おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

旅立ちの時

2023-12-30 12:11:11 | 映画
「旅立ちの時」 1988年 アメリカ


監督 シドニー・ルメット
出演 リヴァー・フェニックス クリスティーン・ラーチ
   マーサ・プリンプトン ジャド・ハーシュ
   ジョナス・アブリー エド・クロウリー
   L・M・キット・カーソン スティーヴン・ヒル
   オーガスタ・ダブニー デヴィッド・マーグリーズ

ストーリー
郊外の野球場で試合が行われている。
バッターボックスに立っているのは、眼鏡をかけた繊細そうな少年・ダニー(リヴァー・フェニックス)。
彼が三振になり試合が終了となって、すぐに選手たちは帰り始める。
ダニーも自転車でグラウンドを離れたが、自分を尾行している車に気が付いた。
さり気なく立ち止まり、逆方法に走り出すダニー。
空き地で自転車を捨て、弟(           ジョナス・アブリー)を家から連れ出す。
彼らは父母(ジャド・ハーシュ、クリスティーン・ラーチ)を待ち、父が運転するバンの車中へ乗り込む。
そのまま一家は家を捨てて逃げ出した。
実はダニーの父母はお尋ね者だった。
1970年代にナパーム弾製造に関わる施設を爆破し、警備員を障害者にさせていた。
以来彼らは支援者の地下組織に頼って逃亡生活を続けていたのだ。
その事件の時にダニーは2歳で、彼にとっては逃亡こそが生活そのものだった。
やがて、一家は組織のお陰で新しい身分証明書を得て、ニュージャージーの小さな田舎に落ち着いた。
ダニーも転校生として新しい学校へ。
長男のダニーは、この地の学校で音楽教師のフィリップス(エド・クロウリー)に才能を認められた。
フィリップスはぜひジュリアード・スクールを受験するようにダニーに勧めたのだが、父母がお尋ね者である彼にはそれは不可能だった。
一方、その教師の家に招かれた際、ダニーは教師の娘・ローナ(マーサ・プリンプトン)と知り合い、やがて恋愛関係に陥った。
彼女を自分の家のパーティに呼び、一緒にダンスをするダニー。
ローナへの愛が深まるにつれ、自分の秘密を隠しているのが苦しくなり、ついに彼は家庭の事情を打ち明けた。


寸評
アーサーとアニーのホープ夫妻は元過激派で、爆破事件を起こし警備員を失明させていてFBに追われている。
冒頭でダニーが尾行され、弟を連れ出して両親のところへ行き、”車が2台、FBIが4人”と告げて逃亡を図るまでのスピーディな演出で一気に緊張感を高めている。
ダニーとハリーの兄弟を含めた一家4人は逃亡生活を余儀なくされているのだが家族の結束は強い。
兄のダニーはしっかり者だし、弟のハリーは小さいながらも明るいひょうきん者で、父親が時々強権的になることはあるが総じて明るい家庭である。
母親の誕生日パーティのシーンなどは、見ているこちらがウキウキしてしまう雰囲気がにじみ出ている。
制作時期的にベトナム戦争への反省も見受けられるが、本筋は成長していく少年と家族の絆を描いた作品だ。
一家は逃亡生活に慣れているのか、FBIの影が近づいていると知るや全てを捨て去り逃亡する行動が素早い。
子供たちもその行為に疑問を感じていない。
父親は指名手配されているために母親の死にも立ち合えなかった。
彼にとっては家族だけが生き甲斐であり、ダニーに言わせれば家族がいないと生きていけない人で、子供のダニーが支えてあげないといけない人なのだ。
だからと言って父親はダメな人間ではなく、逃亡先ではシェフの仕事を見つけてきて働き、母親も看護婦などをして外形的にはごく普通の家庭である。
逃亡生活なので転居は何度もあり、その度に子供たちは転校を余儀なくされて名前も変えている。
そんな生活なのにダニーは転校先で存在感を示し続けているようだ。
父親も逃亡先で労働組合を組織したりしているので、この家族は優秀な一家なのだ。
新しい高校に通うようになったダニー少年は家族と恋人と自分の夢の中で揺れ動くようになる。
ダニーを演じたリヴァー・フェニックスによる等身大の演技はリアル感がある。

自分の立場を表明できないもどかしさが次々と描かれていく。
転校するにも前の学校の証明書は引っ越しで失くしてしまったとウソをつかねばならない。
大学への進路希望を聞かれてもあいまいな答えしか言えない。
ローナといい仲になっても一線を越えることができない。
脚本は細かいところにも配慮していてホロリとさせられる。
ダニーはピザ配達を装って祖母の家を訪ねるがそこでは何も起きない。
何も起きなかった祖母との対面は、アニーが父親と対面するときのやり取りにおける補足となっている。
母親もピアノの才能に恵まれていて、ダニーの才能は母親によってもたらされたように感じさせる。
両親がそうであったように、自分も両親が味わった気持ちを持つだろうことなどを、それとなく描いている。
母親はハリーの独り立ちを待って自首する気持ちを固めたようだ。
父親もかつての仲間の死を知って、自分の末路を感じ取ったのかもしれない。
最後の別れに至る原因も、弟を含めた家族と別れる様子も上手い描き方だ。
母親が成績表を偽造すると言っていたが、あの成績表はどうなったのだろうと思ったけれど・・・。
薬物に手を染めたとは言え、リヴァー・フェニックスが23歳の若さで亡くなったのは惜しい。