おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

Wの悲劇

2019-10-18 13:31:21 | 映画
「Wの悲劇」 1984年 日本


監督 澤井信一郎
出演 薬師丸ひろ子 世良公則 三田佳子
   三田村邦彦 高木美保 蜷川幸雄
   志方亜紀子 清水紘治 南美江
   仲谷昇 梨本勝 福岡翼

ストーリー
三田静香は、女優を目指す劇団“海”の研究生。
次回公演の『Wの悲劇』の主役を研究生の中からオーディションで選ぶことになり張り切っていたが、静香についたのは結局セリフ一言の小さな役。
が、大阪公演の幕が開けたその夜、静香は劇団の看板女優・翔の部屋で彼女のパトロン・堂原良造が死んでいる現場を目撃してしまう…。
このスキャンダルで自分の女優生命も終わりかと絶望的になっていた翔は、静香に自分の身代りになってくれ、もし引き受けてくれたら摩子の役をあげると言い出す。
最初は首を横に振っていた静香だったが、「舞台に立ちたくないの!」という一言で、引き受けてしまうのだが・・・。


寸評
薬師丸ひろ子は角川映画が産んだ最大のスターだと思う。野生の証明でデビューし、セーラー服と機関銃で「カイカーン」と叫んだアイドル女優だったが、この「Wの悲劇」ではアイドル性を保ちながら大人の女優への脱皮を感じさせている。彼女はこの後も多くの作品に出演したが、彼女の代表作は未だにこの「Wの悲劇」ではないかと思う。「病院へ行こう」や「三丁目の夕日」のようなとぼけた役が似合っているが、そこからはどうしても脱却できないでいると思う。それでもいつまでたっても可愛い女優さんで少女の様な匂いを持ち続ける稀有な存在だ。
澤井信一郎にとっても上位にランクされる出来に仕上がっている作品だと思う。

導入部分は薄暗い中での出来事で、役者の卵の決意を表すシーンとして立ち上がりとしては上出来。
主人公の静香は役者修行のためにと初めて男と寝るが、その男は誰だか分からない。
それに続く静香のわずかな行為で相手を暗示して、その次で明白にする細やかな演出は僕の好きなパターンだ。

「Wの悲劇」が劇中劇として演じられているのだが、劇中劇のシーンが結構長い割には本編に違和感や間延び感を持たせず挿入されている。
もちろん、設定が舞台俳優を目指す少女とその世界の出来事なので当然かもしれないが、出演者の舞台らしい演技がそれを支えていた。
劇中劇の一つの描き方として、演じられている劇が現実とリンクしていくというものがあるが、ここでも「Wの悲劇」という芝居は母親の犯した殺人の犯人として娘が身代わりになるという内容で、現実には静香がトップスターのスキャンダルの身代わりとなる構成で挑んでいる。やや漫画的な運びだが、役を取るんだ、女優になるんだという決意を見せる薬師丸の表情がそれを感じさせない。
余談だが蜷川幸雄ってやっぱ芝居も上手いんだなあと思った。上手いといえば芸能レポーターの面々が本職であるインタビューシーンとは言え中々の演技で驚いた。

抜擢された菊池かおりがスターである羽鳥翔に向かって「追い抜いてやる」と睨みつけるが、翔もまた後日スキャンダルの顛末を語る場面で「私は追い抜かれない」と言葉を発している。
上がってくる者がいれば沈んでいく者もいるのはどこの世界でも同じだが、スターという地位はまた特別なものがあるのだろう。
それを目指す静香も初々しいが、守ろうとする翔の執念も十二分に描かれていた。
その最たるものが翔が静香抜擢のために舞台上で叫ぶ三田佳子の演技だ。
ここ一番での彼女の演技を見ると流石だなあと思わせるに十分で、この映画で一番迫力あるシーンだった。

世良公則が演じるところの昭夫に薬師丸ひろ子演じる静香が、別れのポーズを取る。泣きそうになるところをもう一人の自分が笑えと命じているという表情がいい。
このラストのストップモーションは最高だ。この表情が彼女を永遠のものにしたと言っても過言ではない。もしかすると薬師丸ひろ子、一生に一度の表情とポーズになるかもしれない。
これは日本版「イヴの総て」だと思うが、ラストシーンがこの映画を青春映画のジャンルにしていると思った。


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