おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

TAKESHIS’

2023-12-29 14:18:14 | 映画
「TAKESHIS’」 2005年 日本


監督 北野武
出演 ビートたけし 京野ことみ 岸本加世子
   大杉漣 寺島進 渡辺哲 美輪明宏
   六平直政 上田耕一 武重勉 ビートきよし

ストーリー
芸能界の大スターとして、日々忙しく過ごしているビートたけし。
雀荘で麻雀を打っていた彼は、隣の卓にいたヤクザ の組長ジュニアから映画に出してくれと頼まれ、オーディションがあるから受けるよう促した。
麻雀に負けて店を出ると、女に 「貢いだ金を返せ」と水を浴びせられた。
たけしはマネージャーと共に、愛人の待つ高級車へ戻った。
テレビ局に到着したたけしは、美輪明宏がプロデューサーを叱責しながら出て行く姿を目にした。
局の廊下を歩いていた彼は、早乙女太一 のマネージャーから「一回でいいんで使ってやって下さいよ」と売り込みを掛けられ、それから彼は別の部屋に行き、タップの練習をしているTHE STRiPESに声を掛けた。
一方、そんなたけしと外見がそっくりの北野は、しがないコンビニ店員。
彼は中年の峠を越えても売れない役者として苦闘中で、色々な舞台や映画のオーディションを受けまくっているものの、受かったためしがない。
ある日、北野は偶然にもビートたけしと出会う。
北野は憧れのスター、ビートたけしからサインをもらうが、この出会いをきっかけに北野はたけしの映画の世界へと迷い込んでいく。
しかし、それは虚構とも現実とも区別がつかない危険なファンタジーの世界だった…。


寸評
北野武による自己満足映画に思える。
描かれていることに脈略はなく、色んなエピソードが交錯しながら映像化されていく。
顔がそっくりのスターであるビートたけしと、コンビニでアルバイトをしているような北野武の人生が対比的に描かれていくのだが、大スターとアルバイトの構図は格差社会そのものである。
顔がそっくりなのにここまで格差がある社会の不平等、不公平、理不尽が妄想から狂気へ転じていく。
ちょっとした違いで、まったく別の人生を歩むことになるのが人の世なので、出演者が二役も三役もこなしている。
京野ことみは、たけしの愛人とチンピラの情婦の2役。
大杉漣はたけしのマネージャー&タクシーの運転手。
寺島進はたけしと同期のタレント&アパートのチンピラ。
岸本加世子に至っては、雀荘の女&オーディション審査員&コンビニの客など7役ぐらいをやって いる。

美輪明宏や早乙女太一が本人役で登場しているが、それが誰なのか分かっているから成り立っている。
北野武の映画は明らかに日本よりもヨーロッパの方が評価が高い。
この映画に美輪明宏や早乙女太一本人を登場させているが外国人の理解を得ることが出来たのだろうか。
「ラーメン店の親父がゾマホンだったら面白いよな」と言うシーンがあって、実際にゾマホンがラーメン店の親父をやっている映像を 挿入しているが、僕でさえゾマホンなんて知らなかった。

一部の評論家が高く評価したところで、つまらない映画はつまらない。
だからハッキリ言って、僕にはこの映画は退屈だし、分からないと言い切れる。
しかしこの映画の構造が全く分からないというわけではない。
描かれている内容は全てビートたけしと北野武が見ている夢の世界なのだ。
ビートたけしと北野武がそれぞれ夢を見て、そして夢から覚めたと思ったら、まだ夢の中ということが重なる入れ子構造に なっている箇所もあったりするからついていくのが辛い。
しかし、その夢に深い意味はない。
彼らは映画という虚像の世界にもいる。
ところが現実の世界では大きな格差がある生活を送っている。
ただそれだけの映画なのだと思う。

北野映画の常連組が大半のキャストの中で、京野ことみはオーディションでたけしが選んだそうだ。
作品当時は20代半ばで、テレビの人気ドラマなどで知られる清純派だった。
それが、どういう風の吹き回しかオールヌード的な濡れ場を演じていることが、この映画一番の驚きで一番印象に残るシーンになってしまった。
冒頭でタクシーの運転手が眠っているシーンが出てきて、大杉連が「タクシーの運転手はいいよな、いつでも寝れて」と言うのだが、この映画はそれを実践するかのようで、いつでも眠ることが出来て、再び見ることができる作品だったように思う。