おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

魂萌え!

2019-10-19 09:12:36 | 映画
「魂萌え!」 2006年 日本


監督 阪本順治
出演 風吹ジュン 田中哲司 常盤貴子
   三田佳子 藤田弓子 由紀さおり
   今陽子 加藤治子 寺尾聰
   豊川悦司 林隆三 左右田一平

ストーリー
定年を迎え夫婦ふたりで平穏な生活を送っていた関口敏子、59歳。
63歳の夫・隆之が心臓麻痺で急死し、敏子の人生は一変する。
亡くなった夫の携帯電話にかかってきた女性からの電話。
8年ぶりに現れ強引に同居を迫る長男・彰之。
長女・美保を巻き込み持ちあがる相続問題。
ついには居たたまれなくなり衝動的に家を飛び出した敏子は、カプセルホテルに宿泊することに。
そこで敏子は常連客だという不思議な老女・宮里と出会うのだったが…。
矢継ぎ早に迫ってくる孤独や不安に、やがて敏子は恐る恐るではあるけれど立ち向かって行く。
妻でもない母でもない一人の女として、新たな人生を切り開く決意を固める敏子。
世間と格闘しながら、もうひとつの人生を見つけ、確かな変貌を遂げていく…。


寸評
桐野夏生さん原作の同名小説の映画化だが、NHKドラマとしても少し前に作られていて、そちらは高畑淳子さんが関口敏子で 高橋惠子さんが伊藤昭子で、残された妻と愛人の葛藤を中心に描いていた。
同じ原作だが作りは全く違っていて、こちらは風吹ジュン演じる平凡な主婦が、ダンナの死によって強く生きる自分を取り戻す姿を描いている。
一番端的なシーンが愛人だった三田佳子が線香を上げにくるシーンだった。
未亡人が愛人と直感した女を待ち受ける。負けてはならじと化粧をし直し真っ赤な口紅で迎えると、どう見ても自分よりは年上で、風采もあがらないオバサンではないか(三田さんゴメンナサイ)。
何でこんな人が愛人なんだとの思いがにじみ出た核心的シーンだった。
愛人の方が若くて美人なテレビ版との描き方の一番の違いだった(高畑さんゴメンナサイ)。
ラストシーンを見ると、阪本順治監督はこの映画を撮るにあたって、涙腺刺激映画の名作として有名な「ひまわり」のイメージが有ったのかもしれないなと思った。
「ひまわり」が今に残るのは、テーマ音楽と、か弱さとは無縁のようなソフィア・ローレンの演技に負うところが大きかった思う。
またオープニングやエンディング、そして本編の随所に挿入されるのが、明るさや力強さをイメージさせるひまわりの花で、その花が哀しみや涙といった言葉とはおよそ対極の位置にあることで、二人の切ない運命をより強く照らし出しす役割を担っていたとも思う。
そして、彼女たちが希望と夢を持って輝いていた時の象徴として、女学生時代の8ミリ映画がひまわりの花と同じような使われ方をしていたと思う。
8ミリ映画はそれが流れる毎に、彼女が輝きを取り戻して行っているような使われ方だった。
そして本編で流れる映画はもう一本あって、それがラストシーンで映し出されるビットリオ・デ・シーカの「ひまわり」だ。
あの映画はマルチェロ・マストロヤンニとソフィア・ローレンの夫婦が戦争で生き別れとなり、妻は夫の帰宅を待ち続けている。
妻は夫を探し出すが既に新しい妻と子供がいる事実を知り絶望のままイタリアに帰る。
今度は夫がイタリアの元妻を訪ねるが、妻は再出発を拒絶し、夫はロシアで待つ現妻の元へ帰っていく。
そんな内容の映画だったが、この映画のラストシーンでそちらのラストシーンを流したのは、主人公を「ひまわり」のソフィア・ローレンにダブらせる意味合いがあったのだろうと思う。
それを思うと映写技師として映画のソフィア・ローレンを見つめる風吹ジュンのキリッとした目つきが増幅されてすごく良かった。
彼女もまた凛として生きていく決意の表情だったし、ダンナの死でもって真の自分を取り戻した瞬間でもあったと思う。
やはり、これは紛れもなく阪本順治作品だった。


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