おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家

2023-12-03 07:26:57 | 映画
「次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家」 1953年 日本


監督 マキノ雅弘
出演 小堀明男 河津清三郎 田崎潤 森健二 田中春男
        石井一雄 森繁久彌 小泉博 緒方燐作 長門裕之
   山本廉 越路吹雪 若山セツ子 広瀬嘉子 久慈あさみ
   千葉信男 藤原釜足 英百合子

ストーリー
甲州猿屋の勘助を叩き斬って兇状旅に出た次郎長一家も、次郎長の女房お蝶(若山セツ子)が病気となり、野分吹きすさぶ他国の空に難渋をきわめる。
世間の眼もつめたかった。
先年次郎長(小堀明男)がその零落を見かねて一興行立て、急場をすくってやった力士八尾ケ嶽久六が、今は尾張で名も保下田の久六(千葉信男)と改めた売り出し中のいい親分ときいて、三五郎(小泉博)と石松(森繁久彌)はそこに一時身を寄せようと提案した。
一家はこころよく迎えられた。
久六、じつは代官に通じて、次郎長捕縛のひと手柄をたてようともくろんでいるのだが、表面は巧みにとりつくろってボロを出さぬ。
が、石松の幼馴染み小松村の七五郎(山本廉)の忠告によってそれと察した一家は、捕り方を先導してくる久六の裏を掻き、七五郎の家までのがれて、一応そこに落着く。
七五郎の女房お園(越路吹雪)は酒も飲めば槍もつかう女傑で、貧乏世帯ながら何かと一家の面倒をみる。
金が尽きた次郎長一家の鬼吉は、飛び出していた両親のもとに行き金をもらう。
大政はかつての我が家を訪ねたが、家は寂れており、妻ぬい(広瀬嘉子)の姿を見て逃げるように去った。
が、日々さし迫る窮状に病勢悪化したお蝶は、やがてみんなに見守られて死んだ。
その野辺の送りも済んだか済まないかに、またも久六一家が襲来する。
「お蝶、清水に帰ろうぜ」と遺骨を胸に立ちあがる次郎長につづいて、一家の者、ここを引払うつもりの七五郎夫婦が一団となって囲みをおしやぶる。
追いかかる者を斬りはらい斬りはらい、足をはやめて一家は清水をめざした。


寸評
あっけらかんとした明るい内容で描いてきたシリーズだが、今回は一転して物悲しく重い内容である。
話は前作では描かれていなかった甲州猿屋の勘助を叩き斬るところから始まり、そのため次郎長は人相書きを廻され手配の身となる。
恋女房のお蝶が病気になり、そのお蝶を伴っての逃亡劇である。
その土地の親分を頼ってかくまってもらおうとするが、厄介者の彼等は一夜を過ごすだけでそこを出ていかざるを得なくなる。
土地の親分と交渉に行った子分たちは申し訳ないと詫びるばかりという様子が描かれる。
その間にもお蝶の病状は悪化の一途をたどるという内容なので、自然と雰囲気は重くなってくる。
石松と三五郎が売り出し中の保下田の久六という親分は、かつて世話を焼いて相撲興行を打たせてやった八尾ケ嶽だということを思い出しそこで世話になるのだが、この保下田の久六は登場した時からどう見ても次郎長一家を役人に引き渡そうとしていることがありありである。
この作品はサスペンスではないので、久六が恩をあだで返し裏切るというドキドキ感はなく、観客は初めからこいつは悪者だという思いで見ることになる。

予想通り久六は役所に駆け込むが、その窮地を救ったのが石松の幼馴染み小松村の七五郎で、一行は七五郎の家までのがれるのだが、この七五郎が頼りないのに比べ女房のお園はしっかり者である。
金に窮して接待が出来ないとあっては七五郎のメンツが立たないと、豪快な女性ながらも自分を身売りして金策しようとする夫想いの面を見せる。
振り返ればこのシリーズに登場する女たちは皆しっかり者で、男を仕切っている所があり、男女雇用機会均等法などどこ吹く風、女性の社会進出うんぬんなども関係ないといった風である。
お園の越路吹雪が亭主を尻に引きながらも信心深い気のいい女房を楽し気に演じている。

本作で一番大きな出来事は保下田の久六に裏切られることよりも、お蝶が亡くなることである。
次郎長の女房だから重要人物の一人であるはずだが、お蝶は第6話にして初めて本格的に取り上げられたといっていい。
それまではちょっとしたエピソードで顔を出すような感じだったが、皆に迷惑をかけていることを気にしながら弱っていく姿が切ない。
お蝶の野辺送りが済んだと思ったら久六一家と役人が襲来する。
それを知らせたのが島の喜代蔵と名乗る若者で長門裕之が演じている。

長門裕之は今回は登場しない江尻の大熊を演じていた澤村國太郎の長男である。
後に南田洋子を妻に持ち、祖父は狂言作者の竹芝伝蔵、母はマキノ智子、弟は津川雅彦、叔父に加東大介、叔母に沢村貞子、外祖父は日本映画の父と呼ばれる牧野省三、母方の外叔父は映画監督のマキノ雅弘、母方の外叔母は轟夕起子、母方の外従弟にマキノ正幸、義妹つまり津川雅彦夫人の朝丘雪路、姪は真由子という超芸能一家に育っている。