おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

千夜、一夜

2023-12-17 07:05:55 | 映画
「千夜、一夜」 2022年 日本


監督 久保田直
出演 田中裕子 尾野真千子 安藤政信 ダンカン
   白石加代子 長内美那子 田島令子 山中崇
   阿部進之介 田中要次 平泉成 小倉久寛

ストーリー
北の離島の美しい港町。
30年前、若松登美子の夫が突然姿を消した。
彼はなぜいなくなったのか。
生きているのかどうか、それすらわからない。
登美子は漁協で働きながら今も夫を探し続けて帰りを待っている。
父親は登美子の結婚に反対していたが今は亡くなっており、母親が一人で暮している。
登美子は漁港からの帰りに魚を届けたりして母の様子を気にかけていた。
漁師の藤倉春男は登美子に想いを寄せ続けていて、港の人々はその事を誰もが知っていた。
漁港の仲間から春男の申し出を受けたらどうかと言われても、「何も手続きはしていない。私はまだ結婚したままなのだ」と答え、彼女が春男の気持ちに応えることはなかった。
ある日、登美子のもとに、2年前に失踪した夫・洋司(安藤政信)を探す奈美(尾野真千子)が現れる。
奈美は病院で看護師を続けながら夫を待ち続けていたが、同じような境遇の登美子を紹介された。
彼女は自分のなかで折り合いをつけ前に進むために、夫がいなくなった理由を探していたのだ。
拉致されたのではないかとの思いもあり、特別失踪人の手続きをとるための書類作りを登美子に手伝ってもらうことにした。
登美子への気持ちが通じない春男は異常をきたしてきたので、長老たちは春男と登美子の仲を取り持とうとしたが逆効果の結果を生み、春男は行方不明になってしまった。
そんな折、登美子は街中で偶然、洋司の姿を見かけた。
登美子は洋司を奈美に引き合わせるが、奈美にはすでに再婚を決意した男が居た。


寸評
日本における行方不明者数は年間8万件程度で推移しているとのことだが、認知症などの疾病関係者など大半は発見されているとのことで、それでも年間数千人が失踪しているらしい。
身近な人間が突如姿を消してしまったら、残された者の思いはどんなだろうというのがこの映画だ。
幸せな日常を過ごしてきたと思っていたのに、何の前触れもなく家族の一人が突然姿を消してしまう。
我々は北朝鮮による拉致被害者を思い浮かべてしまうが、該当者は拉致された者だけとは限らない。
舞台は佐渡なので拉致されたことも考えられるが、大半は理由を告げずに失踪してしまった人たちだろう。
残された家族は理由も分らず「何故なんだ」との思いを持つであろうことは容易に想像できる。

この作品では三人の待ち続ける女性が登場する。
登美子は30年も夫を待ち続けていて、言い寄る男も拒絶し続けているが徐々に夫への思いが薄らいできている。
30年間も居場所も安否も分からない状態が続けばそうなるのも当然だ。
奈美が言うように、どこかですでに亡くなっているのだとの思いが潜在しているのかもしれない。
そう思うのも、そう思いたいのも分かるし、30年も続けてきた生き方から抜け出せない気持ちも分る気がする。
奈美は拉致されたかもしれないと思いだしているが、状況はその可能性は低いと言われる。
彼女は気持ちに整理をつけるために失踪の理由を知りたがっているのだが、本人が行方不明である以上そのことを確かめる手立てはない。
若い彼女は自分の将来を考えだし、自分に思いを寄せる男性と再婚を決意する。
彼女は登美子とは真逆の結論を出そうとしている。
奈美は否定するが、作成してもらった特別失踪人認定の書類は夫・洋司との離婚手続きに利用されることは明白で、奈美の気持ちの重心は夫から自分へと移っていたのだと思う。

いま一人は姿をくらました春男の母親だ。
彼女は以前に登美子に春男を受け入れてくれるように申し入れているし、春男が居なくなったのは登美子のせいだと言わんばかりで随分と身勝手な母親との印象を受ける。
しかしそれは母としての感情であり、彼女が言う待つ身の辛さからでもあり、母親は同じような立場になって初めて登美子の気持ちが分かったのだろう。
親はきっとどこかで生きているとしか思えないのだと思わせた。
しかしこの母親を初めとして、登美子を取り巻く人々は登美子を差し置く随分と身勝手な人たちだ。
母親は息子可愛さのあまり登美子に無理を強いるし、春男を見かねた長老たちの行為は一方だけを考慮した迷惑行為と言っても過言ではない。
春男は困っている人に手を差し伸べることが悪いことなのかと言うが、状況からすれば随分と身勝手な言い分だ。
暗くて静かな映画だが、ここでの登美子の反撃は奈美と洋司が再会した場面と共に数少ない激しいシーンとなっている。
ここでの登美子の激情がラストシーンにおける登美子を補完していたし、結局登美子は今まで通りにしか生きていけないのだろうと思わせた。
失踪者にも言い分はあるのだろうが、それでもやはり罪作りな行為であるのは間違いないのではなかろうか。