おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

抱かれた花嫁

2023-12-28 07:30:37 | 映画
「抱かれた花嫁」 1957年 日本


監督 番匠義彰
出演 望月優子 大木実 有馬稲子 田浦正巳 高橋貞二
   片山明彦 高千穂ひづる 永井達郎 桂小金治
   日守新一 朝丘雪路 須賀不二夫 桜むつ子
   高屋朗 小坂一也

ストーリー
浅草の老舗「鮨忠」の女将ふさ(望月優子)は未亡人ながら三人の子を育て上げ店まで復興させた男まさり。
ところが長男の保(大木実)は芸術家肌で、すし屋を嫌って家出、今はストリップ劇場の座付作者、次男の次夫(田浦正巳)は大学生だが哲学専攻という変り者で、店を継ぐ子供がいずふさの頭は痛い。
仕方なく彼女は長女の和子(有馬稲子)に、袋物屋の三男坊、秀人(永井達郎)を養子に迎えようとするが、下町娘の和子は店の客で動物園の獣医福田健一(高橋貞二)と意気投合し秀人との縁談に見向きもしない。
ふさは、妹の絹枝(桜むつ子)から気性が強いばっかりに子供たちとうまく行かないのだと云われ、若い者に理解を見せようと次夫が結婚したいと云う光江(朝丘雪路)に会うため国際劇場へ行く。
ところが光江をロケット・ガールと知って若い者を理解するどころか二人の交際を禁じてしまう。
次夫は悲観、見かねた和子は彼を家出させ兄の保のアパートへかくまう。
次夫の家出で憂うつなふさは今度は和子から、福田と結婚できなければ家出すると云われ、福田を養子見習として店に入れる。
福田は慣れぬすし屋の仕事をやるが失敗の連続。
さすがに見かねて和子が偽グレン隊を店に乗込ませ福田がこれを軽くさばくというプランを立てたが、話の行違いで福田は本物の立回りを演じて店を壊す、自分は怪我するで、ふさの信用を益々落す。
福田は日光へ療養に出かけたが、その福田に和子の恋のライバルとしてニュー・フェイスの富岡千賀子(高千穂ひづる)が現れた。
それを知った和子が当てつけに秀人を連れて行ったのがもとで、福田と和子の仲は破れた。
和子は潮来の友人宅に身を隠した。
和子の失踪に、ふさは慌てるが騒ぎのうちに「鮨忠」は近所の火事で類焼してしまう・・・。


寸評
松竹の大型映画として本格的な第一作となるので、タイトルが表示される前にけたたましいぐらいに松竹グランドスコープと映し出される。
話の内容は他愛のないものだし、映像的にも描かれ方にも目立ったものがある作品ではない。
逆に言えば大量放出されるこの様な作品を多くの映画ファンはくつろいで見ていたのだろうと想像できる。
ホームドラマに属するが、所々に笑いを誘うシーンを挿入しながらテンポよく話を紡いでいく。
舞台は浅草で、冒頭の浅草寺のシーンで勝気な和子と、なよなよした婿養子候補の秀人が描かれ、観客は早くも和子はこの男を婿にするはずがないと知る。
そこから主人公である和子と福田の恋の行方、弟の次夫とダンサー光江の恋の行方が並行して描かれていく。

途中で光江が踊っているのであろうレビューのシーンが挿入される。
松竹映画なので用いられている映像は浅草国際劇場でのSKDのレビューで、SKDの公演映像としてはなかなか迫力のあるものが使用されている。
松竹グランドスコープの威力を発揮するように、奥行きと巾がある団員のラインダンスが繰り広げられ、宝塚歌劇の方が馴染みのある僕だが、こちらも圧倒されるものがある。
ピンクの傘をもってのフィナーレが行われるが、団員が小さく見えてこの劇場の大きさが伝わってくる。
SKDのダンサーを宝塚を退団した朝丘雪路が演じているのも、キャスティングの面白さを狙ったのかもしれない。
当時の浅草を見ることができるし、日光や中禅寺湖に水郷など、ある時代の日本の風景も堪能できる。

主人公の気の強い看板娘を演じるのが有馬稲子で綺麗だ。
往年のスター女優は惚れ惚れするような美しさを持っていたのだと思わされる。
和子に思われているのが高橋貞二の福田で、かれはお姫様女優の高千穂ひずるにも言い寄られているモテ男なのだが、その割にはモテ男としての存在感を感じない。
彼のスター性なのか、脚本によるものか演出によるものか判断に悩むところだ。
歌手が出てきて歌を披露するのも当時はよくあった演出だが、この映画では小坂一也とワゴン・マスターズが出ていて僕のような年代の者には懐かしさを感じる。
当時の小坂一也はカントリーミュージックのアイドル的な存在で、僕の耳には「青春サイクリング」の鼻に抜けるような歌声が蘇ってくる。
長年の同棲相手だった女優の十朱幸代と未届けながら挙式しながら、1年もしないうちに破局したのだが、一体何があったのだろう。

子供たちの顛末はホームドラマとしての成り行きを見せるが、母親である望月優子と、かつてはいい仲だったオペラ歌手の日守新一の焼けぼっくいに火が付きそうな展開は面白いと思ったのだが、匂わす程度で終わっている。
頑固な母親がかつての恋人から子供たちの結婚の相談をされ、それが自分へのプロポーズと勘違いする可笑しいシーンが用意されているし、しんみりとしたデートシーンも用意されて、二人の成り行きを期待させていたのだが、大村の秘かな恋もそのままだったなあ。
桂小金治が得な役回りで、道化師的なパートを引き受けている。