子の役は、梓の方が本当は適役だったのかもしれませんね。
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梓英子さん (館長)
2022-09-08 07:55:01
梓英子さんは清純派女優というイメージを持っていたのですが、そうだったのですね。
返信する
梓英子は (さすらい日乗)
2022-09-08 14:30:33
森美佐と言って小森白の『青い乳房の埋葬』などの出ていて、人気でした。
私の友人がファンでした。
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