おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

草原の椅子

2023-12-18 10:11:32 | 映画
「草原の椅子」    2013年 日本

                                    
監督 成島出                                            
出演 佐藤浩市    西村雅彦 吉瀬美智子 黒木華 小池栄子
   貞光奏風    中村靖日 若村麻由美 井川比佐志
   AKIRA(EXILE)

ストーリー
長年連れ添った妻と離婚し、年頃の娘と2人暮らしの営業マン、遠間憲太郎。
50歳を過ぎ人生に疲れた彼に、思いがけない3つの転機が訪れる。
ひとつは、取引先の社長・富樫に懇願され、いい年になってから親友として付き合い始めたこと。
もうひとつは、ふと目に留まった独り身の女性・貴志子の、憂いを湛えた容貌に惹かれ、淡い想いを寄せるようになったこと。
そして3つめは、娘の弥生が母親に虐待されていた4歳の少年・圭輔を連れ帰り、しばらく家で面倒を見るようになったこと。
すっかり心を閉ざしてしまい口もきけない圭輔だったが、遠間たちとの触れあいを通じて少しずつ変化を見せ始めていく。
憲太郎、富樫、貴志子の3人は、いつしか同じ時間を過ごすようになり、交流を深めていく中で、圭輔の将来を案じ始める。
年を重ねながら心のどこかに傷を抱えてきた大人たち。
そして、幼いにも関わらず深く傷ついてしまった少年。
めぐり逢った4人は、ある日、異国への旅立ちを決意する。
そして、世界最後の桃源郷・フンザを訪れたとき、貴志子が憲太郎に告げる。
「遠間さんが父親になって、私が母親になれば、あの子と暮らせるんですよね」


寸評
『草原の椅子』というのは、家具職人をしている冨樫の父が、さまざまな障害を持つ人のために作っている特注品の椅子のこと。
草原に置かれたその椅子を写した写真が有る。
草原に見えるのは富樫の実家にある草が茂ったちょっとした土地だ。
その椅子はこの世のひとりの人間が安心して身を委ね、くつろぐため
の場所でもあるのだ。
見る人によっては草原に見える場所であり、左右非対称でも使う人にとっては座り心地のよい椅子なのだ。
この映画は彼らが安心して身を委ね、くつろぐための『草原の椅子』を探す物語なだと思う。

大人たちは少年の態度に自分が経験した状況を重ね合わせ、そこからの脱却を模索し、少年に癒される。
少年の母親も父親も実に自分勝手でひどい。
彼等を極めて道化役者的に描くことで、現実離れしている遠間、富樫、貴志子にリアリティを持たせていたのだろうか?
なんだかもう一つ心に響いてこなかったなあ。

映画には冒頭と終盤に、パキスタン北西部の景勝地フンザが登場する。
この映画の一番のシーンは、そのフンザで主人公たちがどこまでも続く砂丘を駆けて行く場面。
砂丘と雪山が存在する美しい場所だ。
誰の足跡もない前人未踏の大地を踏みしめて主人公たちが駆けていくのだが、この砂丘のシーンは海外ロケを行った価値があったと思う。

この作品で一番いい役者さんだなあと思わせたのは圭輔の母親役だった小池栄子さんだった。
涙ぐんで詫びる姿と、風疹に怯える狂気じみた姿のギャップがいい。
この人を主演に据えた映画がもっとあってもいいと思うのだが・・・。

原作は宮本輝で、同氏の作品と言えば僕は条件反射的に小栗康平監督の「泥の河」を思い浮かべる。
見終わってみると、宮本輝の映画化作品ではやはり「泥の河」が一番だと思った。
成島作品としても「八月の蝉」の方が随分と出来が良かったように思う。