おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

革命児サパタ

2022-04-29 07:32:41 | 映画
「革命児サパタ」 1952年 アメリカ


監督 エリア・カザン
出演 マーロン・ブランド
   ジーン・ピータース
   アンソニー・クイン
   ジョセフ・ワイズマン
   マーゴ
   ミルドレッド・ダンノック

ストーリー
1911年、ダイアス大統領の圧政に苦しんでいたメキシコ農民の中に、エミリアノ・サパタという青年がいた。
彼は土地問題でお尋ね者となったため、兄ユーフェミオ、友人パブロとその女ソルダデラを連れて山に隠れたところ、ある日フェルナンドという男からテキサスに住む革命家マデロのことを聞かされた。
サパタは自から革命に乗り出す気はなかったが、マデロには惹かれるものを感じてパブロをテキサスに送る。
サパタはかねて町の豪商の娘ホセファと相愛の仲であったが職のないお尋ね者では女の親が許すはずもなく、彼は歓心を買うため金持ちの牧場に雇われることになった。
この働きが賞でられて、やがて彼は警察の追求も解けた。
ホセファとも対等の立場に立つようになった頃、パブロの手引きで彼はマデロと会見した。
計画によるとサパタとマデロが南北呼応して立てば革命は成就するはずだったが、サパタは固く断った。
しかし、偶然の事故から彼は再びお尋ね者となり、官憲に捕らわれた。
兄やパブロらが民衆の助けで彼を救ったことが革命の口火となり、ついにサパタは同志の協力を得て南部一帯を征圧し、北からはマデロが首都に攻め入った。
メキシコが民衆の手に帰した時、サパタはホセファと結婚した。
平和主義者のマデロの意向によりサパタは武装を解除したが、その隙を見てフェタ将軍が裏切りを行ない、マデロは暗殺された。
サパタはフェタ将軍を倒したものの、この事件はパブロとマデロによる自分をおとしいれる罠であったと邪推し、パブロを殺害した。
彼は大統領に推されたが、兄ユーフェミオは権力に敗れ非業の死をとげた。
かねてサパタを亡きものにしようとしていたフェルナンドは、彼の留守中サパタ討伐軍を起こした。


寸評
この作品は1952年の制作であるが、その年は赤狩りの嵐が吹き荒れており、エリア・カザンはそれまでの姿勢を一転させて数人の友人が共産党員であることを暴露し、尚かつ“NYタイムズ”紙に“自分は共産党員ではない!”と、自費広告まで出して物議を醸した年でもある。
40年近く経ったアカデミー名誉賞受賞の折りにも式場にいた半数の映画関係者が拍手もしなかったから、彼への恨みと非難は根深いものがある。
僕は当時のいきさつを全く知らなかったのでエリア・カザンそのものは評価している。
「欲望という名の電車」、「波止場」、「エデンの東」などの作品を手掛けているからだ。
マーロン・ブランド、ジェームス・ディーン、ウォーレン・ビューティなどを見出したのもカザンである。
マーロン・ブランドはすでに「欲望という名の電車」でカザンと組んでいるが、ここでのブランドもなかなかいい。
僕は「逃亡地帯」でマーロン・ブランドを知り、「エデンの東」のリバイバル上映でカザンを知って、1969年の「アレンジメント/愛の旋律」が最後の出会いとなった。

その後に本作を見ることになったのだが、エリア・カザンらしさは随所に出ていたと思う。
すごいスペクタクル・シーンでもないのだがハッとする美的構図で観客を引き付ける才能を持っている。
サパタたちが列車を襲って武器と弾薬を奪うシーンでの、転覆させた列車の屋根などに乗って喚起する反乱軍兵士を捉えたショットなどは美しいし、ラストの凄まじい射殺シーンの堂々たる構図とカッティングの妙が印象的だ。
連行されるサパタのもとに農民たちが集まってくるシーンなども近景、遠景を取り混ぜて感動を呼ぶ。

それらのシーンに比べると脚本は見劣りがする。
描くべきところを描き切れていないような気がするのだ。
サパタは名家の出らしいが今は貧しく文字も読めない。
罪に問われた彼は裕福な家の使用人となり、そこの主人の釈放運動により自由の身となっているのだが、その経緯などはあまり描かれていない。
資産のなさからホセファの父に結婚を反対されていたところ、サパタが将軍になったことで急に結婚が整うのだが、結婚の儀式の長さに比べれば、そこに至る様子は全く描かれていない。
兄ユーフェミオの土地略奪の件も結末だけで、そうしなければならなかった事情などはユーフェミオの主張で説明されているだけだ。
省くべきところを省けばそのあたりのことをもう少し描き込めたのではないかと思う。

フェルナンドという訳の分からない男が重要な人物となっていくのだが、彼の野望とかマデロとの関係とかが描かれていないので、たんなる戦争好きの男なのかと思ってしまう。
敵軍に農民たちの信仰の深さを語らせ、サパタは生き延び山にいて、いつでも自分達を守っていてくれるのだと思わせるラストは良かったのだから、もう少し丁寧に描いていればなという思いは残った。
これはカザンの演出が悪いと言うよりも脚本そのものに問題があったのではないかと思う。
しかしそれでも僕にとってはカザンとブランドのコンビ作品ということで懐かしさを覚える作品となっている。