おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

リップヴァンウィンクルの花嫁

2020-07-14 07:04:11 | 映画
「リップヴァンウィンクルの花嫁」 2016年 日本


監督 岩井俊二
出演 黒木華 綾野剛 Cocco
   原日出子 地曵豪 毬谷友子
   和田聰宏 佐生有語 夏目ナナ
   金田明夫 りりィ

ストーリー
2016年の東京。
派遣教員として働く平凡な女性、皆川七海(黒木華)。
ある日、SNSで鶴岡鉄也(地曵豪)という男性と知り合い、そのままトントン拍子で結婚話へと至る。
それはインターネットでモノを買うようにあまりにもあっさりとしたことだった。
しかし友人が多い鉄也に比べ、七海には結婚式に出席してくれる親戚も友人も少なかった。
鉄也に“見栄えがしないからどうにかして欲しいと”頼まれた七海。
困った挙げ句「なんでも屋」の安室行舛(綾野剛)に代理出席を依頼した。
そして無事に結婚式を終えたものの、すぐに鉄也の浮気が発覚した。
夫の浮気疑惑に対し義母・カヤ子(原日出子)から七海は反対に浮気の罪をかぶせられ、家を追い出されてしまい、ついには鉄也と離婚する。
行き場もなく途方に暮れた七海は安室に助けを求め、彼が斡旋する怪しげなバイトを請け負うようになる。
最初は結婚式の代理出席で、そこで里中真白(Cocco)と出会った。
代理出席のバイトに続いて斡旋されたのは、月100万円も稼げる住み込みのメイドだった。
豪邸で住み込みのメイドとして働き始めた七海は、謎めいたメイド仲間、里中真白と意気投合、互いに心を通わせていくのだった。
真白は体調が優れず、日に日に痩せていくが、仕事への情熱と浪費癖は衰えなかった。
ある日、真白はウェディングドレスを買いたいと言い出す…。


寸評
冒頭は出会い系サイトを通じて交際することになった相手を待つ七海の様子が描かれるのだが、このファーストシーンがいい。
何が起きるでもないシーンなのだが、顔も知らない相手を雑踏の中から見つけ出す行為がスマホのLINE上のやり取りと共に描かれる。
目印となる赤いポストの前で合図の手を挙げる七海のショットの美しいこと。
僕はこういうシーン、好きだなあ…。
七海は派遣教師だが声が小さいと中学生にからかわれている。
七海はいじられやすい性格だし、お人よしでもあり、騙されやすい性格の女性だ。
それでもネットの婚活サイトの相手が教師だったこともありトントン拍子に結婚に至る。
悪意はないが七海は体裁を取り繕う。
派遣をクビになっても結婚が決まったこともあり寿退社を装うし、親族や友人の少なさのために代理出席を頼む。
七海の両親も離婚しているがこの時ばかりは普通の親を演じている。
そのどれもが悪意に満ちたものではないがウソの世界である事には違いはない。
僕たちはその欺瞞に満ちた世界で小さな幸せを維持している。
真白が「この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ。でもその幸せには人それぞれに限界がある」と言うように、大きな幸せ(あるいは大きな望み)を求めても誰もがそれを得られるわけではない。
真面目に生きていても簡単に幸せな未来を手に入れることはできないが、それでもやはり人は幸せを追い求めるし、親ならば子供の幸せを願うのが常だ。
七海の家庭は崩壊しているが、それでも父親は娘の幸せを願っている。
この思いが凝縮されるのが真白の母親の娘を思う気持ちの吐露だ。
真白の母親が川崎にいることが判り安室と七海が会いに行くが、ここでのりりイははすこぶるいい。
酒浸りの母親であるが、母の愛情を体いっぱいで表すし、受ける安室の綾野剛も素晴らしい。
この映画で一番感動する場面だ。
本当に悲しい時は泣くしかない、飲むしかないのだなと思い知らされる。
安室は善人なのか悪人なのかよくわからない人物だ。
クライアントの要求は金になれば何でも受けてしまう。
クライアントを天秤にかけるし、必要とあらば死んでいくことを容認しているようでもある。
それでいて人の心の中に入っていくことのできる機知にとんだ態度を見せる。
踊らされる七海は気の弱そうなお人よしで、ダンナの浮気を責められても「あちゃあ!」と叫んでしまい、相手からはふざけているのかと責められる女だ。
そんな七海を黒木華が雰囲気たっぷりに演じていて、上手いなあと思わせる。
こういう静かな役は難しいと思うし、Coccoの真白とのからみは絶妙だった。
七海は指輪のない手をかざすが、結婚などという表面的な幸せでなく、自分にとっての幸せとは何なのかを悟ったのだろうか。
映画らしいシーンと映像、流れる音楽のアンサンブルが心地よく岩井俊二の感性をとことん感じさせた心に沁み込んでくる作品だ。


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