おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

リトル・ダンサー

2020-07-15 07:54:46 | 映画
「リトル・ダンサー」 2000年 イギリス


監督 スティーヴン・ダルドリー
出演 ジェイミー・ベル
   ジュリー・ウォルターズ
   ゲイリー・ルイス
   ジェイミー・ドラヴェン
   ジーン・ヘイウッド
   ステュアート・ウェルズ

ストーリー
1984年、ストライキに揺れるイングランド北部の炭坑町。
母親を亡くし、父も兄のトニーも炭坑労働者のビリーは、ボクシング教室に通っているが、試合に負けてばかりの11歳。
そんな時、偶然目にしたウィルキンソン夫人のバレエ教室に強く惹かれ、女の子たちに混じって練習するうちに夢中になっていく。
ウィルキンソン先生はどんどん上達するビリーに自分が果たせなかった夢を重ね合わせ、熱心に彼を教える。
しかし、家族の金をバレエに使っていたことがバレてしまい、父は激怒する。
ビリーは悔しさをぶつけるように、一人で踊っていた。
ストライキが長引き町中が暗く沈んでいるクリスマスの夜、親友マイケルの前で踊るビリーの姿を見て、息子の素晴らしい才能に初めて気づいた父は、彼をロンドンの名門、ロイヤル・バレエ学校に入学させる費用を稼ぐため、スト破りを決意する。
それは仲間たちへの裏切り行為であった。
スト破りの労働者を乗せたバスの中に父を見つけたトニーがバスを追いかけてきて、父親のスト破りを必死に止めたところ、父は泣き崩れるだけであった。
その事情を知った仲間たちがカンパしてくれ、ビリーは学校に行くことができた。
15年後。バレエ・ダンサーになったビリーは、父と兄とマイケルが客席にいるウエスト・エンドの劇場の舞台で、スポットライトに包まれながら堂々と踊るのであった。


寸評
バレエを題材にした映画と言っても少年のビリーが踊る姿を捉えているので、バレエ映画と呼ぶには披露されるバレエは素人の僕にはつたないように見えた。
最後に世界的バレエダンサーであるアダム・クーパーが特別出演してジャンプしたシーンには身震いしたけれど、それ以外はビリーが踊る微笑ましいシーンばかりで、むしろ音楽映画と呼んだ方がよいかもしれない。
観ていて心地よいのは一つの場面におけるカット割りの妙を満喫できることである。
次々と繋いでいかれる短いカットの積み重ねが一つのシーンを生み出していくリズム感が何とも言えない。
ビリーのジェイミー・ベルが父親に反抗する強い面を持ちながらもナイーブな少年の姿を好演している。
ウィルキンソン先生はビリーの才能を見出し、女生徒たちよりもビリーに自分の夢を託していく。
タバコをふかしながらバレーを教える厳しいオバサンに見えたのだが、ビリーと一緒に踊るシーンは見事なアンサンブルを見せて思わず拍手したくなった。
ビリーの一家は母親が亡くなっている炭鉱労働者一家で貧しい家庭なのだが、軽い認知症があるビリーのお婆さんが時々正気に戻ったようなことを言う面白い存在で、家庭崩壊を招いているわけではない。
家庭は貧しく、ビリーのロイヤル・バレエ学校に入学させる費用を稼ぐために父親は意に反したスト破りを行う。
それを同じく炭鉱夫でストに参加しているビリーの兄が必死で止めに入る。
この映画で一番悲しい場面だ。
時代はサッチャー政権下で、サッチャーが完璧な炭坑スト対策を打っていた時期である。
鉄の女と呼ばれていたサッチャーは炭坑労組がストを行っても、イギリス経済が止まらないように体勢を整えていたのである。
作中でも、父親がビリーの合格を伝えに来た時に、組合の仲間たちが労働組合が敗北したことを伝えている。

ビリーはまだ11歳だが、その年齢で自分のやりたいことを見つけられたのは素晴らしいことだ。
11歳と言えばまだ小学生なのだが、小学生なりの子供の世界も微笑ましく描かれている。
おませな女の子が性的な言葉をビリーに投げかける場面などは笑ってしまうが、このシーンは何のために必要だったのだろう。
さらに、すでに男に興味を持つLGBTの男の子が登場してビリーとの友情を温めている。
ビリーがロンドンに旅立つ日の別れは切ないものを感じさせた。
兄がビリーの乗ったバスを見送る場面も感動的だ。
バスの窓が閉まっていて、兄の語り掛ける言葉がビリーには聞こえない。
僕たちがその言葉を聞かされた時は、この家族はストのこともあっていらだっていたのだが、お互いに愛し合っていた家族だったのだと分かった。
そして流れるようにラストシーンへと画面がつながっていく。
前述したように、画面の繋ぎは上手いなあと改めて感心したシーンとなっている。
そして父親と兄が座った席の隣には、ビリーの友達だったあのマイケルがなるほどそうなっていたかと言う姿でビリーの舞台を見に来ていたと言うオチまでついている。
くどい説明もなくストップモーションで終わるのもピタリと決まったと言う感じで、余韻が大いに残りエンドクレジットにかぶさる音楽が心地よかった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿