おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

浮雲

2019-01-24 10:48:01 | 映画
「浮雲」 1955年 日本


監督 成瀬巳喜男
出演 高峰秀子 森雅之 中北千枝子
   岡田茉莉子 山形勲 加東大介
   木匠マユリ 千石規子 村上冬樹
   大川平八郎 金子信雄
   ロイ・H・ジェームス

ストーリー
幸田ゆき子(高峰秀子)は昭和十八年農林省のタイピストとして仏印へ渡った。
そこで農林省技師の富岡(森雅之)に会い、愛し合ったがやがて終戦となった。
妻と別れて君を待っていると約束した富岡の言葉を頼りに、おくれて引揚げたゆき子は富岡を訪ねたが、彼の態度は煮え切らなかった。
途方にくれたゆき子は或る外国人の囲い者になったが、そこへ富岡が訪ねて来ると、ゆき子の心はまた富岡へ戻って行った。
外国人とは手を切り、二人は伊香保温泉へ出掛けた。
「ボルネオ」という飲み屋の清吉(加東大介)の好意で泊めてもらったが、富岡はそこで清吉の女房おせい(岡田茉莉子)の若い野性的な魅力に惹かれた。
ゆき子は直感でそれを悟り、帰京後二人の間は気まずいものになった。
妊娠したゆき子は富岡の引越先を訪ねたが、彼はおせいと同棲していた。
失望したゆき子は、以前肉体関係のあった伊庭杉夫(山形勲)に金を借りて入院し、妊娠を中絶した。
嫉妬に狂った清吉が、富岡の家を探しあて、おせいを絞殺したのはゆき子の入院中であった。
退院後ゆき子はまた伊庭の囲い者となったが、或日落ちぶれた姿で富岡が現れ、妻邦子(中北千枝子)が病死したと告げるのを聞くと、またこの男から離れられない自分を感じた。
数週後、屋久島の新任地へ行く富岡にゆき子はついて行った。
孤島の堀立小屋の官舎に着いた時、ゆき子は病気になっていた。
沛然と雨の降る日、ゆき子が血を吐いて死んだのは、富岡が山に入っている留守の間であった。

寸評
伊庭によって半ば犯されたことで仏印へ渡ったゆき子は、どうやらそこで内地の悲惨な戦争の状況から逃れて結構いい暮らしをしたようである。
もちろんその相手である富岡もそれなりの恵まれた生活を送っていて、どうやら現地の女にも手を出しているように思われる。
その現地女の嫉妬心が、やがてゆき子にも投影されることになるのをさりげなく描いている。
この作品では残酷とも思えるような、女たちの嫉妬心が非情なくらいあっさりと描かれ、かえって女の弱さと不幸が強調されるような演出になっている。

富岡は実に女にだらしない男なのだが、一方のゆき子も切っても切れない腐れ縁から逃れられない女である。
芯の強そうなしたたかな女であるようなのだが、どうしても富岡という男から逃げられない弱い女でもある。
その変わり身のあわれさが切々と描かれる。
男の小ずるさと、ずるずると追い続ける女の哀れさが幾度も描かれ、それは抜き差しならない男と女の関係だ。
これもまた人生、これもまた真実の愛なのだ、しかもひにくれた愛のあり方なのだと言われているようだ。
ゆき子の高峰秀子も富岡の森雅之も絶妙の演技で、節操のない男と、時代と環境に翻弄される女を見事に演じている。
岡田茉莉子のおせいもあふれんばかりの若さを表現していた。

それまで会えば愚痴と嫌味ばかりを言い続けていたゆき子は、最後にどこまでも連れて行ってと泣きじゃくる。
屋久島に向かう船では、彼らは雨の甲板でレインコートを頭からかぶって抱き合う。
どこまでも一緒に行こうとする切なさがあふれ出すとてつもなく秀逸なシーンだ。
屋久島でゆき子は亡くなってしまうが、その前に二人を世話する女が登場していて、たぶん富岡はやがてこの女に手を出すに違いないと想像させる。
最後に富岡が泣き崩れるラストシーンは男の贖罪ともとれるが、僕には前述のことを想像させたエンディングだった。

高峰秀子さんは僕の印象と違って姉御肌の女優さんだったようである。
テレビで高峰さんがゲストの対談番組を拝見して、その気風の良さと勝気な性格を垣間見て随分と魅了された。
僕は高峰秀子さんと同時代の人間ではないので、彼女の映画は名画座のリバイバル上映だったり、テレビ放映された映画によるものだったりで時系列はバラバラだ。
しかし、前年に「二十四の瞳」の大石先生をやった同じ女優が、翌年にはこの「浮雲」のゆき子をやっていることに女優としてのすごさを感じる。
エッセイスト・クラブ賞を受賞した彼女の「私の渡世日記」を読むとなおさらその魅力の虜になった。
それを読むとキッパリと女優引退を表明したわけも分からぬではないが、田中絹代さんが晩年まで映画出演されていたのを思うと、ずっと続けて欲しかった女優さんだ。
原節子さんや田中絹代さんなどが歴代No1女優にあげられたりするが、僕は日本映画のNo1女優は高峰秀子さんだと思っているし、その中でもこの一遍は第一の作品だ。


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2 コメント

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本当は褒めにくいのです (指田文夫)
2023-08-04 20:25:28
実は、高峰秀子は、私の父親の小学校時代の教え子で、父のことを彼女の本では非常にほめているので、私は、彼女をすごいとはいいがたいのです。

だが、彼女とこの映画はすごいと思う。
成瀬己喜男は、「本当は、デコちゃんではきれいすぎる。本当は、ブスなので、森雅之は浮気をしてしまうのだ」と言っていますが。
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五指に入る映画 (館長)
2023-08-05 08:08:00
この映画のデコちゃんはいいですね。
私の叔母はデコちゃんにちなんで秀子という名前でした。
「浮雲」は歴代日本映画で五指に入る作品だと思っています。
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